アリスの名と白兎の欠点
「ところでさ、五年前から気になってたんだけど、なんで『真白』?」
ラピスは足を止めて振り返る。少し開けた場所に出ていた。
「……俺さ、アムル人なんだけど、ハナで育ったんだ。で、産まれたのはアムル。つまり、戸籍2つ持ってて名前が2つある」
自分の頭を指し、それから人差し指と中指をたてた。
「うん」
「亜名が"アリス"。華名が"有守"」
「…うん?」
アリスの言うことをあまり理解できないラピスは眉間にシワを寄せる。アリスが言うことはこの国の人が殆ど知ってることだ。アリスは、英雄だから。
「あの頃の俺は祖国の華字じゃないと落ち着かなくてさ」
アリスは遠くを見て懐かしむように目を細めた。それにつられてラピスも目を細める。
風に吹かれて二人の髪が靡いた。
ーーこれも知ってるんだけど…。
「それで?」
ラピスは急かす。無意識の内に急かしている。ラピスの性格はせっかち。
変わらないなぁ、と感じながら説明を続ける。
「まあ、自分に分かりやすくしたかったんだな。真っ白い外見と華字で、『真白』。今でもさ、真白の方が呼びやすいよ」
腕を組んで片目を閉じる。そしてラピスにわかった?と言った。
再び歩き出す。
「ふぅむ。僕も名前が2つあることになるんだね。
あ、そうだ!姓も決めてよっ!」
長年の疑問がわかってスッキリしたラピスは人差し指をたてて提案した。
どうせなら、名前だけでなく姓もほしい。そうラピスは言った。
「良いけど?」
快くアリスは引き受け、ラピスを見て考えを巡らせる。
ラピスの外見は、一言で言うとそのまんま白兎だ。
白髪に、白い耳と尻。白兎特有の赤い瞳。初雪のように白い肌に映えるピンクの唇。華奢な体に少し大きめのブラウスがラピスの手を3分の1隠している。背は小さめ。
ーーその外見から華字で、姓を。むかしの俺らしく。
「んー……雪風って言うのはどうだ?」
「ゆきかぜ?それってどう書くの?」
「こう」
近くの木の枝で地面に華字で雪、風、真、白と書く。その横に亜字で読みを書く。
「なんかさ、雪みたいに白いし風のように軽いだろ?真白って。だから」
「雪風真白…綺麗な名前…アリス、ありがとっ!」
「いえいえ」
飛び跳ねながら喜ぶラピスに暖かい気持ちが胸を満たす。アリスは微笑んでいた。
ーーほんとに、いい友をもったな。
だが、楽しんでばかりはいられまい。
「…ところでさ」
アリスの微笑みは苦笑に変わっていた。それを見てラピスはハッとする。忘れていた……。
そしてアリスは口にする。
「ここ、どこ?」
と。