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姫騎士と企み(下)

 子犬は直人の後頭部に全身を使ってしがみついていた。頭を頭頂部にのせてだらっとしている。

 その直人は縁側にしゃがみ込んで、何かを作っていた。そこそこの大きさの板に簡易的な車輪を四つくっつけた、引っ張るための紐を取り付けただけの、台車らしきものができあがる。

 この場にソフィアでもいれば、今までのものに比べれば手抜きで変哲がない、という感想が出ていただろう。


「よし、これでいいかな」


 台車を手で押して前後に転がし、車輪の調子を確認する。そしてキッチンの隅っこに置かれている、子犬の寝床であるみかん箱を持って、台車の上にのせる。


「わう?」


 頭の上で不思議そうに頭を動かす子犬。


「わんこ、散歩行こっか?」

「わん!」


 子犬は大喜びで、よじよじと直人の頭から地面に降り、足元に座ってつぶらな瞳を輝かせて見上げてくる。

 それを抱き上げ、みかん箱の中、台車の上に載せてやった。


「わう?」


 再び、不思議そうな顔をする子犬。散歩じゃなかったの? という顔だ。


「そらー、キャンピングカーだ」


 高いテンションで、子犬とその寝床を載せた台車を引っ張って、歩き出した。

 がらがらがら、台車を引いた直人がのんびりと歩き出した。

 秋晴れの下、のんびりした時間。


「そういえば、キャンピングカーから離れる事ってあまりなかったな。いや、もしかしてはじめてか?」


 そういいながら、脳内にディーラーで納車してからの事を思い出す。この世界にやってきてからあっちこっちに旅をしたが、キャンピングカーから出る事自体ほとんどない。半径十メートルから離れる事自体はじめてかもしれない。


「……」


 直人は穏やかな顔で空を見上げた。白い雲、青い空。

 澄み渡って、どこまでも広がる青い空。

 鼻歌を口ずさむ。ビックリするくらい穏やかな気持ちだ。


「わんわん!」

「おー、楽しいかわんこ」

「わん!」


 子犬がみかん箱から飛び降りた。どうしたんだろうと思っていると、台車が止まったために垂れて地面に降りてきた紐をくわえつつ、直人の足を頭で押した。


「台車に乗れって事か?」

「わん!」

「そかそか、じゃあはい」


 紐を子犬に預けて、直人はみかん箱を持ち上げて、台車の上に乗った。

 簡易的に作ったものなので、壊さないように体重をあまりかけないよう心がけた。


「出発進行だ!」

「わん!」


 喜び勇んで、紐をくわえて歩き出す。まるで犬そりの様に直人を引っ張ろうとするが――当然ながら動かない。小柄なミミが抱きかかえられる更に小柄な子犬である。ほとんど体重をかけていないとはいえ、直人を引っ張る事など到底不可能である。

 それでも子犬は引っ張ろうとするが、足を滑らせ、ペチャ、という感じで地面に突っ伏して、目をバッテンのようにしてしまう。


「くぅーん」


 切なそうな顔で直人を見る。直人は子犬の頭を撫でてやり、みかん箱をおいた。


「ちょっと待ってなー」


 その場に子犬を待たせて、キャンピングカーに戻って紙を一枚とって、歩きながら紙相撲の人形を折って、みかん箱に入れた。


「代わりにこれを載せてってくれー」


 子犬はみかん箱に入った紙相撲の人形と直人を見比べて、それから大喜びで鳴いた。

 そして、散歩を再開する。

 犬ぞりのキャンピングカーと紙相撲の人形。並走する直人。

 一人と一匹が、のんびり散歩した。


「わんこー、変わろうか」

「わん!」


 子犬がみかん箱に飛び乗って、わくわく瞳で直人を見上げる。手放して紐を取って、ガラガラガラ、と台車を引いて、来た道を引き返す。

 散歩の復路も穏やかなものだった。空も、遠くの景色も、生い茂る木々も、果ては小石が転がっている道さえも。

 全てが明るく見えた。

 ふと、子犬が台車の上、みかん箱の中でうつらうつらしているのが見えた。それさえも、直人を穏やかな気分にさせる。

 たっぷりと三十分ほど時間をかけて散歩して、キャンピングカーが見える所まで戻ってきた。


「向こうも戻ってきたか」


 視線の先、キャンピングカーの横で全員が何かをしていた。赤の姫騎士と黒の魔神、緑の幼女に桜色のオッパイ。

 全員が揃っていて、縁側の先で何かをしている。


「何してるんだろうな」


 ようやく彼女らの企みがわかるのかな、と、独りごちながら戻っていく。


「あっ、お兄ちゃんが帰ってきた」


 直人を一番に見つけたミミがトタタタと駆けよってきた。その足音に起こされた子犬がみかん箱から出て、ミミに飛びつく。

 ミミは子犬を受け止めてだっこして、直人を見上げる。


「お帰り、お兄ちゃん」

「おう、みんなも帰ってみるみたいだな」

「うん」

「もういいのか?」

「オゴ♪ 準備は出来たよ」

「そうか」


 ミミの頭を撫でてやりながら、一緒になって、みんなの元に戻った。彼が帰って来たことを気づいた全員がこっちを向き、にこやかな表情を見せている。


「ただいま」

「お帰りなさいませ、マスター」

「もういいのか?」

「もういいって、気づいてたのか」


 驚くソフィア。


「あれで気づかない方がどうかしてる。みんな何か企んでるのがバレバレだよ」

「あなたのせいですわ」

「お前のせいだ」


 いつも通りいがみ合いをはじめるソフィアとティアをスルーして、パトリシアに向かって聞く。


「で、何だったんだ?」

「誕生日です。皆さんでお祝いの準備をしていました」

「へえ、誕生日パーティーって事か。だれのだ?」

「マスターのです」

「……おれ?」


 キョトン、としてしまう直人。あまりにも予想外過ぎる答えに理解が追いつかなかった。


「はい、マスターです」

「え? 待て待て、誕生日って、えっ? おれの?」


 あたふたとしてしまう直人。


「なんだナオト、自分の誕生日も覚えていないのか?」

「覚えていないというか……」


 すっかり忘れていた直人である。誕生日なんてここ十年くらい思い出した事がない。

 そういえばそんな時期か、とまわりの秋めいた風景を見て納得する。


「そういえばそんな時期だったか。いやそれより、なんであんたらがおれの誕生日をしってるんだ? 一回も言ったことないぞ」


 何しろ自分が忘れていたくらいだ、と彼女達に聞く。


「これです」


 パトリシアが直人の財布をすぅ、と差し出した。この世界にやってきてからスマホ以上に無用で、適当にキャンピングカーのどこかに放ったらかしにしていた財布だ。


「マスターの免許証を拝見して知りました」

「なるほど、それでか」

「それで、皆様に相談して、マスターの誕生日を一緒に祝おうと」

「お兄ちゃん、これ。誕生日おめでと」


 ミミがそう言って、花の冠を差し出してきた。

 使っている花は違うが、春先に彼女に作ってやった、シロツメクサの花冠と同じ作りのものだ。

 直人はしゃがみ、ミミが花冠を頭にのせてくれた。


「ミミが作ったのか」

「うん! お兄ちゃんに教えてもらったのを作ってみた」

「ありがとうなー」

「わたしからはこれだ」


 ソフィアが泥の塊を取り出した。それをぱかっとわって、中から葉っぱに包まれた肉の塊が出てくる。


「恐竜のしっぽ、包み焼きか。なんかいい香りがするな」

「よく分かったな、この葉っぱがみそだ。ナオトが前に作ったリンゴの茶葉焼きを参考にして、香りのする葉っぱを取ってきて組み合わせた」

「やるなお前」

「当然だ」


 ソフィアが胸を張る。


「ごほん! わたしからはこれを」


 ティアがパチンと指を鳴らし、地面から魔法陣が出現する。そこからズズズ、とこたつの様なものが出てきた。


「こたつ、それも掘りごたつじゃないか」


 出てきたこたつはその下の地面が窪んでいた。


「こたつを全員ではいると足が邪魔で入りきらない時があるじゃない? それもこれなら全員で――ってもうあるのこういうものが」

「ああ、ちゃんとある」

「ぷっ、自信満々に『すごいもの思いついた』と言ってたのに……恥ずかしいやつめ」

「うっ」

「いやいやすごいよ。何も言わないでこれを思いつくなんて……あっ、これはなんかの石か?」

「そ、そうよ。サンライクっていう名前の鉱石。夏の間熱をすって地下にできる結晶体。掘り出すとゆっくり熱を放出するから、普段は冬の暖房用に使われるものよ」

「へえ。異世界掘りごたつってところか」


 直人は感心した。

 その後も、彼女達は様々なものを見せてくれた。

 いずれも直人が今までつくったり、見せたりしたのをアレンジしたものばかりだ。

 掘りごたつの上に並べられたごちそうと、様々なプレゼント。

 出そろった後、ソフィア、ミミ、ティア、子犬らがまじまじと直人を見た。

 何か感想を、という視線をむけてきている。


「……」


 何か言わなきゃ、と思った。

 皆の気持ちが嬉しくて、何か言わないとと思うが、何も出てこない。

 誕生日を祝ってもらったのっていつぶりだろうか、ほとんど思い出せないほど久しぶりのことだ。

 嬉しくて、ほっこりして、つい涙腺が緩んだ。


「みんな……ありがとう」


 それでもなんとか、礼の言葉だけを絞り出した。

 そう言って、みんなを見回す。

 鎧姿のソフィア。

 子犬をだっこしているミミ。

 宙に浮かんでいるティア。

 スマホを構えているパトリシア。

 全員が――、

「スマホ?」


 キョトン、となった直人。パトリシアはスマホを構えて、レンズをこっちにむけている。


「パトリシア……お前まさか」

「ふふふ」

「引っかかったなナオト」


 不敵に笑うソフィアとティア。彼女達の笑みを見て、直人の背中から汗がどばっと噴き出した。

 そこに、パトリシアがスマホを操作し、画面を見せてくる。


『みんな……ありがとう』


 画面の中に、感涙している直人がうつっていた。


「うわあああああああ」


 顔から火を噴くような気持ちになった。


「消して消して、それをすぐに消してくれ」

「パトリシア、編集はできるの?」

「はい、お任せ下さい」

「やめてくれー」


 彼女達にしたことを、彼女達にやり返される。

 直人の絶叫と女達の笑い声に包まれる中、誕生日パーティーが始まったのだった。

『犬小屋 キャンピングカー』で画像検索してみて下さい、すばらしく可愛くてほっこりする画像が出てきます。

それを見て、今回の前半部分、犬ぞりキャンピングカーを書きました。


ここで宣伝。姫騎士とキャンピングカー第一巻、9月1日に発売予定です。

ほっこりを更に増幅するすばらしいイラストの数々を描いていただけましたので、よろしければ是非手に取ってみて下さい。

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