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姫騎士とキャンピングカー  作者: 三木なずな
第三章

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姫騎士とドット絵

「おにーちゃん」


 昼下がりのキャンピングカー。部屋の中でソフィアと一緒にまったりしていると、遊びに出かけたミミの呼ぶ声が聞こえた。

 彼女にしては珍しく困った、助けを求める声だ。

 縁側から外に出ると、泣きそうな顔をしている少女の姿が見えた。


「どうしたんだ?」

「これ、いっぱいくっついたの」

「これって……ああ、ひっつき虫か」

「ひっつき虫?」


 一緒に出てきたソフィアが訝しむ。


「ああ、センタングサっていうのかな、たしか。子供のころはずっとくっつき虫って呼んでた」

「たしかにくっついてるな」


 頷くソフィア。

 改めてミミを見ると、可愛らしい若草色のワンピースの至る所に、カプセル状のつぼみがいくつもくっついていた。

 直人はそれを取って、まじまじと眺める。


「懐かしいなあ」

「懐かしい?」

「子供のころよくこれで遊んだんだ。……えい」


 センタングサをしばし眺めてから、直人はそれをソフィアに投げつけた。小さな蕾はひょろひょろととんでいき、ソフィアのスカートにあたった。

 そのままピタッ、とくっついてしまう。


「ああっ、な、何するんだナオト」

「こんな感じで遊んでた。みんなでいっぱい集めて、それを投げつけ合って。最終的に一番多く体にくっついたの子がひっつき虫だ」

「ひっつき虫なの?」

「そう。だから今だとミミがひっつき虫だ」

「おー……」


 ミミは自分の服にくっついてるセンタングサをまじまじと見つめた。

 さっきまでは助けを求める声を出していたのだが、直人の説明をきっかけに瞳を輝かせるようになって、なにやら楽しくなってきた様子だ。

 自分にくっついてるセンタングサを全部とって、手のひらに集めると。


「わんちゃん」

「わう?」


 ミミに呼ばれて、みかん箱からキャンピングカーの外に出てくる子犬。

 つぶらな瞳でミミの足元に座って、舌を出したまま見上げた。


「オゴ♪」


 鳴き声と共に、手のひらのセンタングサを放り投げた。大量のつぼみが雨あられのごとく子犬に降り注ぎ、毛皮に、そして首元に巻いているスカーフにくっついた。


「きゃん! くぅーん……」


 センタングサをくっつけられた子犬は前足を使いそれをとろうとするが、上手くいかなかった。剥がそうとしても毛皮の上でころころ場所を移すだけでとれないセンタングサに悪戦苦闘し、やがて切なげな瞳でミミを見上げた。


「わーい、わんちゃんひっつき虫だ」

「あはは、そうだな」


 直人は子犬にくっついたつぼみを一つずつとってあげた。

 その間にミミはとたたたとどこかに駆けていき、大量のセンタングサをもって戻ってきた。

 それをソフィアに差し出して、言った。


「ねえねえお姉ちゃん、勝負しよう?」

「勝負?」

「うん! どっちがひっつき虫になるか、勝負」

「ああ、投げ合うってことだな」

「オゴ♪」

「よし、やろう」


 ソフィアは即答し、ミミから半分くらいのセンタングサを受け取った。


「ナオト、号令よろしく」

「はいよ。レディ……ゴー!」


 直人の号令の後、ソフィアとミミは互いにセンタングサの投げ合いをはじめた。投げたり、よけたり、くっついたり。あっという間に、二人の体に大量のセンタングサがくっついてしまう。

 手持ちのものを投げ尽くしたので、二人は一緒に、新しく取りに行った。

 そして取ったそばから投げあっているのか、姿は見えず、楽しい声だけが聞こえてくる。


「くぅーん」

「あはは、わんこは災難だったな」


 子犬は切なげな顔のまま、とぼとぼとキャンピングカーに戻っていき、みかん箱に入った。あまりにもかわいそうだったので、あとで何か美味しいものでも作ってやろうかと直人は思う。

 思いながら、手元のセンタングサを見る。

 子供の頃はこれを使って戦争ごっこをした。子供のネーミングセンスでそう呼んだが、今にして思えばサバイバルごっこだ。

 ソフィアがミミがまさにやっているそれをもっと大人数でやって、チームでわかれてもっとわいわいやった。

 それは楽しかった、今やってもきっと楽しい。

 たのしいけど。


「これでなんか出来ないかなあ……」


 センタングサをもって、自分のズボンにペタ、ペタとくっつけながら思った。

 パトリシアやティア、なんなら子犬も更に巻き込んで、二チームにわかれて戦争ごっこをするのも楽しいが、なんかもっと出来ないかと考える。

 ふと、ひらめいた。

 ズボンにくっついているセンタングサをみて、ある事を思いついたのだ。

 声をする方向に向かっていく。大量のセンタングサが生えている野原で、楽しそうに追いかけっこしながらつぼみを投げあう二人がみえた。

 それを邪魔せず、直人は服にくっつかないように、慎重にセンタングサをいくつももいで、それをもってキャンピングカーに戻ってきた。

 そして車の中に入り、タンスから今度は白いタオルをもって、センタングサと共にこたつテーブルの上に並べた。


「くぅーん……」


 みかん箱の中から、切なそうな声が聞こえる。子犬は顔だけを出して、おそるおそる様子を伺ってくる。


「あはは、だいじょうぶだ。わんこにはくっつけないから」

「わう?」

「ちょっと待ってな」


 直人はそういい、タオルの上にセンタングサをくっつけていった。

 一つずつ、丁寧に。

 頭の中に浮かんだものにそって、タオルの上にくっつけていった。


「……よし、出来た」


 タオルをとって、広げる。


「わん!」


 いつの間にか子犬がそばにやってきて、直人が広げたタオルを見上げながら鳴いた。


「どうだわんこー、似てるか?」

「わんわん!」

「そっかそっか、似てるか。まっ、特徴がはっきりしてるからな、描きやすいんだ」

「わん!」

「今度は――」

「お兄ちゃん、一緒にあそぼーってあれ、お兄ちゃん何してるの?」


 キャンピングカーの中に戻ってきたミミが訝しんで聞いてきた。

 いいタイミングに戻ってきた、と直人は思い、広げたタオルを彼女に見せた。


「これ、なーんだ」

「これ……お姉ちゃん?」

「そうだ。ソフィアの顔だ」


 直人がタオルにしたのはお絵かき。センタングサを使ったドット絵を描いたのだ。

 三十二×三十二と定めたキャンパスに、デフォルメされた長髪の姫騎士が描かれている。

 色こそつける事はできなかったが、特徴を捉えた、ソフィアによく似ている絵だ。


「オゴ♪ 何これ、お兄ちゃんすごい」

「ミミ、ナオトはなんて――むっ、それはなんだナオト」

「あんた」

「わたし……ああ、絵を描いたのか」

「そう、ドット絵っていうんだ。点の数が少ないタイプの点描、とでもいうのかな」

「へえ、たいしたものだ」

「ちなみに……」


 直人はタオルからセンタングサを一度全部とって、それから並べ直した。

 五分もしないうちに、今度はミミの顔がデフォルメされてそこに現われた。


「オゴオゴ♪」

「ミミか、似てるな」

「さらに」


 ミミのワンピースにくっついたセンタングサを全部とって、お腹の辺りに並べ直した。


「わんちゃんだ!」

「わん!」


 ミミのワンピースに、舌をだした子犬の顔がドットで描かれる。


「器用なものだな」

「そうかな」

「ねえねえお兄ちゃん、あたしもお絵かきしたい!」

「いいぞー、じゃあ新しいタオルを」

「わんちゃん!」


 ミミは子犬を呼び、だきあげた。その毛皮にぽちっ、ぽちっとセンタングサをくっつけていく。


「くぅーん……くぅーん」


 子犬が鳴いた。悲しそうでありながら、どこか楽しみにしているような複雑な顔をしている。

 またセンタングサをくっつけられるのは悲しいが、ミミの服に描かれている自分の顔をみて期待する、という感じだ。

 直人とソフィアはミミを見守った。さて何を書くのだろうか、と期待する。

 やがて、それができあがる。


「できたー、ウンコ!」


 それを見た直人とソフィアは一斉に吹き出した。子供らしい発想とチョイスについつい笑ってしまったのだ。


「……くぅーん」


 しかし、子供らしい落書きを体にされた子犬は、この日一番の悲しい顔をしたのだった。

9月1日発売予定の姫騎士とキャンピングカー第一巻、スニーカー文庫公式ツイッターにて新しい情報が公開されました。キャンピングカーの平面図で。

下のURLか、スニーカー文庫公式ツイッターへごアクセス下さい。


https://twitter.com/kadokawasneaker/status/631834677091790849

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