姫騎士と雑コラ
書籍化に合わせて、ソフィアの一人称を変更いたします。
ご了承下さい。
止まってるキャンピングカー、コタツを囲む直人、ソフィア、ティアの三人。
適当にのんびりしていた所に、直人は久しぶりにスマホを手にとって、画面をタッチして、目的もなく操作していた。
「ナオト、それなに?」
ティアが物珍しそうに画面を覗き込んで、聞いてきた。
「ああ、スマホっていうんだ」
「見た事ないものね、何ができるの?」
「色々できるんだけど……今はほとんど何もできないかもな。通信機能がメインの道具だから」
「そうなんだ」
「まあそれでも、撮影と録音、それの再生くらいは普通に出来るけど」
「撮影と録音?」
「例えば……こんなのかな」
ティアが首をかしげた。実際に例を見せた方が早いだろうと直人は思い、スマホを操作して、動画ファイルの一つを再生した。
画面が切り替わり、寝ぼけたソフィアの姿が映し出される。
『そふぃあじゅうななさい』
「うわあああ、な、ナオト、それを消してなかったのか!」
横でだまって話を聞いていたソフィアが悲鳴を上げた。
画面の中のソフィア、リアルのソフィア。
ティアはそれを交互に見比べて、鼻で笑った。
「……ぷっ」
「な、何がおかしい!」
「なにも? かわいいじゃないの、これ」
「心にもないことをいうなああ!」
「ねえナオト、他にはなにがあるの?」
「そうだな……ああ、これがちょっと前に、ティアがまだいなかった頃のやつかな」
スマホを操作して、今度は写真を表示させた。
キャンピングカーのロフトで、ソフィアがヘソ丸出しで寝ている所を写った写真だ。
額に汗をかき、眉をひそめている。熱くて寝苦しい、という感じの一枚だ。
「うわああああ! なんだそれは、なんだそれはナオト!」
「暑苦しい夜があったんだよな、ちょっと前に。エアコンを入れてたんだけど、途中で切れたんだよな、あの日」
直人の説明をうけつつ、ティアはスマホをみて、ソフィアをみる。
「……ふっ」
「鼻で笑ったな! わたしを鼻でわらったな!」
ソフィアは顔を真っ赤にした。
そんな彼女をみて、直人は徐々に楽しくなってきた。同時に、ティアもそうなのかな? とおもった。
それを確認するために、さらにスマホを操作して、写真をだす。
「こういうのもあるけど」
今度は夕方の縁側で、ミミと子犬が寄り添って昼寝してる写真だ。
それをみて、ティアはつまらなそうにいう。
「これはつまらないわね、普通に可愛らしいだけで」
「だよな」
「だよなってなんだナオト。ええい、それを貸せ、わたしがこの手で――」
「ティア」
「ええ」
直人の目配せに応じるような形で、ティアがパチンと指を鳴らした。すると闇が空中から溶け出して、ソフィアを縛り付けた。
素早い措置をしたティアに親指を立てて、更にスマホをいじる。
「他になにかあったかなあ、そうだ、こんなのもあった。寝てる時の動画だ」
「どんなの?」
「ほら」
動画を再生して、画面をティアに見せる。
そこにソフィアが寝ている時の姿が映し出されて、直後に、動画の中の彼女が口を開いた。
『かるてぃす』
明らかに寝言、だけど意味がまったく不明な寝言だ。
寝相は普通だったものの、言葉が凄まじく意味不明な動画だった。
「かるてぃす? なにそれ」
「さあな」
首をかしげる直人。
動画はそこで終わらなかった、寝ているソフィアはむにゃむにゃしたあと、更につぶやいた。
『かるてぃす、だいほうかい』
「大崩壊するのね」
「するみたいだな」
二人でソフィアをみる。拘束されたソフィアは真っ赤な顔で体をよじって、いやいやする。
「しらない、わたしはそんなの知らない!」
「そりゃあ寝言なんだから、本人は知らないだろうさ」
「そうね。他に何があるの?」
「ご飯食べたあと、口元にソースがついてる写真とか」
「うわああああ」
「寝ぼけてパンじゃなくてパンツかじってる写真とか」
「ぎゃああああ!」
「『くっ、殺せ』五分耐久動画とか」
『くっ、殺せ――くっ、殺せ――くっ、殺せ』
「うわあああ――ってなんだそれ、わたしそんなの知らないぞ」
一瞬だけ絶叫して、キョトンとなってしまうソフィア。
本気で、心当たりがないと言う顔だ。
「ああ、これはおれが編集したものだ。あんたあまり『くっ殺せ』って言ってくれないから」
「あたりまえだあああ!」
「で、少ない素材の中からチョイスして、編集してみた」
「編集、というのはどういうことなの?」
「ああ、こんな感じで。例えば――」
直人はスマホを持ったまま天井を見上げて、思案顔をする。少し考えて、すぐにまとまったので、スマホをいじりだした。
慣れた手つきで、画面をタッチしたり、なぞったりして色々操作していく。
そうすること、一分。
「出来た――再生、ぽちっと」
最後にエンターキーを「たーん」と押すような感じで、スマホの画面をペちっとたたいた。
すると、音声が流れ出す。
『かるてぃす――かるてぃす――かるかるかるかるてぃす』
さきほど、ティア達に見せたソフィアの寝言だった。
それを切り貼りして、途中で調整を加えてDJ調にした。
「こんな感じで、編集加工できたりするんだ」
「あははははははは! ナオトすごい、こんなのすぐに作れるんだ」
「まあな」
「他には他には? もっと何かつくって」
「そうだな、じゃあ軽くいい感じなのを」
直人はちょいちょい、とスマホを操作した。
二枚の写真を合成して、それをティアに見せる。
ベースはさっきのソフィアのヘソ出し写真で、そのヘソの上に子犬が座っているように切り貼りした一枚だ。
「雑コラレベルだけどな」
「へえ、こんなのもできるんだ」
「かわいい……」
ソフィアがわめくのをやめて自分の雑コラ写真を見入った。
直人は更に手を加える。
「ちょちょっといじって……」
「あははは、載ってるのがみかんになった」
「待てナオト、わたしはコタツじゃないぞ」
「さらにこうすると」
「あははは、オークになった。なんか文字もついてる」
「くっ、殺せ。だ」
「くっ!」
「さらにこうすると」
「あはははははオークがいっぱいだ」
「辱めるのやめろおおおお」
絶叫するソフィアに、腹を抱えて大笑いするティア。
直人はしばし、ソフィアと、前に立ち寄った村でとったオーク達の写真を素材に色々コラージュ写真を作った。
「マカンコウサッポウネタもやりたいけど、素材が足りないんだよな。まあそれはおいおい、っと」
「ねえねえナオト、もっと他にない? なんでもいいから、面白いの」
「面白いのか……そうだな……」
直人はスマホを上から下にスワイプさせていき、写真や動画、音声などのメディアファイルを次々と探していった。
ファイルはまだまだたくさんあるけど、この流れで面白い物となるとどうだろうな、と思った。
そう思って画面を操作していくと、画面についた手汗で引っかかり、誤操作した。
予期しないファイルが開かれ、画面が変わり、動画が流れる。
――ピッターン、ピッターン、ピッタンターン。
流れたのは、ティアがずっこけた動画。
同じシーンを繰り返す様に編集された、ネタ動画である。
――ピッターン、ピッターン、ピッタンターン。
沈黙が流れる、キャンピングカーの中に、ずっこけの音が流れ続ける。
「……」
「……」
「すまん手が滑った。みなかったことにしてくれ」
「できないわよ! ちょっと何今の、もう一回見せなさい」
「ふっ」
必死になるティアに、口の端を持ち上げるソフィア。
流れが一瞬で変わってしまっていた。