表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/79

姫騎士とガソリン調達(下)

第3話に張りっぱなしにしてた伏線回収です。

 走行中のキャンピングカー。

 直人が運転席、ソフィアが助手席――なのはいつも通りだが、ソフィアの反対側――直人の右手側にもう一人いた。

 車の中ではなく、窓の向こう、車の外。

 電力でモーターをまわして走るキャンピングカーに、魔力と羽根で飛んで併走する魔人サローティアーズ。

 彼女は羽根を羽ばたかせながら、まったく同じ速度――ぱっと見そこに座ってるかのような同じ速度でついてきていた。


 ちなみにユニコーンはいない。ついて来ようとしたが、ティアの「お座り」と「待て」のコンボで置き去りにされた。

 エロ顔の害獣だが、さすがに哀れみを誘う待遇で、直人はちょっとだけ同情した。


 たがまあそれはどうでもいいことだった。これから調達しに行くガソリンに比べれば大したことではない。

 これでやっとパトリシアのフルスペックを発揮できると、直人はそのことに思いをはせつつティアに改めて聞いた。


「本当に、ガソリンがあるのか?」

「ガソリンという名前は知らないけど、それと同じものは知ってる。花のようないいにおいがして、火をつけたら勢いよく燃えるものでしょ」

「花の様な匂いって初めて聞くけど、確かに花っぽいよな、あのいいにおいって。子供の頃親が給油するときいつもわがまま言って窓を下ろしてもらってたっけ」

「そう」

「しかし、まさかこっちにもガソリンがあったとは……いやあるかも知れないとは思っていたが」

「なあナオト、がそりん……ってなんだ」


 ティアの反対側からソフィアが聞いてきた。

 ティアとは違って、ガソリン(知らない言葉)の言い方が相変わらず片言になってしまう。


「パトリシアを動かすためのエネルギーだ、今は太陽光で何とか動かしてるけど、本来はガソリンがメインなんだ」

「そうなのか」

「ああ、ガソリンさえあれば、パトリシアは本来の力を取り戻すことができる」

「本来の力か」


 おうむ返しにいって、思案顔をするソフィア。


「もしかして、胸が大きくなるのか?」

「……なる」


 (ふた)呼吸ほどの間を開けて、直人は迷いのない口調ではっきりと答えた。

 彼には確信がある、そうなるであろう確信をもっている。


「本来の力を取り戻すってのはつまり完全体になるってことだ。パトリシアはおれの夢そのものだ、その完全体ならおっぱいは大きくなる。おっぱいは人類の夢だからな」

「なるほど」

「更に言えば大きくなるだけじゃないぞ、形も、張りも、全てが数ランク上にランクアップするはずだ。今はただの巨乳だが、ガソリンを入れたら美巨乳になるはずだ」

「なるほどわからん」


 途中までは理解していたはずのソフィアがその理解を放棄した。

 直人の平静だが、内容の濃さが多段加速した弁がそうさせたのだ。

 彼女は代わりにパネルを見て、違う話を切り出した。


「ナオト、電力がそろそろ危険だが、大丈夫なのか?」

「むっ」


 直人はハンドルを握ったままパネルを見た。ソフィアが指摘した通り、電力を示す数値がかなり減っている。デジタルで数値化しているそれは赤い警告色の文字で表示されている。

 このまま走行を続ければ、今晩は電力が使えない夜を送らざるを得ないことになる。

 直人は少し考えて、ティアに再確認した。


「ティア、目的地まであとどれくらいだ?」

「そろそろよ、あの丘を越えたあたりが目的地」

「そこに行けばガソリンはあるのか?」

「間違いなくある。波動をちゃんと感じる」


 ティアは迷いのない口調で答えた。

 ガソリンの波動がどういうものなのか彼にはわからないが、魔人である彼女にだけ感じる何かがあるのだろう。

 そこまで行けばガソリンが手に入るのならばと、指摘したソフィアに答えた。


「あの丘を越えるのはぎりぎりだけど、何とかなる。そこでガソリンが手に入るのならそれで発電出来るから、問題は全部解決する。だからこのままいく」

「なるほど、わかった」


 直人の説明に、バッテリー切れを警告したソフィアが引き下がった。

 直人の説明で、ガソリンさえ手に入れば問題ない、という事を彼女もしっかり理解した様子だ。


 そのまま運転を続け、やがてキャンピングカーとティアは丘を越えた。

 そこで、直人はゆっくりと車を止めた。

 そこにあるのは地平線すら見える、見渡す限りの荒野。

 高かった太陽が西に沈みゆき、黄昏が荒野を照らし、えも言われぬ荒廃感を醸し出した。

 それはそれですばらしい景色だと思った、落ち着いたらゆっくりとこの景色を眺める時間を作ってもいいのかも知れない。

 そんな事を思いながら、ティアに聞いた。


「ついたぞ、ガソリンはどこにあるんだ?」

「待ってくれ、今おびき出す」

「……おびき出す?」


 ティアの言葉に首をかしげた。

 ガソリンをおびき出す。

 言葉として軽く破綻している言い回しに聞こえてしまう。ティアが言ってる「ガソリン」と自分が思っている「ガソリン」が本当に同じものなのか、すこし不安になってきた。


「あんた、車を降りなさい」

「わたくしか? 何故だ」

「いいから降りろ小娘」


 魔人は姫騎士に向かって命令口調で言った。

 はじめてあったときから、彼女はちょくちょくこういう口調をする時がある。


 急な命令にソフィアは首をかしげたが、それでも言われた通り助手席からおりて、ティアの前に立った。

 魔人と姫騎士、二人の間に何故か緊張感が高まる。

 遅れて車から降りた直人、固唾をのんで二人を見守った。

 ティアは目の前に立ったソフィアをまじまじと見つめて、その周りをぐるりと一周した。


 ピターン!


 一周して正面に戻ってきた所で、またしてもずっこけて、顔から地面に突っ込んだ。

 サッと顔を上げて涙目で直人をにらんできたが、それを予想した彼は直前に視線をそらし、わざとらしく口笛を吹いた。

 頭の中でずっこけ確率がまた高くなったが、それをいうとガソリンが手に入らなさそうなので、ぐっとこらえた。


「ごほん。やるわよ」

「あ、ああ。なんだかわからないが、とりあえずわかった」


 珍しく自分の事以外(、、、、、、)でうろたえるソフィア。ティアのずっこけ癖がそうさせたのだろう。

 そんな姫騎士の前に立ち、両手をかざすティア。

 左手がまずソフィアの体に触れて、右手が空気を掴んだ。

 すると、ソフィアの体から光の粒子が立ち上り、ティアの体を通して彼女の右手の先に集まっていく。

 やがて、光の粒子が溶け合い、一つになると。


「……分身?」


 それを見た直人が思わず漏らした。

 光の粒子が集まって出来たのはソフィアとまったく同じ姿形をした、もう一人のソフィアと呼んでもさしつかえないような存在。

 直人が知る蝋人形よりも更に精巧な、不気味の谷を越えたうり二つな存在だ。

 作り出したものを見たティアは満足げに微笑み、ソフィアの額にツーと汗が伝った。


「これでよし、これならおびき出せるはずよ」

「まさか……わたくし今ものすごく嫌な予感をしたのだが」

「賢しい姫騎士、あたりよ、それ」

「まて、やめろ、わたくしは――むぐっ」


 ソフィアが何かを言おうとするが、言葉が途中で途切れてしまった。

 ティアに先手を打たれたのだ。魔人がかざした手から黒のオーラが出て、それがロープのようなものになって、姫騎士の体に巻き付き、縛りあげたうえ地面に転がした。

 これが実力の差というものだろうか、「てきぐんのかいめつ」が特技だとのたまう姫騎士が大した抵抗も出来ないまま拘束されてしまう。


「大丈夫、あんたは使わないから。使うのはこっち」

「――ッ」


 縛られたまま抗議するソフィアはしかし無視された。

 ティアは拘束していないソフィアの分身を連れて、飛んでいった。

 離れた所でそれを下ろして、戻ってくる。


「準備出来たわ」

「準備って、あれで何をするんだ?」

「まあ、見てなさい、あの格好ならすぐに現われるはずだから」

「はあ……」

「しかし姫騎士でよかった、女騎士だったらちょっと面倒だったかもね」

「なんか違うのか?」

「女騎士は姫を守るための矜恃があるから堕ちにくいけど、姫騎士はそういうのないからすぐに堕ちるのよ。心当たりない?」

「……あるけど、おい待て、なんかおれまで嫌な予感がしてきたぞ」

「来たわ」


 直人はティアの視線を追って、その先を見た。

 夕焼けに照らされた、何もなかった荒野に微妙な変化が現われていた。

 あらかじめ言われなければ気づかなかったであろう、微妙な変化。

 夕焼けの大地に違う赤が混ざりはじめたのだ。


「あれは?」

「フレイムスライム」

「フレイム……火属性のスライム、ってことか?」

「そう」


 ティアがうなずくのをみて、直人は改めてそれ(、、)を見た。

 正体を聞かされると、よりはっきりとわかる。

 そこには、赤オレンジした軟体動物が大量にうごめいていた。

 ソフィアと出会った直後にも見たスライムとほとんど同じで、色だけが違う存在。

 いかにも火を吐きそうに見えるスライムたち。

 ざっと見た限り、おそらくは100匹近くはある大群だ。


「――っ! ンン!」


 地面に転がされたソフィアは、縛られたまま、まな板の上の鯉の如く跳ねていた。

 ――やめろ、やめてくれ。

 彼女の抗議が聞こえてくるかのような動きだ。

 なんだか嫌な予感がして、直人はティアに聞いた。


「なあティア、おれたちは……ガソリン……を取りに来たんだよな」

「そうよ? あれがガソリンの素」

「ガソリンの素?」

「だから、あれの体液がそれだから」

「え?」

「ほら、始まった」


 ティアが指さした先に、スライムとソフィアの人形を再び見た。

 ソフィアの形をした人形に、赤オレンジ色のスライムが大量に群がっていった。

 スライムの能力だろうか、服や鎧がみるみる溶けていった。

 そういう風に作られたからか、ソフィアの人形はちょっとだけ抵抗して――すぐに無抵抗になった。

 人形とは違って、オリジナルのソフィアは盛大に暴れた。

 ここにきて、直人はようやく彼女が暴れる理由がわかった。


「お兄ちゃんどうしたの? なんかさわがし――」

「うわあああ、十八歳未満禁止!!!」


 騒ぎを聞きつけたのか、ずっと不思議空間の中にいたミミが顔を出してきた。

 直人は大声をあげて、彼女を不思議空間の中に押し戻した。

 そうしてから戻ってきて、ティアにいった。


「もういいから、あれをやめさせろ」

「え? でも体液だからちゃんとやらせないととれな――」

「体液は体液でもやばい方の体液だろ! あと花の匂いって色々やばいだろ」

「そう?」

「いいからやめさせろ、……やめさせないとこの先何も食べさせないからな」

「え? それは困る!」

「だったら」

「……むぅ、わかった」


 ティアはぶすっとした顔で、手をかざした。

 次の瞬間、ソフィア人形がいる場所を中心にブラックホールが出現し、人形ごとスライムを飲み込んだ。

 それに直人はほっとした。

 あのまま放置していれば分身とは言え、ソフィアに見える人形ががスライムたちに「くっ、殺せ」的な展開になって、大量の体液をその体に浴びていただろう。

 それがガソリンだと、ティアは言うのだ。

 ガソリンはほしいが、それを知ってしまってはもう無理(、、、、)な直人である。

 彼はため息ついて、ティアに聞いた。


「ガソリンは、あれしかないのか?」

「わたしが知る限り、この世界では(、、、、、、)あれでしか手に入らない」

「わかった、じゃあ、もうガソリンは使わない」


 直人はうなずき、はっきりと宣言した。

新しい連載を始めました。

クラスごと転移して、チートスキルを使って異世界JKリフレを開く主人公の話です。

是非下のリンクからどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ