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姫騎士と聖なる害獣

「ミミー? パトリシアが雨降りそうだから中に――」


 明くる日の昼下がり、ミミを探すためキャンピングカーから出てきた直人は目の前の光景に思わず足を止めた。

 キャンピングカーからわずかに離れた木の下に、ミミとユニコーンの姿が見えた。

 ミミは木にもたれ掛かってうとうとしていて、ユニコーンは馬さながらの仕草で地面に寝そべって、ミミの膝の上に


 ミミがユニコーンと居眠り、ユニコーンがミミの膝の上に頭をのせて、やはり寝ている様子だ。

 昼下がりの木陰で昼寝をする幼女と白い馬。

 その光景だけを切り出せば神聖的なシーンに見えるのだが。


「……なんか違うんだよな」


 直人はなんとなくつぶやいた。

 つぶやいたあと、彼は振り向いて、キャンピングカーの縁側を見た。

 神聖的な光景が繰り広げられる一方で、縁側にいたのは姫騎士と子犬だ。

 こちらもやはり昼寝していた。

 縁側の上に短い手足を投げ出して寝ている子犬と、気品と凜々しさを投げ捨ててよだれを垂らしながら寝ている姫騎士。


「こっちだよなあ、やっぱ」


 直人はそうつぶやき、今でも充電を欠かさないスマホを出して、カシャッ、とその光景をカメラに収めた。

 そしてレンズをミミとユニコーンの方にも向けたが。


「……やっぱりいっか」


 なんとなく違う感じがして、彼はスマホをしまった。

 何が違うのかは、自分でも説明しにくいのだが。


「のんきなものね」

「ティア」


 背後からティアに声をかけられた。

 黒のドレスに羽根を展開し、飛んで直人の横にやってきた。

 背中のはねか、あるいは強大な魔力を使って飛んでいるのだが、地面すれすれに飛んでいるので、直人はいつそれをみても「ホバー」という言葉が浮かぶ。

 それをおくびにもださずに、彼女にきく。


「のんきなものって、雨はくるけど、雨くらいは――」

「そうじゃない、あれを見てもなんとも思わないってところがよ」

「あれって、ミミとユニコーンが昼寝してることか?」

「そう」

「それの何が問題なんだ? ユニコーンは清らかな乙女の膝で寝るんだろ?」

「あれを野に放てば、人類が滅ぶとしても?」

「うん?」

「聖害獣ユニコーン、またの名を頑固オヤジ」

「……はい?」


 直人は目を丸くした、ティアの口から出てきた言葉に、理解が追いつけなかった。


「聖……害獣?」

「そう、聖害獣。そっちの世界(、、)でどんな存在なのかはしらないけど、こっちの世界のユニコーンは処女好きをこじらせて、世界中の女の処女を守るって息巻く種族なの」

「へえ、それの何がまずいんだ?」

「……子供が生まれなくなるわよ」


 ティアは冷たい……あきれ果ててものも言えない、そんな目で直人を見た。

 彼女の言葉に、直人はハッとした。


「ああっ! そういうことか!」

「そう、放っておけばユニコーンは世界中に散って女達の処女を護りにいくの。歴史上、それで滅んだ国は十は下らない」

「……まさに害獣だな。でもまあ一匹くらいなら大丈夫だろ」


 ミミとユニコーンの姿をみて、直人はそう言った。

 彼の趣味ではないだけで、ユニコーンがミミの膝の上で乗っている光景はやはり神聖的に見えるものだ。


「この魔人サローティアーズが種族ごと管理してるから、いまこの大陸にいるのはそのエロ馬一匹だけよ」

「……ちなみにあんたが管理してるユニコーンを全部野に放てばどうなる?」

「1000万人の女の処女が生涯守りとおされる」

「……本気で国が滅ぶなそりゃ」


 直人はぞっとした、1000万人も生涯子供が産めないことになったら冗談抜きで国が一つ滅びかねない。出生率低下なんて生やさしい話ではない。

 そう考えると。


「あんたは……救世主みたいなもんだな」

「な、何言ってるの!」


 何気ない……本心からの一言だったが、ティアはそれに強く反応した。

 首筋まで血の色にさせて動揺している。

 まるで雨の日に子犬を助けられた所を子分に見られた番長の様な慌てっぷりだ。


「わたしは魔人、魔人サローティアーズよ。救世主なんて――」

「そうか、ところであれは起こした方がいいよな」

「話聞きなさいよ!」


 必死に弁明を試みるティア。

 直人は密かににやにやしながら、ミミとユニコーン、そして空を見上げた。

 キャンピングカーから出てきた時より、一層黒めいて見える空。

 乾いた砂が湿気と混じり合う、雨の直前によく嗅ぐあの匂いが鼻をくすぐってきた。

 直人にもはっきりと、一雨来そうだとわかる。


「このままだとずぶ濡れになるしな。おーいミミ、中で――」

「あっ、ばか――」


 背後から聞こえてくるティアの、違った意味で焦った声。

 それが何なのかを理解する前に――直人の体に電流が走った。

 もののたとえではない、本物の電流。冬場によくぱちっとくる静電気の百倍くらい強い電流。

 全身がしびれて、地面に膝をつき、そのまま倒れた。


「な――こ――」


 なんだこれは。

 そんな言葉すら出てこないほど、体がしびれている。


「だから言ったのに」

「い――」


 言ってない、と言う言葉も出てこなかった。

 かろうじて目は動くので、必死に動かしてティアを見た。

 ティアは呆れた様な顔でこっちを見ている。


「ユニコーンが乙女の膝で休んでる時は周りに結界を張るのよ。同じ乙女以外を拒絶する結界を」

「しょじょちゅうめ……」


 しびれが少しだけとれて、言葉が出るようになった。

 頑張って立ち上がろうとすると、ティアが更にあきれ顔になる。


「中に入れればいいのね。待ってなさい」


 ティアはそう言って、浮かんだ(ボバー)ままユニコーンに近づいていった。

 気配を感じたのか、ユニコーンは顔を上げた。

 ティアを見て、いななく。いつものエロ顔ではなく、ちょっとだけ不機嫌そうな顔だ。

 まるで「邪魔をするな」と言ってるかのようだ。


「退いて、その子を中に入れる」

「ひひぃーん」

「退いて」

「ひぃ――」


 ユニコーンが更にいななく――が、ドォーン、という轟音が辺りに響き渡った。

 羽根一閃!

 羽ばたくようなティアの羽根がまるでフックの様にユニコーンの顔面をえぐった。

 白い幻獣の体は軽々と、綺麗なアーチを描いて黒める空に消えていった。


「エロ馬のくせに、わたしに楯突くなんて211年早いわよ」


 そう話すティアの顔には威厳すら感じた。

 魔人サローティアーズ、直人ははじめて、その名前の重さを感じた。


「で、この子を中に運べばいいのね」

「ああ、それはおれが――」

「いいわ、コレはサービスよ」


 ティアはそう言って、手をかざしてミミを浮かばせた。

 魔法を使って持ち上げた、そんなイメージだ。

 そうして、くるりとキャンピングカーに振り向き、浮かんで飛び出す――。


 ――ピターン!


 という音が聞こえてきた。

 動き出した次の瞬間、ティアは何かに躓いたかのように転んでしまった。

 前向きに、頭から突っ込んでいく転び方。

 沈黙がおりる、魔人の威厳で引き締まった空気が跡形もなくはじけ飛んだ。


「……サービスか」

「ちがうぅぅぅ! サービスってこれのことじゃない!」


 直人の言葉に、ティアは涙目で必死に否定したのだった。

「ぼくのかんがえた さいきょうの しょじょちゅう」

そんな話でした。

害獣でありますし、なんとなく「世の中の娘は全員嫁にやらん!!!」ってユニコーンさんが叫んでいる、書いててそんな気がしましたw



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書籍版『リアルでレベル上げしたらほぼチートな人生になった』第2巻。

6月24日に発売されます。

今回は第二章を収録、三人目の少女、青葉がハーレム入りするまでを描いた一冊となっております。

何卒よろしくお願いいたします。

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