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姫騎士と略奪婚

 草木が寝静まった夜、キャンピングカーの中。

 静かな屋外とは違って、六畳間和室はかなり賑わっていた。

 直人、ソフィア、ミミ。三人はテレビの前に座っていて、ゲーム機を起動させて、コントローラーを握っている。

 直人は言うまでもなく、順応が早いミミも既にゲーム機そのものに慣れた様子で、ソフィアも前回に比べてコントローラーを握る手つきがかなり様になっている。


「それで、今回はどんなげぇむなのだ?」

「○生ゲームっぽいやつだ、といってあんたらは人○ゲーム自体しらないか」

「じんせいげーむ? それってどういうの?」

「そうだな……すごろくってわかるか?」

「さいころを振って遊ぶゲームのことか?」

「ああ、それはあるんだ」


 なら話は早い、と直人は思った。


「基本はそのすごろくと一緒で、内容はもうちょっと長くて、一人の人生を生まれた時から死ぬまでをやってく感じだ」

「なるほど、だから人生なのか」

「そういうこと、ちなみにさいころを振ってとまるマスの内容はおれがいた国の風習に沿ってるものだから、最初はとまどうかもしれないけど」

「かまわない。どうせナオトは不思議の塊で、わたしにとってしらない事ばかりをつきつけてくるのだ、わからないことの一つや二つ増えた所で今更どうもしない」

「ひどいいいようだな」


 直人はクスリと笑った。


「さて、はじめようか。パトリシアもやるか?」

「わたしはここ、皆さんの応援をします」


 そういって、パトリシアはすー、とこたつテーブルの上に人数分の湯飲みを差し出した。

 ゲームをしてる間雑用係をしている、という意思表示だ。

 実に彼女らしいと直人は思って、無理に誘うことはしなかった。


「じゃあ、三人ではじめるか。三人は中途半端だから、一人コンピュータをいれよう」

「こんぴゅうだ?」

「こいつが人間の代わりに一人分やってくれるって事だ」


 直人はゲーム機をポンポン叩きながら言う。


「こういうとき、形の上だけでも四人の方が収まりがいいんだ」

「そういうものなのか」

「そういうものだ」

「ねえねえ、早くはじめようよ」


 ミミが無邪気に直人を急かした。


「そうだな、はじめよう」


 直人はそう言って、コントローラのスタートボタンを押した。

 ゲームのスタート画面から先に進み、まずはキャラクターのメイキング画面になった。


「おれは……顔認識でキャラクターを作るか」


 直人はそういい、慣れた手つきでコントローラを操作した。

 テレビの上につけられているカメラがパシャ、となった。

 画面内に、直人の顔が取り込まれる。


「すっごーい、お兄ちゃんの顔が絵になった」

「こんなことも出来るのか!」

「ああ、名前は小野直人、生年月日は――」


 顔を作って、名前と生年月日、そして性別とパーソナルデータを入力していく。

 自分の番が終わると、今度はミミとソフィアの分の入力も手伝ってやった。

 日本語がわからないので色々手間取ったが、なんとか無事に二人分のキャラクター作成をすませた。


「さて、後はコンピューターのキャラだが……どれがいいかな」


 直人はそうつぶやきながら、画面をじっと見つめた。

 そこに老若男女様々なキャラクターがあり、どれにするのか迷っていた。

 一つ一つ見ていく内に、カーソルが画面の下にスクロールされ、それまでとひと味違うキャラクターが出てきた。

 具体的に言えば、それまで人間ばかりだったのが、人外のキャラクターが出てきたのだ。


「隠しキャラかな? 天使、悪魔、幽霊ロボット異星人……色々あるな、おっ」


 更にスクロールしていく内に、直人の目にあるキャラがとまった。


「オゴオゴ♪」


 隣に座るミミが、我を忘れて喜びの声を上げた。

 直人が操作するカーソルがとまったそこは、豚面で二足歩行のキャラクターが映っていた。

 まるっきり、オークの様なキャラである。


「ねえお兄ちゃん、この人と一緒に遊びたい」

「そうだな、こいつにしよう」

「あっ」


 ソフィアが何か言いたげだったが、それよりも早く、直人はコントローラで決定ボタンを押した。

 かくして、三人の人間の他にコンピューター操作のオークが四人目として、そのメンバーでゲームがはじまった。

 ゲームは順調に進んでいった。

 人生は幼児時代からはじまり、幼稚園や小中高を経て、四人のキャラクターが様々なイベント通じて成長していく。

 ゲーム的にまったく順調なのだが、ちょっとした偏りがあった。


「くっ、またか! どうなってるのだナオト、こいつまた勝負をしかけてきたぞ」


 ソフィアがエキサイトした口調でいった。

 画面の中ではオークのキャラがソフィアのキャラにミニゲームでの勝負を持ちかけている所だ。

 ゲーム的には、ミニゲームで直接対決を行い、その勝敗によって資産やキャラクターのパラメーターが直接移動するシステムだ。

 どういうわけか、ゲーム開始からオークはずっとソフィアばかりを狙っていた。その結果ゲーム慣れしてないソフィアは負け続けて、その度に資産やパラメータを献上している。

 このミニゲームも、やはりソフィアが負けてしまった。

 負け続けている彼女、資産でもパラメーターでも最下位を独走していた。

 一方で、直人とミミはわいわい楽しく遊んでいた。


「よし、これで大学生卒業したな、職業は……社畜の可能性のあるヤツは避けて……トラック野郎にしよう」

「とらっくやろう? なにそれ」

「こういう車を運転して、荷物を運ぶ仕事だ」

「お兄ちゃんが今してることと一緒だね」

「ああ、そうだな。さて、結婚もそろそろできるが……このゲームってたしかプレイヤー同士の結婚が出来たはずだっけ」

「オゴ♪ あたし、お兄ちゃんと結婚するー」


 ミミは手をあげて、無邪気に言った。

 直人はほっこりした、娘に「お父さんと結婚する」と言われたらこんな気分なのかと思った。


「よし、じゃあおれは結婚しないでミミを待っていよう」

「オゴオゴ♪」


 直人とミミ、二人はパトリシアが淹れてくれた茶とお菓子を摘まみながらわいわいやっていた。

 一方で、最下位を独走しているソフィアは。


「ああ! また勝負を挑まれたぞ!」

「おっ、それはプロポーズイベントだぞソフィア」

「プロポーズイベント?」

「ああ、向こうがあんたと結婚したくて申し込んだ勝負だ。負けたら結婚だぞ」

「まけたら……結婚?」


 ソフィアの顔がサー、と青ざめた。

 顔が画面内にいる、ミニゲームが始まる自分のキャラと、オークのキャラを交互に見比べる。


「負けたら……結婚」


 もう一度、同じ台詞を譫言の様に繰り返した。


「わーい、お姉ちゃん結婚だね」

「……頑張れソフィア」


 ソフィアの手がぷるぷる震えている、今にもコントローラを床にたたきつけそうな剣幕である。


「別にいいんだぞ、挑まれた勝負から逃げても」

「そ、そんな無様な事を出来るか! 見てろ、こんな勝負など――」


 直人の安っぽい挑発に乗って、ソフィアはミニゲームを始めた。

 結果は――当然の如く敗北に終わる。

 YOU LOSEという表示が画面上に出て、直後に、結婚式の画面に切り替わった。

 顔写真取り込みで作ったソフィアそっくりなキャラがウェイディングドレスを着ている。

 その横に立っている、タキシード姿の豚面オーク。

 さらに横で、祝福する直人とミミのキャラ。


「……終わった」


 ソフィアはがっくりと、まるで世界の終わりを迎えたかのような落ち込みようだ。


「おめでとうお姉ちゃん」

「結婚おめでとう」

「もうやだ……」


 涙目になるソフィア。

 それほどうちひしがれる彼女に、直人は笑いをこらえながら、更に言う。


「後は出産だけだな」

「え?」

「子供出産のイベントもあるぞ」

「うそ……だよな」

「いや、だって結婚したんだから子供くらい産むだろ」

「……そんなああああ」


 ソフィアは画面を更に見た。

 結婚した二人は飛行機に乗ってハネムーンに出発し、ホテルの中でシルエットになって朝チュンした。


「しかしなあ、勝負に負けて無理矢理オークの嫁になって出産か」

「くっ」

「まあ、良くある事だよな」


 直人は笑って、言った。

 おそらく、ソフィアと出会ってから一番の笑顔で。

 ソフィアはコントローラを取り落とした。

 真っ白になって、茫然自失した表情で。

 その後、彼女はオークの嫁として、大家族の肝っ玉母ちゃんになったのだった。

負けた姫騎士は無理矢理に嫁にされてしまう……そんなお話。

ゲームを早く上達しないと次も大変な事になりそうだよね、ソフィアちゃん(暗黒微笑)。

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