姫騎士と見取図
砂嵐吹き荒れる中、停車してるキャンピングカー。
砂嵐によって発電量がほぼゼロになり、二重の意味で走れなくなった。
パトリシアとミミと子犬は不思議空間の中にいて、直人とソフィアは六畳間和室にいた。
直人はこたつの上に紙をだして、そこに絵を描いていた。
「ナオト、それはなんだ?」
「これか? これはこのキャンピングカーの見取り図だ」
「見取り図……」
「ほら、これがあそこの運転席、これがこの和室、これがシャワー室……」
きょとんとするソフィアに、直人は紙とオーダーメイドの内装を一つずつ指さして、説明した。
「なるほど、この移動民家の内装を書いたと言う事だな」
「そういうことだ」
「それにしても上手いなナオト、この……見取図? こんな簡単な線でよく分かりやすくかけるものだ」
「分からないんじゃなかったのか」
「そう言うものだと理解すれば途端に分かりやすく感じた」
「なるほど」
直人はうなずいてから胸をはって誇らしげに言った。
「こういうの、子供の頃からさんざん書いてきたからな」
「子供の頃から?」
「そっ。昔からずっとキャンピングカーが好きで、将来はゼッタイキャンピングカーを買うって決めてたからな。学生の頃に独学で建築の見取図の書き方を勉強して、こんな感じで自分の理想のキャンピングカーをいくつも書いてきたんだ」
「いくつもか、他にはどんなものを書いたのだ?」
「そうだな……例えばこんなのがある」
直人は新しい紙をとって、サラサラサラとペンを走らせた。
迷いのない手つきで、新たな見取図が書き上がっていく。
縦長の車体の真ん中に、長方形のパーツが目立つ様に書かれていた。
「これは……この四角いのはなんだ?」
「ベッドだ」
直人が答える。
「ただのベッドじゃないぞ、家族まとめて寝れるキングサイズのベッドだ。で、ベットの横のここに常夜灯、こっちに本棚。後ろは一面の窓ガラス。天蓋付きのベッドも考えたけど、キャンピングカーだからそれはあまり意味がなかった」
説明すると、ソフィアは成る程とうなずいた。
「ふむ、寝室の様なものだな」
「その通り、豪華な寝室だけをのせたキャンピングカーだ、シャワーとかトイレとかキッチンとかそういうの一切なくて、超高級寝室だけをポンとのせたキャンピングカーだ。これの初期バージョンはラブホテルを参考にして書いた」
「らぶほてるとやらはわからないのだが、これは……暮らしにくくないのか?」
「暮らしの利便性を考えてないからな、そもそもモデルがラブホだし。これは簡単な旅行のために使うものなんだよ、彼女が出来たときに、っていうコンセプトだな」
「なるほど」
よく分からないがとりあえずうなずいた、という感じのソフィア。
「他にはどんなのがあるんだ?」
「他は……そうだな、こういうのも考えた」
新しい紙を取り出して、書く。
縦長の車体が二つ分書かれた。
「これは、二台あるということか?」
「いやちがう、一階と二階――二階建てのキャンピングカーだ」
言いながら、「1F」「2F」と書き加えた。
「このはしごみたいなのが階段だ」
「ああ、なるほど。階段ははしごみたいに書くのだな」
「一階はパーティールーム、ちょっと立派なリムジンって感じだな。でもって二階はほら、一面ガラス張りになってるだろ? ああこれはガラス窓って意味だ。こんな感じのラウンジになってて、高い所から夜景を楽しむためのつくりだ」
「ほう?」
「むかし寝台列車をみた時に、全面ガラス張りで走りながら夜景をみられるんなら最高だな、って思った時に考えた構造だ」
「走りながら夜景か……他にはなにかないか?」
「山ほどあるけど……そうだな」
ソフィアの質問に、首をかしげて記憶を探る。
「こんなのはどうだ?」
「これは……さっきのより大きいな、それにまた二階建てだ」
「そうだ」
「二階のここは……円卓か?」
「おっ、読める様になってきたじゃないか」
直人はニヤリと笑った。
「そう、それは円卓、会議用のな。ここの二階は円卓をつけた会議室って事になってる、その下の部屋はプレジデントデスクをつけた、まあ社長室だな」
「ほう?」
「ドアを開けて出たそこは平社員のオフィス、机を六個くらい並べたみた。コンセプトは移動する有限会社、ってことだ」
「なにを言ってるのかわからんが、ようは移動する商会ということか」
「その通り、会社ごと移動したら面白いって思ってな。富豪とかがプライベートジェット持ってるって所からの発想だな。いっそ社員も乗せてしまおう、ってね」
「ほうほう」
「逆にこんなのも考えて見た」
言って、更に書く。
今度はかなり小さめで、内装から推測して一畳程度の広さしかない部屋だ。
「ずいぶん小さなのが出てきたな。ベッドと机があるけど、くっついてるな。このマークはどういう意味だ?」
「ペダルだ!」
「ぺだる?」
曖昧なアクセントでオウム返しする、「ナットー」を彷彿とさせる発音だ。
「ペダルはわからないか、帆船とオールは?」
「それはわかる」
「なら、それで想像してみてくれ。風の力じゃなくて、オールを漕いで走る船と、太陽の力じゃなくてペダルを漕いで走る車だ」
「なるほど」
原理を説明してやると、ソフィアは素直にうなずいた。
「三輪車みたいなのに手作りの皮をかぶせただけのものだ、これは学生時代実際に作ろうと考えたものだ。これなら天気に関係なく足が動く限り走れるすばらしいものだぞ」
「ほかには何かないか?」
「ふふ……キャンピングカーの魅力をそろそろ分かってきたな」
直人はにやりとして、見取図を書いて、ソフィアに次々と「おれがかんがえたさいきょうのキャンピングカー」を教えた。
ソフィアはその都度素直にうなずき、感心した。
そんな反応に直人は気をよくして、考えたものをすべてさらけ出した。
「最後は――これだ!」
さささ、と今までで一番短い時間で見取図を書いた。
縦長の車体には運転席以外、何もついていない。
「これって……なにもないぞ」
「車庫だからな!」
「車庫?」
「そう、キャンピングカーを止めるための車庫、移動車庫って所だな?」
「移動民家の中に移動民家を入れるのか?」
「そうだ、さらに中のキャンピングカーには自転車も乗っける」
「さらに中にいれるのか? 何故そんな事を?」
「ロマンあるじゃないか! 三段階合身! みたいな感じで」
「すまんがそこは分かってやれん」
ソフィアはいった。
「しかし、色々考えてたんだな」
「昔から好きだったからな、キャンピングカー。パトリシアを買う時も、どういうヤツにしようかさんざん迷ったよ。最初のキャンピングカーだからここはやっぱり六畳一間だろ! って思ってこんな風にしたな」
顔をあげて、パトリシアの内部をくるっと見回す。
「六畳間、天井のふすま、エアコンにこたつ、冷蔵庫とレンジ付きのキッチン、風鈴をつけて縁側、そしてトイレシャワー別!」
オーダーメイドの内装を一つずつ数えあげていく直人。
その目はまるで少年の様に輝いていた。
「おれの夢だったんだよ、これ」
「愛してるのだな」
「ああ! キャンピングカーも――パトリシアも!」
「だから、心地よいのだなここは。乗ってていつもほっこりしてて……気分がよくなる」
「そうだろ!」
直人は自慢げに言った。
ソフィアは少し考えて、改めて、という感じで切り出した。
「なあナオト」
「どうした?」
「もしも、今新しい移動民家を作るとしたらどんなものにするんだ?」
「いま?」
「そうだ」
「今か……」
首をひねる直人。
そこに、条件を付け加えるソフィア。
「わたくしたちが一緒にのるものなら、どんなものを作るんだ?」
「なるほど、そういうことなら――まずは犬小屋だな、簡単な庭もつけよう」
「それはだめだナオト」
「なぜ」
「庭はいいが、あの子は家はみかん箱だ、それ以外はゆずれん」
「なるほど」
うなずく直人、確かにそうだなと思った。
そうして色々と意見を出し合う直人とソフィア、二人は新しいキャンピングカー、理想のキャンピングカーを設計していった。
少年の心に理解を示した姫騎士、そして将来の夢を語らう。そんな話。
昔マイホームをデザインするソフトでさんざん遊んだ事があって、その時の事を思い出しながら書きました。
福笑いレベルでいいので、キャンピングカーのパーツを作ってそれで見取図を作れるようなものがほしいなあ。
いつかそういうのをジェレレータ風に作ってみたいなと考えてます。