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姫騎士と厨二病

 夕暮れのオーク村、キャンピングカーの前。

 縁側の先、大鍋をぐつぐつ煮ているたき火の前。

 直人、ソフィアはオーク達と会話していた。


『そもそもな、おれたちは人間の女なんてどうでもいいんだよ』

『そうそう、人間の女にこの鼻があるか? こんな美声(オゴオゴ)が出せるか? そんな人間の女に欲情なんて普通するわけねえだろ』

「はあ、じゃあなんで女騎士とか襲うんですか? 実際襲った事例はあるんですよね」

「そうだ、それをどう言い訳するつもりだ!」


 直人とソフィア、二人はミミの同時通訳を介して、おじいちゃんオーク達と会話していた。

 オークと姫騎士との確執について、直人がそれを聞いたので、こういう会話になった。


『確かにそういう事もある』


 耳毛ボーボーのオークがため息交じりに言った。

 そこに、長鼻オークが腕組みして、首をかしげながら言う。


『なんでかしらねえけんどよ、大人になるちょっと前にそういう時期があるんだ。妙に周りがむかついて、なににもむかついて、世界中のだれもおれの事をわかってくれねえ、って思う様な時期があってよ』

『そうそう、男はわりとみんなそうなる』

「うん?」


 なんか聞き覚えのある話になったぞと、直人は思った。


『まあ普通はいじけるだけですむんだけんどよ、そういうヤツの中の一部がまずい方向にこじらせるんだ』

『おれはおれで、ただのオークじゃねえ』

『女騎士になめられるようなオークにはなりたくねえ、とかよ』

「厨二病か!」

『ちゅうにびょう? なんだそれは』


 長鼻オークが首をかしげる。


「ああ、中二という概念がそもそもないのか。えっと……反抗期をこじらせたようなものですよ。はしかみたいな一過性の、()の病です」

『そういう名前なのか。うん、そう、そのちゅうにびょうに掛かったヤツが女騎士を襲うんだ』

『だからまあ、こっちも引け目を感じてよ。襲われるのは困るけど、実際向こうにも迷惑かけてるしよ』

「そういうことだったのか……」


 うなずき、納得するソフィア。

 この村にやって来た直後の――ついさっきまでの気炎がまるで消えてなくなっていた。


「納得するのか、それで」


 彼女の反応に、いつもながらチョロいな、と直人は思ったのだが。


「父上が言ったのだ、この世にはわたくしが知らない事は山の様にある、知らない事に出会ったらまずは受け入れろと」

「……」


 目を丸くする直人。

 それはかつて聞いた台詞。

 彼女と出会った直後に、キャンピングカーのあれこれを話した時に、彼女が言った台詞だ。


「あんた……」

「うん? なんか言ったか直人」


 首をかしげるソフィア。


「いや、なんでもない」

「うん? しかし何か言いたげな顔をしてるぞ」

「してない」

「いやしてるではないか」

「そんな顔してない……これはオッパイがほしい時の顔だ!」

「はい、マスター」


 横からパトリシアがすい、とオッパイを差し出した。

 直人はそれに顔を埋めた。


「くそ、相変わらずイイオッパイだ」


 そう言って、ごまかして、ソフィアの追求から逃れようとした。

 そして、オーク達の話が続く。


『とにかく! おれらは人間の女なんかにゃ興味ねんだよ、健康的な男はな』

『だからつかまえて犯すとかそういう事は普通しねえんだ』

『そういう目で見られるのは困るよな』

『こまるっつったら、あれも困るな。くっ、殺せ』

『そうそう、女騎士とか姫騎士とかいう人種は何かにつけておれらに突っかかってきてさ。それでつかまえて穏便に返そうと思ったら二言目には「くっ、殺せ」だしよ』

『あれは困るよな、人間の女でも殺したら犯罪だしよ』

「罪になるんですか?」


 驚き、オッパイに顔を埋めたまま聞く。


『そりゃあおめえ、殺()は立派な罪だろ』

「……そりゃそうですよね」


 この場合の殺()が何を指しているのか分からないが、言われてみれば盲点だと直人は思った。

 ふと、彼は両者の間で、人間とオークの通訳をしているミミの事を思い出した。

 その事をオーク達に聞いてみた。


「でも、ミミみたいなのはどういうことになるんですか?」

『……たまにこじらせて一生治らねえヤツもいるんだよ』


 長鼻のオークがいうと、周りのオークが全員うんうんとうなずいた。

 心なしか、困った様な、誰かを思って気の毒そうな顔をしている。


「ああ……」


 直人は納得した。

 こじらせて一生治らないヤツもいる、と言われると納得せざるを得ない。

 同時に、見方も変わってしまった。

 ミミの両親のことだ。

 最初は種族の壁を越えて結ばれたロミオとジュリエット的ないい話だと思っていたのだが、今の話を聞くと厨二病をこじらせたものにしか思えなくなった。


「厨二病をこじらせてしまった王様か……怖いな」

「恐ろしいですね」


 同意してくれるパトリシア。

 それで話がいったん終わり、直人はオーク達が注いでくれた酒をちびちびと飲んだ。

 途中からどうでもいい、酒飲み同士のたわごとばかりになったので、ミミに通訳する必要はないと言ってやった。

 それを聞いたミミが立ち上がって、トタトタとかけていった。

 どこに行くのだろうか、と思ってみていると、離れた所に彼女と同じくらいの子供オークがいて、ミミはそこにかけていった。

 遠くで何かを話す子供二人。

 ミミが何かを言って、子供オークの手を引いて、こっちにつれてこようとしたが、子供オークはその手を振り払って、舌をべーと出して、そのままはしりさっていった。


「あいつ!」


 ミミの好意を無下にした好意に、いきり立つソフィア。

 直人はオッパイから顔を起こして、とっさに彼女の手を掴んで引き留めた。


「あー、待て待て」

「何をする直人、離せ」

「いやいやいや、何するつもりなんだあんたは」

「何するって、決まってるだろ。ミミにあんな事をしたあいつを、懲らしめてくるんだ」

「やめとけ、子供の事に大人が出ていくのはかっこわるいぞ」

「しかし」

「それにあれはなー、多分だけど、あれは照れてるんだ」

「照れてる? 何言ってるのかわからないぞ直人」

「おごおご」


 直人がソフィアをたしなめる横から、耳毛のオークが割り込んできた。

 心なしか顔はにやりとしている。気になる子に素直になれないのは、オークも同じの様だ。

 言葉は通じないが、なんとなく通じ合った。

 直人は耳毛のオークと乾杯した。

 ミミが子供オークを追いかけて行くのを、直人とオークたち大人がほのぼのして見守っていた。


「わからん」

「あるある話ってやつだ」

「おごっ」


 その光景をみたソフィアはしばらく、腕を組んで頭をひねった。

 やがて。


「オークは意外と……人間と同じだったんだな」

「そうみたいだな」

「……今まで突っかかっていた自分が恥ずかしい」

「まあしょうがないんじゃないのか。言葉通じないし……言葉が通じても言葉(、、)が通じないような病に発病した連中がきっかけだし」


 ソフィアを慰める。


「よし、わたくしは決めたぞ」

「決めたって、何をだ?」

「この話を、みんなに知らせる」

「みんなって?」

「この大陸の全ての国にだ。わたくしがオーク親善大使になって、実情をみんなに知らせる」

「……いきなり何を言い出すんだあんたは」

「そしてオークと人間の間を取り持つ。今の話を聞いてると、みんなもっと仲良くなって、歩み寄ってみんな幸せになることができるはずだ」

「いやそうかもしれないけど」

「よし、決めたぞ!」


 ソフィアは意気揚々と、そう決めた。


「そうと決めたら行くぞ直人」

「行くってどこに」

「王都だ、今すぐ父上に会って話してくる」

「待て待て、おれは酒飲んでるんだ、飲酒運転は危険だからせめて明日に」

「なら、わたくしはもう寝る」


 そういって、本当にキャンピングカーの中に戻って、寝てしまった。

 その後、ミミの通訳でオーク達にそれを話すと、全員は顔をつきあわせて苦笑いするのだった。



 翌朝。

 村を立つ直人達を見送るため、オークが入り口の所に集まってきた。

 糸目のおばあちゃんオークは食べきれない程のお菓子をミミにわたした。

 その横で、飲み交わした男達は再会の約束を交わしていた。


「また来る」

『待ってる』

「きゃあああ」


 ふと、悲鳴が聞こえた。

 どうしたんだろうと、一同悲鳴の方向を見る。

 そこにに、罠に掛かった女騎士の姿が見えた。

 オーク、直人、そしてソフィア。

 全員がそれに苦笑いした。


「女騎士ホイホイすごいな」

「くっ、殺せ」

「おー、なんか懐かしいな。ソフィアと同じ事いってる」

「言うな直人!」

「おごおご」

「そこの女! のんきに見てないで助けろ!」

「だって、どうする?」

「……放っておこう」


 ソフィアがそう言い、直人はにこりと笑った。

 見捨てる訳じゃない、むしろ逆だ。


 直人達はオーク達に別れを告げて、ソフィアの故郷、王都に向かってキャンピングカーを走らせた。

オークの持病と姫騎士の決意、そんな話。


これで予定していたエピソードの4分の3が終わりました。伏線っぽいのもそうじゃないのも回収できました。

あとはエンディングまで一直線です。

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