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姫騎士と姫騎士ホイホイ

「殲滅してくる」


 真昼のキャンピングカー、離れたところにちらっと村が見える街道。

 事は、ソフィアの物騒な一言から始まった。


「いや殲滅って……」

「ナオトも見ただろ、あそこにオークが入っていって……オークが暮らす村だって。オークだぞナオト、そんなのを放っておいていいと思うのか」

「いや、その人達まだ何もしてないだろ」

「今にしでかすに決まってる、オークなのだぞ! 何かあってからでは遅いのだ!」

「や、それはそうだけど」


 この世界にやってきた直後の事を思い出す。


「確かにアンタも襲われてたしな……」

「わたくしが先にいく、ナオトは後から来てくれ」


 ソフィアそう言って、キャンピングカーから飛び降りた。

 村の方を向き、銀色の髪を燃やして、火の粉が立ちこめる。


「王技・アウトレンジペイン!」


 掲げた手の平の先に火の玉が出来て、それが徐々に膨らんでいき、やがて巨大な――ソフィアの身長よりも高い馬の形に変わった。

 ソフィアは炎の馬に乗って、颯爽と駆け出した。

 かっこいいと思いつつも、やっかいな事になったなと直人は思った。

 彼は運転席に戻って、ソフィアを追いかけようと、モーターのプッシュスタートをおす。


「マスター、バッテリーが40%を切ってます、ご注意を」


 横から、まるで秘書のようにパトリシアが報告した。

 ソフィアのように炎をだしたりというような事はできないが、キャンピングカーそのものでキャンピングカーの全てを把握している彼女は、自然と直人にとってのそういうポジションに収まった。


「わかった」

「お兄ちゃん、どこかいくの?」


 直人とソフィアがやりとりしている間も、ずっとこたつで折り紙していたミミが聞いてきた。


「ああ、ちょっと揺れるからつかまってな」

「うん、わんちゃんおいで」


 ミミは子犬を呼びつけて、抱き上げて膝にのせた。

 それをバックミラーで確認した直人は車を発進させて、炎の馬に乗るソフィアの後を追いかけた。


「速いな」

「現在時速60キロ、離されています」

「もうちょっとスピードを上げるか」

「バッテリーに気をつけて下さい」

「分かってる」


 直人は更にアクセルを踏み込んで、ソフィアを追った。

 ふと、視界の先で炎が消えた。

 大地を疾走していた炎の馬が、村の入り口辺りにたどりついた直後に消えてしまったのだ。

 オークの村、姫騎士のアクシデント。

 直人はちょっと嫌な予感がして、アクセルをさらに踏み込んだ。

 やがて、村の入り口辺りにやってくると、ソフィアが網に掛かって木につるされている姿が見えた。

 その木の下にオークが二体いて、ソフィアを見上げている。

 片方は豚鼻が長く、片方は瞳が見えない程の糸目だ。

 そんなオークに、ソフィアが悔しそうにわめく。


「くっ、こんな所に罠をしかけるなんて卑怯だぞ!」

「オゴオゴ」

「そ、それ以上ちかづくな!」

「オゴ……」

「わたくしに触るな、あっち行け」

「オーゴ」

「くっ、いっそ殺せ! ひと思いにやれええ」

「オゴオゴ」

「オゴゴ……」


 網の中にとらわれるソフィア。

 しきりにわめく彼女に、二匹のオークは顔を見合わせてオゴオゴと鳴いた。


「様子がおかしいですね」


 パトリシアがそういった、直人は同感とばかりにうなずいた。

 よく分からないが、なんとなくオーク達が困っている様に見えてしまうのだ。


「なんだろうな」

「えっとね、また来ましたよ、どうしましょうか。っていってるよ」


 後ろからミミが顔を出して、通訳してくれた。


「そか、ミミは言葉が分かるんだったな」

「うん」


 大きくうなずくミミ。オークとエルフのハーフは伊達ではない。


「あの人達が何を言ってるのか、もっと教えてくれるか」

「うん、いーよ。えっとね……女騎士ホイホイに掛かったのは今月で何人目だ? 七人目ですよ、効果があるのはいいですけど、こう何度も引っかかるとしかけ直すのが大変です。てかさ、こんな簡単なのに掛かるとかこいつらアホだろ。この人、姫騎士っぽいですよ。まじかよ、道理であっさりひっかかるわけだ。そうですね……。はあ……」


 オークがオゴオゴと鳴く度に、ミミがそれをリアルタイムで通訳してくれた。

 途中まで聞いて「ほんまかいな」と直人は思ってのだが、最後にオーク達が肩を落として「オゴォ……」とため息つく様に鳴きあったので、全体的に妙な信憑性があった。


「そもそも女騎士ホイホイってなんだ? ゴキブリじゃないんだから」

「あの罠のことのようですね。どうやら女騎士、そして姫騎士によく効く罠のようです」

「直に聞いてみた方が早そうだな。ミミ、ちょっと一緒にきてくれるか?」

「うん!」


 一緒になってキャンピングカーをおりると、ミミはパッとオーク達に向かって走って行った。

 そこで「オゴ」とオーク達を見上げて、ぱっとお辞儀した。

 オーク達は一瞬戸惑ったが、オゴオゴと会話が成立して、やりとりを交わした。

 やがて、糸目のオークが中腰になってミミの頭を撫でた。

 ますます敵意や危険を感じなくなった直人が近づいていく。

 オークたちは直人の接近に一瞬警戒したが、ミミが何か言うと、向こうはその警戒を解いた。


「ミミ、どういう事なのか聞いてくれるか? まずこれ」


 そう言って、罠に掛かっているソフィアを指さす。


「うん! オゴ、オゴオゴ?」

「オゴォ……」

「えとね、これは女騎士ホイホイっていって、いきなり襲ってくる女騎士とか姫騎士を捕まえるための罠なんだって。よく理由なく襲われるから、こういうのをつけたの」

「オゴゴ」

「しびれクスリとか混ぜてるから、それが効いてきたら下ろして、遠い所に捨ててくるんだって」

「オゴォ」

「お兄ちゃんはこの姫騎士の仲間? 畑の仕事があるから、このまま引き取ってくれると助かる、って」

「……うん、つまり?」


 オーク達の言葉、ミミのリアルタイム通訳。

 それを頭の中でまとめて、現状を整理した。


「つまりアンタはおれが止めるのもきかずに勝手に突っ込んで、女騎士ホイホイに引っかかって、善良なオーク相手に向かって、一方的にくっ殺せ! ってわめいてる訳だ」

「そ、それは――」

「この人達がそういってるけど?」

「そんなの、ウソをついてる可能性もある」

「オゴ?」


 ソフィアがいうと、ミミが小首をかしげて、上目遣いでオーク達に何かを聞いた。

 すると長鼻のオークが目を細めて、彼女の頭を撫でた。

 ちょっとだけ困った様子のオーク、とてもではないが悪意がある様にみえない。


「今のは通訳無しでもなんとなく分かったぞ」


 直人は白い目でソフィアを見た。


「うっ……」

「ミミ、あれに掛かった姫騎士はこっちで引き取るから、下ろしてって伝えてくれる?」

「うん!」


 ミミの取りなしで下ろしてもらったソフィア、しびれクスリがちょっと効き始めているのか、地面にへたり込んでシュンとしている。


「じゃあ行こうか、このままここにいてもご迷惑だしな」

「はーい」


 ミミは答えて、オーク達にもう一度お辞儀をして、別れを告げた。

 するとオークの片方、糸目の方がミミに何かをいって、いったん村の中に入って、すぐに戻ってきた。

 何かを持ってきて、それをミミに渡した。

 ミミはそれを受け取って、戻ってくる。


「それはなんだ?」

「えっとね、干し芋だって。おばあちゃんがおやつにってくれたの」

「あの(オーク)おばあちゃんだったのか!」


 驚き、オークの方を見る。

 糸目のオークが小さく手を振ってくる、おばあちゃんだと聞いて、その顔はとても優しげに見えた。

 なんかもう、色々と申し訳ないやらな気分になる直人。

 ミミにおやつを渡してくれた同族ミミにとってのオーク達に、このまま礼もせず立ち去るのはどうなのか、という気持ちになった。


「マスター、大変です」


 急に、パトリシアがそんな事を言った。

 おっとりとした口調はいつものままで、とても大変そうには聞こえない。


「どうした」

「さっきの走行でバッテリーをかなり消耗しました、このままわたしを動かすと今夜停電してしまいます」

「うん」


 うなずく直人。

 それがどうした、と一瞬と思ったが、すぐにピンときた。


「そうだな、それなら動かせないな」

「はい、動かせません」

「じゃあ動かさない様にしよう」


 直人はわざとらしく手を叩き、ミミに言った。


「ミミ、あの人達に聞いてきてくれるか? この車をその辺に駐めてもいいかって」

「とめるの?」

「ああ、今夜はここに泊まろう」

「――さよならしないの?」


 ハーフエルフの少女は瞳を輝かせた。


「ああ」

「分かった、行ってくるー」

「ナオト?」


 ソフィアはへたり込んだまま、驚愕した表情を浮かべる。


「さて、車を動かすか」

「はい、マスター。あの辺りが丁度明日の昼間も日陰になると思いますよ」

「うん、日陰はいいよな。日陰なら丁度一日分の生活用電になるだろう」

「はい」

「ちょっとナオト、一体何の話をしている」

「おばあちゃんに干し芋のおやつ、うーん、田舎のばあちゃんを思い出すなあ」


 昔を懐かしむ直人、穏やかに仕えるパトリシア、大喜びのミミ。

 全員、この状況を楽しんでいた。


 姫騎士を除いて。

勝手にわるくもないオークの村に突っ込んで、勝手にくっ殺せをするのが最近の姫騎士らしいです。そこにゴキ――もとい姫騎士ホイホイをしかけてみました。

そんな話。

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