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姫騎士といいオッパイの日

 昼下がりのキャンピングカー、六畳間の和室。

 直人が昼寝から起きたら(いえ)の中に誰もいなかった。

 六畳間和室、変形後のロフト、シャワー室、トイレ、物置、そしてみかん箱。

 一通り見回したが、ソフィアもミミも子犬もいなかった。

 直人は運転席に戻ってきて、伸びをした。


「はて、どこにいったんだろ」

「みんななら散歩に行きました」


 横から聞こえてくるほんわかボイスが直人の質問に答えた。


「そうか散歩か」

「はい、散歩です」

「……」

「……」

「アンタ誰!」


 パッと振り向き、盛大に突っ込む直人。

 そこに、おっとりとした雰囲気の、美女の姿があった。

 桜色のふんわりロングヘアーに、ゆったりしたワンピース姿。

 そこだけ見れば普通の人間だが、どうしてか腰から下が細くなって、まるでランプの精霊のように、その先がダッシュボード下のボックスに繋がっている。

 一目で人間ではないと分かってしまう見た目。

 だが、直人は気にしなかった。

 何しろ――。


「くっ……なんていいオッパイだ」


 彼の目は細くなってる下半身ではなく、豊かな上半身に注目した。

 圧倒的ボリュームのオッパイ。

 それさえあれば他はどうでも良かった。


「うふ」


 じろじろ見られた巨乳美女は怒るでもなく、むしろ頬に手を当てて、目を細めたまま聞いた。


「マスターはオッパイが好きですか?」

「大好きだ」

「それじゃあ、触ってみます?」

「それよりも、オッパイに抱かれて寝たい」

「じゃあ……はい」

「うふ」


 巨乳美女は両手を広げた。

 オーケーサイン、直人は何も考えず、母性100%のオッパイに飛び込んだ。

 頭を埋めて、すりすりする。


「幸せだ……」


 思わずそんな声を漏らすほど、幸せを感じた。


「どうですか? マスター」

「ここは天国ですか?」

「いいえ、ここはオッパイです」

「くっ、やっぱり天国じゃないか」


 締まりのない口調で切れ気味に言い放ち、更にすりすりする。

 すりすり、すりすり。

 ムニュッ、すりすり。


「はわあん……」


 昼下がりのキャンピングカー、おっとり巨乳。

 いますぐ死んでも構わないくらい、直人は幸せを感じた。


「これで添い寝までしてくれたら……もう思い残す事はない」

「添い寝ですか? マスターがお望みなら」

「本当か!」


 あまりの事に、思わずオッパイから顔を上げてしまった。

 巨乳美女は変わらず、ほんわか微笑みを向けて来ている。

 言葉通り、お望みとあらば、という感じだ。


「じゃあ――頼む!」

「はーい」

「その前にもう一回オッパイだ!」

「うふふ」

「ただいま……むっ!」


 もう一度オッパイに顔を埋めていると、今度はドアの方から声が聞こえてきた。

 凜とした、気高さといぢめ甲斐があることを同時に感じさせる美声だ。

 オッパイに顔を埋めたまま片目でみると、そこにソフィア達がいた。

 ソフィアはすっかりご無沙汰になった戦う姫騎士の顔でこっちを見つめている。

 その後ろから、ミミが子犬のリードを引いて、ひょこ、と顔を出してのぞいてくる。

 彼女達の帰宅に、直人は普通の口調で出迎えた。

 オッパイに顔を埋めたままだが。


「お帰り、散歩に行ってたのか?」

「うん! あのねあのね、わんちゃんすごいんだよ。ちょっと遠くに行っちゃって、あれえ帰り道はどこ? ってなったけどわんちゃんがあたし達を連れて帰ってきてくれたんだよ」

「おー、すごいなわんこ」

「わん!」

「それにしても、たちって」


 そういって、やはり片目のままソフィアを見る。

 彼女は顔を真っ赤にして、反論する。


「そ、そんなことは今どうでもいい! それよりもナオト、いますぐそのモンスターから離れろ!」

「なんで?」

「なんでって……どう見てもモンスターじゃないか。髪は桜色だし、下半身はないし」

「でもオッパイだ」

「はっ?」

「彼女はモンスターじゃない、オッパイだ」

「な、何を言ってるんだナオト」

「オッパイだがなにか?」


 ソフィアは口をあんぐりとあけて、言葉を失ってしまった。


「む、胸が大事だというのかナオト」

「そうだ」

「そ、それなら、胸ならわたくしも――」

「あんた、鎧後ろ前でも収まってしまうじゃないか」

「なっ――」

「そんなもん、オッパイじゃねえ!」


 再び、愕然とするソフィア。


「お兄ちゃん、あたしは?」

「ミミはそうだな……お母さんはどうだったんだ?」

「えっとね、おっぱい大きかったよ。お父さんも大きかった」

「そっか、両親から最高の遺伝子もらってるんだから、ミミもきっとオッパイが出来るよ」

「わーい」


 ソフィアとは対照的に、大喜びするミミ。

 そのやりとりの間に、うちひしがれた姫騎士は我に返って、さっき以上に凜々しい顔つきなった。


「テンプテーションに掛かってるなナオト、こうなったら実力で元を絶って――」


 ぶつぶつ言いながら、変身するかのように炎の髪になって、手の平をかざす。


「わん!」


 そんな彼女に子犬が吠えて、後ずさって警戒する様に伏せた。


「あっ……」

「お姉ちゃん! 家の中で火を使ったらだめ!」


 メッ、の仕草と共にミミがソフィアをしかる。

 しかられたソフィアはシュンとなって、髪が元の銀色に戻る。


「す、すまない。だがしかし……」

「……」

「……」


 幼女と子犬、二対の視線に責められ、ソフィアはすっかり意気消沈した。

 まるでヘビににらまれたカエル状態だ。

 そんなソフィアをたしなめたあと、ミミはとことこ、と運転席に向かってきた。

 そして巨乳美女に向かった、腕を振って子供らしい仕草でぺこりとした。


「初めまして、ミミです」

「はじめまして、わたしはパトリシア」

「パトリシアおねいちゃんだね」

「はい」

「ここがおねいちゃんのおうち?」


 ミミはそう言って、巨乳美女改めパトリシアが『生えて』いるダッシュボード下のボックスを指さしながら聞いた。


「今はまだ生まれた場所よ、マスターが許可してくれたら、ここにずっと住みたいわ」

「そっか、ここ全部がお兄ちゃんのおうちだもんね」


 ミミはうなずき、直人をみた。

 無邪気な瞳に聞かれるまでもなく、直人の答えは一つしかない。


「オッパイ!」

「ありがとうございます、マスター」


 どんな契約書よりも強いお墨付きを得たパトリシアが日だまりのように微笑んだ。


「おねいちゃん、ここどうなってるの?」


 チェリーが生えてきてるダッシュボードを覗き込むミミ。

 彼女が生えてきてる以外の部分は虹色のまだら模様になっていて、不思議な空間に見える。


「入ってみますか?」

「はいれるの?」

「ええ」


 ニッコリと微笑むパトリシア。

 次の瞬間、ヒュン、と音を立ててミミがボックスの中に吸い込まれた。


「ミミ!」


 うちひしがれていたソフィアがハッと我に返った。


「貴様! やはり害をなす存在だったか!」


 炎髪を出し、炎の槍を作って構える。

 子犬がキャンキャンわめくが、今度は引かなかった。

 とっても頼もしく見える炎髪の姫騎士。

 ――が。


「お兄ちゃん! この中すごいよー」


 ミミが顔をだしてきた。

 ボックスの中から、ひょい、と顔だけ。


「中すごいんだよ、さくらの木があるし、お花畑とかもあるし」

「そうなのか、すごいな」

「お兄ちゃんもくる?」

「おれはもう少しおっぱいして(、、、、、、)からいくよ」

「そっか。じゃあわんちゃんおいでー」

「わん!」


 子犬は最後までソフィアを警戒しつつ、ミミに向かって走って行った。

 二人一緒に、ボックスの中に吸い込まれていく。

 その横で、直人がオッパイに顔を埋めて、至福の一時を過ごしていた。

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