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姫騎士とテレビゲーム

 しとしと雨が降っている昼下がり、キャンピングカーの中。

 早くも定位置になった、ソフィアとミミがこたつで、直人が反転して室内を向いている運転手席というポジション。

 全員の視線が、大型のテレビに注がれている。

 テレビの横にゲーム機がセットされていて、ソフィアとミミの二人はコントローラを握っている。

 焼き魚の皿くらいの大きさをもつ、液晶付きのコントローラーだ。


「おっ、4位に上がったぞ、頑張れミミ」

「ブーーーーーーン」

「くっ!」


 姫騎士とハーフエルフの少女、二人はレースゲームをしている。

 テレビの液晶画面には、十五年以上の歴史をもつ、配管工兄弟が主役のカートレースゲームをうつしだしている。

 ミミは小柄な体に大きく見えるコントローラを抱えて、左に右にと、コーナーで曲がる度に自分の体も大きく曲がる方に動いた。

 一方のソフィアは背筋をただして、ほとんど体を動かさず手だけで操作している。笑顔のミミとは裏腹に、彼女はものすごく険しい顔をしている。

 異世界の住人の二人は、当然ながらテレビゲームなど初体験だ。

 しかしミミは開始から一時間ですっかりゲームになれ、12台中4位に入る程普通にゲームをしているのに対し、ソフィアは未だに四苦八苦して、ダントツの最下位でもがいている。


「すごいなミミは」

「オゴ♪」

「子供ほどなれるの早いって言うけど、本当だったんだな」


 一ヶ月くらい前、ファミレスに見かけた、スマホを手足のように操作していた一歳くらい赤ん坊の事を思い出した。

 一方で、ソフィアは。


「あっ、また抜かれた、二週遅れだな」

「くっ! ナオト! こいつら倒せないのか!」

「むちゃゆーな。レースゲームだぞ、倒せるわけあるか」

「くっ……あっ、ナオト! わたくし今吹っ飛ばされたぞ、なんか緑の甲羅みたいのに! 倒せないんじゃなかったのか」

「ああ、ごめん、倒せないけどぶっ飛ばせることなら出来るわ」

「なんという卑怯な手を!」

「そういうゲームだからなあ」

「くっ――」

「おっ、ミミ1位とれるぞ――ああおしいっ!」

「おしいー」


 ミミはすっかり上位争いをして、そのレースはゴール直前にこうらをぶつけられて、惜しくも1位を逃した。

 一方のソフィアは、もたもたしてカートを壁にぶつけたり、水に落としたり、コースアウトさせたりしてほとんど先に進んでいない。


「ソフィア、リタイヤしたらどうだ?」

「いや、わたくしは絶対にあきらめない!」

「いや、リタイヤした方が早いって」


 姫騎士のあきらめないと言う台詞は力強く頼もしかったが(いろんな意味で)、ゲームの中では11位にすら周回遅れにさせられている状態で、勝ち目などミジンコのハナクソほども残っていない。

 結局、11位がゴールし、彼女は最下位でレースが強制終了した。


「くっ、なんという屈辱……」

「や、ただのゲームだから」

「お姉ちゃん、もう一回やろ!」

「当然だ! 次は負けない!」

「勝てる要素皆無なんですが……」


 苦笑いをする直人。コンピューター操作の11位にすら周回遅れにさせられる時点で勝負もないのだが、ソフィアは勝つつもり満々でいる、

 次のレースがはじめる。


「今ボタンを押せばロケットダッシュできるぞソフィア」

「こうか……おっ!」


 見かねた直人はタイミングのアドバイスをして、スタート直後のロケットダッシュに成功させた。

 ソフィアのお姫様キャラは他のカートとぶつかりながらも、猛スタートで1位に躍り出た。


「おおお」


 喜びの声を上げるソフィア、だが。


「おねえちゃんいくよー」

「あああ、そんな黒いのをぶっかけるなんてっ」


 ミミが使ったアイテムで彼女の画面がイカスミに塗りたくられた。

 それでパニックになって、ただでさえダメダメな操作が更にパニックになって、最下位に転落した。

 結局そのレースも、彼女の最下位で強制終了した。


「も、もう一回だ」


 次のレースも。


「今度こそ」


 その次のレースも。


「く、悔しい……でも次なら……」


 その更に次のレースも、彼女は最下位をとり続けた。

 直人は茶をすすりながら、二人がゲームをしている所を見守った。

 ふと、窓から陽の光が差し込んでくるのがみえた。窓の外を見ると、雨上がりの空に虹が架かっていた。


「こらー、わんちゃんやめてー」


 不意に、今までと違う声をあげるミミ。

 見ると、いつの間にか起き出した子犬が彼女の袖を噛んで、ぐいぐいと外に引っ張っていこうとしている。


「どうしたのーわんちゃん」

「わん!」

「本当だ、晴れてる。わんちゃん散歩行きたいの?」

「わん!」

「わかったー。おにいちゃん、わんちゃんと散歩にいってくるねー」


 いってらっしゃい、と答えるよりも早く、ミミは子犬と共に雨あがりの車外に飛び出した。

 それまでトップ争いをしていた彼女のカートが完全に止まり、次々と……ソフィアにまで抜かれてしまった。


「くっ、このっ……あああ!」


 かけ声をあげつつ、自分のカートを操作するソフィア。

 真剣に、そして必死にゲームにのめり込んでいる彼女は、コースアウトとアイテムによる妨害の果てに、ようやく、はじめて自力でゴールする事ができた。


「やったぞ直人!」


 小さくガッツポーズするソフィア、彼女の喜ぶ顔は綺麗だったが、それが11位でゴールしたものによる笑顔だったので、直人は彼女を生暖かい目で見た。


「どうしたナオト、何故そんな目で見る」

「ああ、なんでもないよ」

「あれ? ミミはどこだ?」


 集中していた彼女は、今更一緒にプレイしていたミミがいなくなったことに気づいたようだ。「ちょっとな」

「むっ、そうか。じゃあナオト、おまえが代わりにやってくれ」

「おれが?」

「そうだ」

「……やめとくよ」

「ふっ」


 直人が断ると、何故かソフィアは勝ち誇ったように笑った。


「怖いのか?」

「……はい?」


 一瞬、彼女が何を言ってるのかわからなかった。


「わたくしに負けるのがこわいのか。まあわからない事もない、今のわたくしに掛かればお前などイチコロだろうからな」

「ほー?」

「無理にとはいわん、ナオトはそこでわたくしの勇姿をみているがいい」

「面白い事をいうじゃないか」


 直人はそういい、ミミが放り出していったコントローラを手に取った。


「ほう、やるのか?」

「ああ、やって(・・・)やるよ」

「ふふ、強くなったわたくしを見せてやる」

「……」


 直人は無言で微笑み、画面をみた。

 コースを選び、レースが開始する。


「ふふ、スタートに失敗するとは、直人も大した――」


 そこまで言ったソフィアのカートに、直人はスタートすぐにゲットした緑のこうらを投げつけた。


「な、何をする! ああ、また」

「……」

「ナオト、それは卑怯――ああまた!」


 緑こうらを三つ投げたあと、直人はバックして、もう一度アイテムをとった。

 今度は赤こうらの三点セットが出た。

 自動追尾のこうらを、当然のようにソフィアにぶつける。


「あっ――こらナオト、やめっ――もうやめろっ」


 11位のソフィア、最下位の直人。

 直人はレースそっちのけで、彼女の後ろにぴったりくっついていって、アイテムをぶつけ続けた。

 次第に、涙目から絶望顔にかわっていくソフィア。


「何をするんだナオト……」

「ああ、言い忘れたけど」


 ナオトはテレビ画面を見つめて、満面の笑顔で言い放つ。


「こういうゲームだから、これ」


 絶望にうちひしがれる姫騎士を、更なる地獄にたたきおとそうと。


 この後めちゃくちゃこうらをぶつけた。

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