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【父の憂鬱】
透が上京して二階の一室が空き部屋になってからはそこが父、英雄の部屋となっていた。
ある夜、英雄は息苦しさに目を覚ました。
金縛りだった。
体が重たい。
なんとか目を見開くと、胸の上に女が覆い被さって英雄の首を締めていた。
英雄は頭の下の枕を引き抜くと女に叩き付けた。
すると女はかき消すように居なくなった。
いつの間に眠ったのだろうか?
気が付けば朝で、叩き付けた筈の枕は頭の下にあった。
夢を見ていたらしい。
タチの悪い生々しい夢だ。
英雄は朝食を食べながら和恵と涼子に昨夜の夢の話をした。
「気持ち悪い夢だったよ」
そう言う英雄に涼子は抑揚の無い声で言った。
「お父さん、鏡見ておいで」
鏡の中の英雄の首には赤紫の痣が残っていた。
以来、英雄はこの部屋では寝ていない。