【パーキングエリア】
もう10時間は走っただろうか?
車は東北地方に差し掛かっていた。
東京から休まずに走り続けたミニには酷な話だが、今日中か深夜には青森が目標だ。
しばらくは停まるつもりの無かった透だが、次の瞬間に何故か気が変わった。
Pエリア標識に誘われるように左にウインカーを挙げた。
今思えば不思議でたまらない。
明るくて休憩施設の充実したサービスエリアならまだ判るが、Pエリアだ。
しかもそこはトイレしかなく、自動販売機すら無かった。
おおよそ高速道路のPエリアとは思えないそこに透は吸い込まれるように車を向けた。
トラブルは直後に起きた。
本線から脇に入ると排気音が消えた。
メーターを見た。
エンジンの回転数はゼロだった。
…つまり止まっていた。
透はニュートラルにシフトを入れると惰性で駐車枠にミニを滑らせた。
イグニッションキーをひねる。
セルは勢い良く回るがエンジンは動かなかった。
ガス欠のセンは無い。
何故なら満タンから100km程度しか走っていないからだ。
それだけは自信がある。
とりあえずボンネットを開けた。
プラグは…
カブっている様子は無い。
ガサゴソとやっていると不意に声を掛けられた。
振り向くと細身の男性が立っている。
その横には英国の名車スーパーセブンがあった。
確か2時間程前に抜いた記憶がある。
彼は透のミニを調べると首をひねった。
「見た限りは異常はないですね」
「そうですか…。ありがとうございます。とりあえず朝まで休んでからJAFを呼びます」
「それにしても、貴方のミニはノーマルのエンジンなのですね」
「ええ。全然いじってはいないですよ」
透がそう答えると彼は小さく溜め息をついた。
「貴方が私を抜いた時、私のセブンは100マイル出ていたんですよ」
「私のメーターは振り切ってましたから、何キロだったのですかね」
「はは…。まさかノーマルのミニに抜かれるとは思いませんでしたよ」
結局意気投合したふたりは朝まで車談義で盛り上がっていた。
夜明け前に写真を撮った。
透は彼とその愛車セブン、そして自らのミニを。
彼の住所を聞いて、写真を送る約束をした。
やがて夜が明けた。
ふたりはJAFを呼ぶ前にもう一度悪あがきをとキーをひねった。
ルーキーのセンターマフラーが吠えた。
そう、何故かエンジンがかかったのだ。
とりあえずふたりは喜びあうと、互いの旅の無事を祈りあって別れた。
その後、写真は送られることは無かった。
現像した写真にはふたりと車以外のものが写っていた。
透のミニの助手席には青白く鼻の大きな男が。
後部座席にはキツネのような顔をした女性が居た。
そして、直線の光が何故か不連続で射し込んでいた。
もう1枚、セブンの彼の写真には白いモヤがかかっていた。
そのモヤは蛇が鎌首をもたげて口を開けた形をしていた。
その写真を見た人が複数名、同じ事を言った。
不連続の光からとても悪いモノを感じると。
そして白いモヤに透は助けられたとも…