【一晩中・後編】
その日、伯母の通夜がつつがなく終わった。
後は近親者のみで…
透も久しぶりに会うハトコと伯母の話をしようと葬儀場の奥の座敷に腰を下ろした。
共通の話題は20年以上前の親戚キャンプ。
そこで初めてハトコの譲と会った。
歳は譲がふたつ上。
小学4年生の透はそこで色々と悪いことを教えてもらった。
結局伯母の話よりもキャンプの話題で盛り上がった。
そんな所で伯父に呼ばれた。
「済まないが、今夜はウチで留守番をお願いしたいんだけど…」
伯父が自宅の鍵を差し出す。
「いいよ。今行った方が良いね」
新聞のお悔やみ欄を見て犯罪を犯すのは香典泥棒ではなく空き巣。
喪主の家は100%留守になる。
下衆なロクデナシはそこを狙う。
伯父の家は商売をしているのでセキュリティは警備会社に依頼しているが、人が居るのが1番の防犯。
透は鍵を受け取るとタクシーを呼んだ。
当然ながら真っ暗な伯父の家。
透は外灯と室内の明かり、そしてふたつの店舗の1部の明かりを点けた。
……することが無い。
とりあえずシャワーを借りてテレビを点けた。
途中で寄ったコンビニで買った夜食と雑誌が唯一の娯楽。
不意に時計を見た。
「あ……」
1時50分。
透は昨夜のことを思い出した。
怖いもの見たさ。
透は鍼灸院へ降りた。
美容院も鍼灸院も1度外に出て階段を降りなくてはならない。
春まだ遠い北海道。
深夜となると完璧に真冬だ。
手が震えて鍵穴に差し込むのが難しい。
ようやく鍼灸院のドアを開けると1時55分。
あの音は聞こえない。
(だよな)
そう思いながら中へ入るとガイコツが立っていた。
一瞬悲鳴を上げそうになった透だったがただの骨格標本だった。
よく考えれば昨日もお会いしていた。
自分のビビり具合が笑える。
なんて思った刹那、金属音が部屋に響いた。
本気でビビると声も出ない。
心臓を鷲掴みにされたように胸が痛い。
心臓が止まりそうなほどに驚くとはこのことだろう。
後ずさりしながら外に出る。
ドアを閉じて時計を見ると2時を過ぎていた。
(美容院は?)
透は鍼灸院の鍵を閉めると美容院の鍵を開けた。
中に入る。
しかし音はしない。
無音。
ここまで無音だとキーンと言う耳鳴りのような音が頭の中にこだまする。
透は美容院を出ると2階に上がる。
やはり音はしなかった。
ここまで来ると恐怖も麻痺する。
透は再び鍼灸院のドアを開けた。
やはり鳴っている。
リズム良く、規則正しく鳴っている。
明かりを全て灯したが音は止まない。
透は意を決して店中を探したがどこから鳴っているのかサッパリ分からなかった。
朝になり葬儀会場に戻った透。
結局この事も言い出せずに伯母の告別式の全てが終わった。
この事は今だに誰にも話していない。
そして何の音かも今だに分からない。




