【一晩中・前編】
20年以上の長い年月をガンと闘いぬいた伯母が旅立ったのは、まだ雪の残る3月の末。
59歳だった。
乳がんの宣告を受けた20年前。
早期発見、早期治療で大事には至らなかった。
その後の定期検査でも再発の兆候も無く順調な経過を見せた。
しかし喜びは永遠のものではなかった。
10年後に再発。
そして転移。
それからは通院を選択しての闘病生活。
今更ながら伯母を思うとその強さに透は感嘆する。
伯母は透や親戚の前では病気の話は一切しなかった。
妹である和恵にだけは唯一経過を話していたが、姉妹なのだからそれは当然だろう。
そんな伯母が入院した。
1ヶ月ほどしたある日、付きっ切りで看病していた和恵から訃報が届いた。
透達はその日のうちに車を出して200km離れた伯母の家へと向かった。
すっかりやつれた伯父が透達を迎えてくれた。
仏間には伯母が眠る棺が安置されている。
伯母は穏やかな顔をしていた。
頬に紅でもさせば本当に眠っているみたいだ。
伯母にとって今夜が最後の我が家。
静かに過ごさせてあげたいと思った透は、そっと手を合わせると部屋を後にした。
部屋を出ると喪主である伯父に呼ばれた。
「透、すまないけど下の店の方で今夜は寝てくれないか?」
伯父は美容院と鍼灸治療院を経営している。
1階が店舗、2階が住宅だ。
「針の方の店ならベッドがあるからそこで…」
申し訳なさそうに伯父が言った。
ベッドというがそれは診療台だ。
透もたまに針を打ってもらうことがあった。
2LDKに親戚が集まればそれも仕方ない。
透は一も二もなく了承した。
その夜のこと。
暇つぶしに携帯アプリで遊んでいると透は異変に気付いた。
いや、ようやく気付いた。
カンカンカン。
何か配管を叩くような金属音だ。
あまりに規則的に鳴っていたのでしばらくは気付かずにいた。
音は朝まで止むことなくずっと続いた。




