【3階】
これはよく聞くありふれた話。
芳美、涼子、加奈の3人は卒業旅行に湖畔のホテルを選んだ。
まぁ、ホテルと言うよりは旅館に近いたたずまいの宿。
高校の卒業旅行だ。
あまり贅沢はできない。
それでも3人だけの旅行というのが嬉しくてたまらない。
その晩も部屋でお喋りが止まらなかった。
0時を回った頃だろうか。
加奈が唇に人差し指を当てた。
「何か聞こえる。」
加奈の言葉に皆で耳を澄ます。
音は上の階。
3階からだった。
子供が走る音と話し声が聞こえる。
「結構聞こえるね。」
芳美が言った。
「うん。私達の声も迷惑になってるかな?」
加奈が困った顔をする。
「でも子供はしゃぎすぎ~。」
涼子はひとり呑気だ。
更に脳天気に話す。
「でもさ、怖い話とかってこういうのはさ、実はホテルは…」
ふたりもピンと来たのか一斉に言葉を繋げた。
「2階建てだった!」
それに盛り上がった3人は怪談話を続けて夜を明かした。
翌日、ホテルを出た3人は誰とはなしに振り返った。
何となく確認したかったのだ。
3人はそれぞれに振り返り、それぞれに向き直すと無言でバス停に向かった。
誰もホテルが2階建だと口にする勇気が無かった…