【スカート】
新しい世紀を迎えた年の夏の夕暮れ。
帰宅途中の道。
北側には低中層のオフィス、南側にはJR高架とマンション、大手レンタルショップがある。
いつものようにスクーターを走らせていた。
こいつが物凄く遅い。
近所のオバサンから頂いた年代物の原付だ。
25年位前に買ったらしい。
セル無し。
キック式。
6ボルト。
満開で35km/h。
スピード違反で捕まる事は無いだろう。
ただ、急な登り坂は押した方が早い。
信号が変わった。
スクーターが交差点を通過した時、横断歩道の向こう、街路樹の陰に女性が居た。
……と思う。
フルフェイスのメットは左右の視界が悪くてよく見えなかった。
一瞬、横断するのかと思って右へ避けた。
通過した後、ミラーには人影はなかった。
横断の形跡はない。
歩道は……
夕日が逆光になり確認は出来なかった。
1、2丁走った後、妙に気になって思い起こしていた。
するとおかしいコトだらけだった。
先ずは姿。
腰から下しか記憶に無い。
そして服装はコーデュロイのような生地のロングスカート。
色はグレーの生地に茶色の線のような柄。
夏の格好ではなかった。
帰宅して母、和恵に話をした。
当然ながら気のせいだろうと片付けられた。
……が、その数日後。
和恵がもう一度その話を聞きたいと言ってきた。
思い出せる限り詳しく。
透が話し終えると和恵は言った。
「今日聞いて来た話だけどね…」
透が東京に出ていた頃の話だ。
あの場所は踏切から高架への工事をしていた。
そこで凄惨な殺人事件が起きた。
全国ニュースにもなったあまりに理不尽かつ残虐な事件だった。
その後踏切周りの区画は整理されて、マンションや店舗が立ち並んだ。
誰しも事件の事は忘れていた。
あの場所に関わる者以外は……
レンタルショップでは不思議な女性客が目撃されていた。
トイレに入って出てこない。
そして中には誰も居ない。
レジカウンター前を右から左へ通過して再び右から歩いて来る。
声を掛けられた店員が振り向くと誰も居ない。
隣りのマンションでも同様に女性が目撃されている。
住人ではない女性が
市内中心部に近く駅まで徒歩3分のこの物件、住民が定着しないそうだ。
ちなみに1階はコンビニになっているのだが、やはりその女性らしき人が現われる。
つまり、周辺を徘徊しているのだ。
きっとロングのスカートを穿いて…




