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第六話 「幼馴染」

「・・・・暇だ」


今日は土曜日。学校は休みだ。

待ち望んでいた休日ではあったが、いざ休日になってみるとやることも無く、暇を持て余す。


ソレイユは「仕事だ」等と言ってどこかに出掛けてしまった。かと言って外出するのも少しダルい気がする。

ゲームは全てプレイ済み。漫画は全て既読済み。

何かすること無いものか・・・


「・・・あぁ。読みかけの小説があったんだ。」


俺は読みかけの小説があったことを思い出す。先日、タイトルに惹かれて本屋で買ったものの、ソレイユやら何やらで忙しく、読む暇が無かったのだ。


俺は、小説を取るべく本棚に向かった。


「え〜っと・・小説小説・・・ん・・?アルバム・・?」


小説を探していると、本棚で古いアルバムを見つけた。恐らく、俺が小さいときのものだろう。


ペラ――


アルバムを開いてみると、写真には10歳の時の俺が写っていた。

河原で遊んでいる写真や庭で遊んでいる写真、ご飯を食べている写真などもあった。


「ははは・・・懐かしいな・・・」


写真に写る俺の隣――

そこには常に、ある「一人の少女」が写っていた。

河原で遊んでいる写真にも、庭で遊んでいる写真にも、ご飯を食べている写真にも、俺の隣には「一人の少女」が写っていた。


この少女は――


ペラ・・・ペラ・・・ペラ・・・


何ページか読み進めたところで、林で撮った写真を見つけた。俺と「一人の少女」がカブトムシを掲げ、二人でニッコリと笑っている。


そっか。あれからもう6年たつのか――

早いものだ。彼女は今頃、何をしているのだろう。


         なぁ、紅葉もみじ・・・・




6年前――


「よ〜し・・今日こそはカブトムシをとるぞぉ・・」


少年の名は、四季嶋 涼太 10歳。つまり、6年前の俺だ。


「もう・・やめときなさいって。どうせとれないんだから・・」


少女の名は、秋月あきつき 紅葉もみじ10歳。アルバムに写っていた、「ある一人の女の子」。



俺と紅葉は、同じ頃にこの町に引っ越してきた。家が隣同士であり、親同士は学生時代の親友だったらしく、秋月家とは家族絡みの付き合いだった。当然、俺達はすぐに仲良しになった。


それからというもの、気がつけばいつも一緒にいるようになっていた。

まぁ、言ってしまえば兄妹みたいなものだったのかも知れない。そう思える程、いつも一緒だった。



この頃、俺のクラスでは「虫捕り」が流行っていた。

バッタやカマキリ、コオロギやクワガタなど、皆が様々な種類の昆虫を捕り、それをクラスで自慢し合っていたのだ。

しかし、クラスの皆が誰一人として捕ったことのない昆虫がいたのである。

それが「カブトムシ」であった。


俺はカブトムシを捕ってクラスのヒーローになろうと思い、一週間もカブトムシを探しているのだが、全く捕まえることができなかった。蜜で釣ったり、スイカでおびき寄せたり・・・さまざまな手を使い捕獲を試みるものの、いずれも失敗に終わっていた。


今日こそは!と思い、俺と紅葉は林へ虫捕りに出かけた。


「今日はとる自信があるんだ!頑張るぞぉ〜!」


俺はやる気満々だが、少女の方はつまらなそうに、


「無理よぉ!もう一週間も探してるのに・・」


とため息混じりに言った。


「諦めちゃダメだよ、紅葉!ほら、いくよ!」


「・・・うん。けど、見つからなくても泣かないでよね!」


紅葉はジト目で俺のほうを見る。俺はそんなに頼りない男に見えているのか。


「俺は泣かないよ!男の子だもん!紅葉を守ってあげるんだ!」


「もう・・私よりもすぐ泣くくせに・・」


ゴチャゴチャと話をしながら、林の奥へと足を進める。


林の中には、色々な虫がいた。バッタやカマキリ、クワガタ・・・カミキリ虫などもいた。

しかし、目的のカブトムシだけはどこを探しても見つからなかった。


「くっそぉ・・・どこにいるんだ、カブトムシめ・・・」


「いないわね・・もう、あきらめたら?夜になっちゃうわよ。」

 

カブトムシを探し始めて、既に約5時間がたっていた。周りは薄暗くなり始め、カラスの鳴き声までも聞こえてきた。


その鳴き声が俺をバカにしているようにも聞こえて、何故だか無性に悔しくなった。


「今日もダメなのかなぁ・・グス・・」


「ほらぁ・・また泣いてる・・男の子でしょ?」


女の子に慰められているとは、なんと情けないことか。

そう自分で思うも、この泣き虫グセは中々治らなかった。


「・・・あっ!!」


「涼太、どうしたの?」


前方の木の枝に、カブトムシを発見した。


「これが・・本物のカブトムシ・・ついに・・・やった・・・!」


俺は大喜びだった。すぐさま虫捕りアミを構え、カブトムシを捕ろうと試みる。


「よっと・・・えい!やぁ!」


無我夢中で虫捕りアミを振るうも、カブトムシの動きが予想以上にすばやく、位置も高いため、なかなか捕まえることが出来ない。


「ちょっと、気をつけてよ?」


「分かってるって!・・・あっ!」


バチッ――


虫捕りアミが、「何か」に当たる。


ボト・・コロコロ・・


木の枝に付いていた「何か」は、木の枝から外れると、重力に従い俺達の足元に落下してきた。


ブ〜ン・・・


その「何か」・・・

薄い褐色を帯び、無数の穴を持ったそれは――


蜂の巣だった。


・・・これはまずい!やっぱり巣を攻撃されたハチは怒るわけで。その怒りの矛先は、確実に俺達に向けられる。


ブゥゥゥゥゥゥ〜〜〜〜ン!!!


ハチの大群が巣から勢い良く飛び出してきた。ハチ達はまっすぐこちらに向かって飛んでくる。


「に、逃げろぉ〜!!」


「ち、ちょっと!私をおいて行かないでよぉ!」


俺達は逃げた。逃げて、逃げて、逃げまくった。だが、それでもハチ達を振り切ることはできない。


・・・やばいぞ・・・これは・・・このままじゃ、二人ともやられちゃう・・・これじゃダメだ・・・


俺は男の子なのに、紅葉よりも先に逃げた。

男の子なのに、紅葉よりもビビッている。


これで良いのか・・・?

俺は男の子だろう?

このまま何もせず、ただ逃げているだけで良いのか?


――いや。

ダメだ。女の子一人守れずに、何が男の子だ。


紅葉を・・・守るんだ!


俺は近くにあった木の棒を取ると、ハチ達と対峙した。


「ちょっと!涼太!何してるのよ!危ないからやめなよ!」


「ダメだよ!俺は男の子なんだ・・紅葉を守るんだ!」


「涼太・・」


そう宣言したものの、やっぱり怖い。

足は震え、涙も出てくる。でも、俺は退かなかった。

理由は簡単。俺が男の子だから。守ってあげたい女の子がいるから。だから俺は立ち向かえた。


「うぉぉ〜!」


俺は、ハチ達に飛び込んだ――







「いたたたたた・・」


「涼太、大丈夫?」


結局、惨敗だった。

俺は全身をハチに刺され、その光景を見ていられなかった紅葉に手を引っ張られて逃げた。


「ごめん・・紅葉・・守ってあげられなかった・・」


情けない――

自分でも、痛いほど実感した。


「・・・そんなことないよ。涼太が私を守ってくれるって言ったとき、私、嬉しかった。涼太が頼もしく見えたよ。かっこよかった!」


紅葉は、笑顔でそう言った。

昔から彼女の言葉と微笑みは、俺に元気を与えてくれるのだ――


「紅葉・・ありがとう・・」


「うん・・・あ!」


紅葉が何かを発見したのか、小さな声を上げた。


「どうしたの・・・?あ!!」


俺達の目の前の木に、目的のそれはいた――


「カ、カブトムシ・・・!」


俺はすぐさま虫捕りアミを構え、今度こそカブトムシを捕らえた。

逃がさないようにしっかりと、そして慎重に捕まえた。


「やった・・・!やったよ!紅葉!」


「やった!やったね!涼太!」


俺達は抱き合いながら喜んだ。嬉しくてたまらなかったから。



俺達はこの日、このカブトムシを一生の宝にすると誓った。


家に帰ると、俺達は親に頼んで記念に写真を撮ってもらった。


俺と紅葉がカブトムシを掲げて、二人で笑っている写真を――





紅葉が外国に引っ越したのは、それから半年後の事だった。

お父さんの仕事の都合だったらしい。でもそれは、あまりにも突然すぎて。あまりにも悲しすぎて。あまりにも辛すぎた。


しばらくは、紅葉が引っ越したことを実感できなかった。でも、遊ぶ相手が一人減って。食卓にも一人足りなくて。紅葉が隣にいなくて――

あらゆる日常生活に紅葉が足りなかった。その中で、紅葉はいないのだとようやく実感した。


涙は出なかった。いや、出せなかった。だって、あの日誓ったんだから。泣かないって。


             俺は男の子なんだから―― 







そして、現在――


ゆっくりとアルバムを閉じる。


「俺は男の子なんだから・・・か・・」


思い返せば、俺にも泣き虫時代があったのだ。今では到底考えられないが。


俺は立ち上がり、部屋に飾ってある「昆虫標本」を見た。

その標本には、あの時捕った「カブトムシ」が飾ってある。


思い出なんて役に立たないかもしれないけど・・せめてもの思い出として・・


「俺は絶対忘れないよ、紅葉・・」


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