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第五十話 「休息」

投稿が遅くなってしまい、すみません。

テストは来週中には終わりますので、それからは通常ペースに戻れると思います。

おまたせしました。第50話です。

50話ということで、いよいよ新展開を迎え始めます。そして、夏鈴島編ももうじきクライマックスです。この後の涼太たちの行方……それは皆様自身の目でお確かめください。

拙い文章ではありますが、最後までお付き合いいただけたら幸いです

「ソレイユ、次はどこに行きたい?」


 ゲーム対決は俺の敗北に終わり、俺達はゲームセンターを後にしていた。再び行く場所を決めながら、町を歩く。

 俺の質問に、ソレイユは“う〜ん”と腕を組んで考え込んでいるようだった。


「そうだな……。少々疲れたし、少し休憩したいな。どこか休めそうなところはないか?」


 確かに、あれだけ白熱した勝負を繰り広げた後だ。言われてみれば、俺も結構な疲れを感じていた。それに、ソレイユはもともと精神状態が安定していなかった。疲れるのも無理は無い。

しかし、休める所となると……。

 俺は町の地図を広げ、どこか休めそうな所を探した。ゆっくりと休むことが出来る場所……喫茶店などはダメだ。できれば自然公園のような場所があればいいのだが……。


「お……。」


 地図の一角に、“臨海自然公園”という文字を発見する。……海の前に設けられた自然公園ってところか。

自然公園ならば、のどかで落ち着けるだろうし……何より地図を見る限り、敷地が相当広い。……ここならばゆっくり休めるかもしれない。


「じゃあソレイユ、“臨海自然公園”に行くか?」


「どこだ?そこは。」


 そう言いながら、ソレイユは俺の見ている地図を横から覗いてくる。今、ソレイユの顔は俺の真横……それもかなり近い位置にある。ソレイユからは、香水やシャンプーの香りが仄かに感じられた。その香りに、ソレイユの女の子らしさを実感してしまう。 


「ん?愚民……顔が赤いぞ?熱でもあるのでは無いか?」


 俺の顔を見たソレイユが、不思議そうな表情でそう言った。誰のせいで顔を赤くしているのかも知らないで、全く呑気なものである。


「な、なんでもねーよ。ほら、行こうぜ。」


「??ああ……。」


 ソレイユは未だに不思議そうな顔をしているが、俺はそんなソレイユの手を引っ張ると、足を進めた。

 目指す“臨海自然公園”までは、まだ少しかかる。それまでに、この動悸が治まることを願って―――









「うわ……思ったよりも広いんだな。」


「そうだな……。」


 “臨海自然公園”は、俺の予想以上の広さを誇っていた。地面の多くはやわらかな芝生で、座り心地も良さそうだ。周りは緑に囲まれ、木々の葉を揺らす風が、清涼感を醸し出していた。目の前には鮮やかなブルーに輝く海が、水平線を越えて広がっている。公園のおよそ中央にある巨大な噴水は、そびえ立つオブジェを囲んでいた。


「なぁ、あの木の下で休もうぜ?ベンチもあるし、何より日陰で涼しそうだ。」


 巨大な木の下を指差し、俺はそう言った。


「……そうだな。確かに涼しそうだ。そうと決まれば……ほら、行くぞ。」


 ソレイユは“ふむ”と頷きつつ、そう言うと、俺の手を引っ張り、木の下のベンチまで引っ張っていった。









「ふぅ。」


 ベンチに座り、一息つく。隣では、ソレイユも俺と同じように一息ついている。

 木陰ということもあり、幸い、俺達が休憩している場所は程好く涼しかった。木々の間をすり抜ける風が、汗ばんだ体に気持ち良い。

だがソレイユの顔は、やはり少し疲れているように見えた。見るからに疲労の色が感じられるし、顔色も良くは無い。


「ソレイユ、大丈夫か?顔色が悪いみたいだけど……。」


「……ああ。問題ないさ。それより愚民は大丈夫なのか?」


 ソレイユが、俺の顔を覗きこんでそう尋ねてきた。


「大丈夫って……何がだ?」


「先ほど顔を赤くしていただろう。大丈夫か?」


 ……あの時の事。まさか“ソレイユの香りに、女性らしさを感じていた”などとは言えまい。

 だが、その事を尋ねてくるソレイユの顔は、実に真剣だった。恐らく、本気で俺の事を心配してくれているのだろう。自分も少なからずムリをしているだろうに……。


「大丈夫だよ、ソレイユ。少なくともお前よりは疲れてないさ。」


 そう。俺なんかよりも、ソレイユの方がずっと疲れているはずなのだ。遺跡巡りの時……彼女は明らかに無理をしていた。それが肉体的な事なのか、精神的な事なのかは分からないが、疲労を感じた事は確かなはず。そんな中、今度は俺とのゲーム勝負……。疲れていないはずが無いのだ。


「わ、私は別に……。」


「強がりたい気持ちも分かるよ。でもさ、辛いときはゆっくり休め。ソレイユは今日、元気が無かっただろ。そんな中で俺と一緒にいたんだ。疲れて当然だ。」


 俺は、ソレイユの強がりを邪魔するように言った。

 いつも強がっているソレイユ……辛いときくらい、ゆっくり休んで欲しいのだ。


「そんな疲れてるのに、誘っちゃってゴメンな。俺なんかといて……余計に疲れただろう。」


 俺のような面倒な奴と一緒にいれば、余計に疲れるのは当然。今さらながら、何だかソレイユには悪い事をしてしまったと思う。

 だがソレイユは、俺の言葉にゆっくりと首を振ると、


「……そんな事は無い。私に元気が無いとき、愚民は真っ先に私に声を掛けてくれた。細かく気遣ってくれた。そんな貴様といて、私が疲れるわけが無いだろう。癒される事はあっても、疲れる事など……絶対に無い。」


 やさしい笑みを浮かべながら、そう言った。その微笑みには、如何なるものも癒す力があるように思えて―――いままで感じていた疲れが、瞬く間に癒されていくのを感じた。


「だから、今は貴様の言う通り……ゆっくりと休む事にしよう。」


 コトンッ―――


「―――っ!」


 ソレイユはそう言うと、俺に寄りかかるようにして体重を預けてきた。そして、自分の頭を俺の肩に乗せる。軽い体重と温かな体温が、肩を通して俺に伝わってくる。

 心臓の鼓動がどんどん激しくなっていくのが、自分でも感じられた。


スッ―――


「―――あっ……。」


 俺は無意識に、ソレイユの肩を抱き寄せていた。同時に、ソレイユが小さく声を上げる。

 ノースリーブの服を着ている為に、露出しているソレイユの肩。それはまるで、絹のように柔らかな手触りだった。


「ぐ、愚民……。」


 ソレイユは俺の行動に心底驚いたようで、目を丸く見開いていた。彼女の声にも、激しい動揺が感じられる。やがてソレイユの頬が、みるみるうちに紅く染まっていった。


「そ、ソレイユは神さまだからな。しっかり守るのが下僕の役目だろ。」


 俺は、この行動をごまかすようにソレイユから目を逸らしつつ、言った。

 依然として驚いていたソレイユだったが、俺のその言葉を聞くと、やがて“ふふっ”と笑い、口を開いた。


「……ああ。そうだな。貴様には、私を守る義務がある。私が休んでいる間……しっかりと私を守ってくれよ。」


 ソレイユは少しだけはにかんだようにそう言うと、俺の手の上に自分の手を重ねてきた。小さく柔らかいその手の温もりを感じながら、“こりゃ、責任重大だな”と一人心の中で呟くのだった。






「……すぅ。……すぅ。」


 俺のすぐ隣で、小さな寝息を立てているソレイユ。ソレイユはあの後、三分も経たないうちに眠ってしまった。規則正しく上下する薄い胸が、彼女の熟睡を証明している。

 ソレイユの寝顔……見るのは多分これが初めてだと思う。まるで人形のように可愛らしいその寝顔に、どうしてか心臓の鼓動が激しさを増す。

 ソレイユと密着している今、この心臓の鼓動をソレイユに聞かれかねないと言うのに……。 


「でも……。」


 俺に身を任せて熟睡しているという事は、少しは俺を信頼してくれているという事だろうか。そう思うと、不思議と俺の中で、何とも言えぬ嬉しさが溢れ出してくる。


「ははは、なんだか照れ……」



 ヴンッ――――……!!



「―――ッ!」


 一瞬、目眩がした。

 重く、そして鋭いプレッシャーのような物を感じたのだ。


「な、なんだ……。」


 俺の心が、ざわざわと騒ぐ。木々の枝もそれにつられるように、怪しく揺れている。

 一体、今のプレッシャーのようなものは何だったのだろう。あまりの大きさに、押し潰されそうになってしまうほどのプレッシャー。俺はそんな物を、今までに感じた事は無かった。


            ギラッ――――……!!


「―――ッ!!」


 今度は、鋭い視線のような物を感じる。

 俺を突き刺すような鋭い視線……その視線には、俺に対する“殺意”が込められているように感じた。


「一体……何なんだ……。」


 視線は、海の方から向けられている―――視線を向けた相手の姿は無いが、どうしてか、そう断定できた。


「行ってみるか……。」


 俺は未だに寝息を立てているソレイユを、そっとベンチに横たわらせると、視線を感じる方へと足を進めた。 







「ここら辺だよな……。」


 自然公園を抜け、少し進んだ海岸。視線は、この辺りから向けられていたように感じた。だが、周りには人っ子一人いない。俺の勘違いだったのだろうか。


       ギラッ――――……!!


「―――ッ!!」


 再び、突き刺すような視線を感じる。……間違いない。視線は、この辺りから向けられていたのだ。

その視線には、相変わらず“殺意”や“悪意”が込められているようだった。一体誰が、何の目的で、俺にそのような視線を向けているのだろうか。


「おい!誰かいるのか!どうして俺を見てる!何が目的なんだ!」


 周りに向けてそう叫ぶも、返答は無い。聞こえるのは、町の方から微かに聞こえる騒音と、さざなみの音のみ。

 それじゃあ、一体どこから……。


 ザッパァァーーン――――!!


「―――!!なんだ!?」


 突如、目の前の海水が、さながら噴水のように上空に噴射される。噴射された海水は一転に集まり、“水の龍”へと変形した。海水で構成された龍……全長は俺よりも遥かに大きく、サファイアのような無機質な眸が俺を捉える。


「こ……こいつは……。」


 水の龍の口が、大きく開く。すると開かれた口へと、周りの海水が収束していった。収束された水は、矢のような形に変わり、そのまま発射される。


 ビュンッ―――


 凄まじいスピードで、俺を目掛けて飛んでくる水の矢。突き刺されたら、恐らくひとたまりも無いだろう。


「ぐっ!」


 俺はその矢を、紙一重でかわす。水の矢は、そのまま俺の後ろにあった岩に衝突すると、岩を粉々に粉砕した。

 もしあれが、俺に当たっていたら……。考えただけでもゾッとする。

 しかし……あの水の龍はなんだ?地上にはあんな生物は存在しないはず。そして、どうして俺を狙うのだ?


「おい!お前は何なんだ!どうして俺を狙う!」


 そう龍に問うも、返答などあるはずも無く……。答えの代わりに、数発の水の矢が龍の口から発射される。


 ビュンッ―――


 ビュンッ―――


 ビュンッ―――


「くそっ!」


 飛んでくる矢をかわすのは、実に困難だった。尋常じゃ無いスピードで突っ込んでくる矢は、俺の反射速度を遥かに越えていた。

 俺は一本目の矢と二本の矢をギリギリでかわし、残る三本目へと備える。

 

「くっ……うわっ!」


 何とか三本目の矢をかわすも、バランスを崩し、俺は地面へと倒れこんでしまう。そこへ、すかさず四本目の矢が発射された。


 ビュンッ―――


 四本目の矢は、逸れる事無く真っすぐ俺の方へと突っ込んでくる。そして―――


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



次回予告


俺を捉えた水の矢―――

「……。」

俺はとっさに目を閉じる―――

「ギャアアアアアアアアアア!」

視界は真っ暗―――

「……すまなかった。」

希望の光は、差すのか―――

「……やっと、頭を上げてくれたな。」


悲痛が俺を、彼女を襲う―――

「だが、私のせいで愚民は……」


次回 第五十一話「悲痛」

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