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第五話 「不器用」

キーンコーンカーンコーン―――


「せ、セーフ・・・」


チャイムが鳴り終えるのと同時に、教室に飛び込む。

桜を保健室に運んでいたら、ギリギリの時間になってしまった。

だが、何とか間に合うことができた。これで2日連続遅刻は逃れたわけだが・・・


「桜の奴、本当に大丈夫かなぁ・・・」


・・・。

・・・・・・。


10分前――


「軽い打撲ね。今日は痛いでしょうけど、一日安静にしてれば治るわ。」


保健室の隅田先生は、桜の足に湿布を貼りながらそう言った。


「・・・冷たっ!」


急に湿布を張られた桜が、冷たさに声を上げる。


「ほ〜ら。我慢しなさい。」


「は、はい・・・すみません・・・」


・・・・。


「しっかし、驚いたわよ。いきなり男子が女子を担いでくるんだもの。今どきはあまり見ない光景だったから。」


隅田先生が少し笑いを含めながら言った。


だが、驚いたのも無理はない。桜を担いだ俺が突然「この子を診てあげてください」と言いながら保健室に入ってきたのだ。「何事だ」と思うのが普通だ。


「すみません。驚かせてしまって。」


「いいのよ。中々いいものが見れたしね。」


何やらニヤニヤしている隅田先生。

少しお茶目だ。だが、今はそんなお茶目はいらない。


「涼太さん、何から何まですみません。」


桜が申し訳なさそうに言った。


「気にするなよ。俺が勝手にやったことだしさ。」


「はい。すみません。では私は教室に戻りますね。」


「はい。」と言いつつもまた謝っている桜。


「一人で歩けるか?」


「大丈夫ですよ。子供じゃないんですから。今日は本当にありがとうございました。それでは。」


桜は笑顔でそう言うと、片足をかばうような形で保健室から出て行った。


「ふぅ。やれやれ。」


ため息をつきながら、保健室の椅子へと座る。


「あら。あなたもそんなに余裕はないわよ。ほら。」


隅田先生が、壁にかかっている時計を指差した。

時間は――


「8時39分!?ホームルームの一分前!?」


急がねば、二日連続で遅刻だ。それだけは避けないと、今度は校長に何を言われるか分かったものではない。


「あの、ありがとうございました。」


俺は一言お礼を言うと、ダッシュで教室を目指した。


「廊下は走っちゃダメよ〜。」


後ろで隅田先生の注意する声が聞こえるが、聞こえなかったということにしておこう。


・・・

・・・・・・。



そして、今に至る。


「はぁ・・・」


机に着くなり、俺は睡眠に取り掛かった。

あのアバウトな英子先生の事だ。きっといくらか遅れてくるに違いない。

今は一分でも睡眠時間が欲しい。


ガラッ―――


「あ〜・・・めんどくせ・・・」


「面倒くさい」という教師らしからぬ第一声を発しながら先生が教室に入ってきた。

残念ながら一分も寝ることができなかった。

しかし、意外と時間ピッタリに来るんだな・・・


「あ〜・・・ダルいけど、出席とるか・・・最初の授業くらい・・・あ〜・・・でもめんどくせ・・・」


実に大儀そうに出席を取り始めた英子先生。

見ているこっちまでダルくなってくる。


しかし、本当にダルそうだな・・・この人・・・




キーンコーンカーンコーン―――


放課後―――


ようやく本日の授業が終わった。

初日の授業だったので自己紹介などが多かったが、春休みボケなのか、それすらも辛く感じた。しかし、一番の原因はやはり昨日の宴会だろう。とりあえず、家に帰って寝るとしよう。寝かせてもらえるかどうかは別として。


「お〜い、涼太。」


教室を出ようとしたところで、颯人に呼び止められた。


「颯人か。なんだ?お前は部活だろう。」


「そんなことよりもさ。・・・どうだ?」


突然「どうだ」と聞かれても困るのだが。

なにが言いたいのか分からない。


「どうだって・・・何が?」


「女子だよ!女子!このクラス、誰か可愛い子いるか?」


・・・思い出した。

颯人は大の女好きだった。小学生時代には「俺は世界中の女を愛する」等とぬかしていたし、ナンパも活発に行っていた。だが、実った試しは一度も無かった。顔はやや二枚目なのだが、いかんせんその性格が影響して、全くモテないのだ。


「俺的には・・・冬美雪奈って子がかなりイケると・・・」


颯人は何やら女子の名前を挙げていく。


だが、あいにく俺は女子を観察している余裕など無かった。ただただ、自分の睡魔やダメージと闘っていた。


しかし、可愛いと言えば・・・


『あの・・・私、【春咲 桜】と申します。桜とお呼びください。』


桜・・・

そう言えば、桜はかなり可愛いかった。性格も控えめで大人しい。


そして・・・


『私の名は、ソレイユ・エスターテ。太陽神だ。』


ソレイユ・・・


顔は相当可愛い。どこぞのモデルなんか話にならないほどだ。それは認めよう。

だが、性格が悪すぎる。横暴、乱暴、毒舌・・・


「はぁ・・・・」


思わずため息をついてしまう。

そんな横暴乱暴毒舌女が俺の家に住んでいるのだ。

考えただけでも憂鬱だ・・・


「何ため息なんてついてんだよ。何か悩みでもあるならさ、俺と一緒に今からナンパに行こうぜ。」


ため息をついている俺を心配したのか、颯人が言った。

だが冗談ではない。ナンパなどしている暇があったら寝たい。


「・・・お前一人で行けよ。俺は帰って寝る。」


「そんな事言うなよ〜・・・いいじゃねぇか!苦節16年・・・俺は今年こそ愛すべき人を見つけるんだ!」


やけにテンションの高い颯人。これは恐らく何を言っても諦めないだろう。


仕方がない・・・今日くらいは付き合ってやるか。


「・・・分かったよ。ただし、俺はナンパはしないぞ。見てるだけだからな。」


「ハハハ!分かった分かった!まぁ私のテクニックを見ているんだね。フフフ・・・」


実に不気味な笑い声を上げる颯人。

その根拠のない自信は、どこから沸いてくるのやら・・・





駅前は、やはり混雑していた。

もっとも、混雑しているほうがナンパには向いているのだろうが・・・


「おねぇさ〜ん!今夜、俺といいことしな〜い。」


颯人は早速ナンパを始めている。だが、何故か口説き文句が古い。ナンパのスキルは小学生時代と全く変化してないようだ。


結局――

この日、颯人がナンパに成功することは無かった。しかし、颯人は特に落ち込む様子も無く、「次は俺の本気を見せてやる」等と実にポジティブな発言を残して去っていった。


「さて、俺も帰るか。」


腕時計を確認すると、時刻は午後8時30分。

結局、睡眠する時間は無くなってしまった。

時間的にはまだそれほど遅くはないが、今日くらいは早く帰っておいた方が良いだろう。

昨日までならば遅くなろうが気にすることも無かったのだが、今日からはそうも行かない。なにせ、家には厄介な神様がいるのだから・・・



「ただいま〜。」


玄関を開けるが、反応は無い。

もう寝てしまったか、それとも神様の仕事で出かけているのか・・・


と思ったら、ソレイユはリビングにいた。

何やらテレビに集中しているようだ。


「・・・・・・。」


ソレイユが見ている番組は、ニュース番組だった。

ソレイユはその番組を、何とも痛々しい顔で眺めていた。


「ソレイユ、ただいま。」


「ん!?ああ。愚民か。」


どうやら俺が帰ってきたことにすら気付かなかったようだ。

ソレイユは神。やはり人間界の荒んだ状況は悲しいのだろうか。

そんな大役を、こんな幼い少女(外見)が背負っているのだ。・・・きっと色々な事を経験してきたに違いない


だが、俺は深く関わることはできない。俺が出て行ったところで何も解決しないだろうし、意味も無い。


「・・・ソレイユ。腹減ったよな?何か作ってやるから、少し待ってろ。」


今、俺ができるのはこの位のことしかない。


しかし、俺の言葉を意外に思ったのか、ソレイユは少し驚いたようだった。


「本当か!?助かる!魔法では、食べ物を具現化することは禁止されているのだ。」


「けど、ソレイユは料理もできるんだろ。なら、問題ないよな。」


俺の言葉に、ソレイユは気まずそうに頷いてしまった。

・・・まさか、料理が作れないのだろうか。・・・神さまなのに。


「ふ、ふん!料理くらいできるぞ!簡単だ、そんなの!」


「はいはい。」


今さら強がられても、先程の沈黙のおかげでもう無駄だ。





「ソレイユ。飯ができたぞ。」


再びソファーに座ってテレビを見ていたソレイユに、夕食ができたことを伝える。


「うむ。今行く。・・・・おお!美味そうじゃないか!」


ソレイユは食卓に並ぶ料理を見るなり、そう言った。

料理は特に得意というわけではないが、苦手ではない。伊達に一人暮らしをしていた訳ではない。


「いただきま〜す。」


「いただきます。」


食前の挨拶を交わし、早速料理を食べる。


「うむ。美味いぞ。なかなか料理がうまいな、愚民。」


「ありがたき幸せ。」


冗談を言ってごまかしているが、本当はとても嬉しかった。

誰かのために料理を作るということも無かったし、ましてや、「おいしい」などといってもらえた事も無かった。


これからも、この横暴な神さまのために料理くらいは作ってやるか。

心の中で密かに決心したのであった。


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