第三十五話 「双眸」
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夏鈴島に来て、三日目の朝を迎える。
「ん〜ッ・・・」
今日は何をしようか。
海水浴もいいが、昨日行ったばかりだ。さすがに二日続けて海に行くのは疲れるだろうな。
「ま、みんなと相談してみるか。」
俺はさっさと普段着に着替えると、部屋を出た。
ロビーに着くと、既にソレイユが起きていた。
「愚民か。おはよう。」
ソレイユが俺に気付き、挨拶をしてくる。
「ああ。あはよう。」
俺も挨拶を返した。
ロビーにはソレイユしか見当たらないが、他のみんなはどうしたのだろうか。
「ソレイユ、みんなは?」
「まだ起きてきていないようだな。昨日あれだけ騒いだのだ、眠くて当然だな。」
確かに、昨日は騒いだからなぁ。
とは言っても、一番疲れたのは恐らく俺なのではないか。
「ま、それも仕方ないな。ソレイユは起きて大丈夫なのか?」
自分の言葉ながら、まるでソレイユが病人であるかのような言い草だ。
「私は全然平気だ。神と貴様らとでは、体のつくりが違うのだ。はっはっは・・・痛ッ・・・」
突如、ソレイユが苦痛に顔を歪ませた。
「??・・・どうかしたか、ソレイユ?痛そうな顔して・・・」
「い、いや、なんでもないぞ・・・ははは・・・」
ソレイユはそう言うが、今のは明らかに苦痛の表情だった。
この痛がり方、もしかして・・・・
俺は、ソレイユの肩を指でつついてみた。
「うりゃ。」
プニッ。
「―――ッ!?」
ソレイユの顔が、再び苦痛に歪む。
これは、やっぱり・・・
「な、何をする!」
ソレイユが怒り顔でこちらに振り向く。
「何って・・・ただ肩をつついただけじゃないか。そんなに痛かったか?」
「あ・・・い、いや、そんなことは無いぞ・・・ははは。痛いはずが無かろう・・・」
ソレイユは強がっているが、さっきのは明らかに過剰反応だ。
「ふーん。そうか。なら・・・うりゃ、うりゃ、うりゃ。」
ぷにっ。
ぷにっ。
ぷにっ。
「ぐっ――!」
「あっ――!」
「くぅっ―――!」
肩をつつくたび、ソレイユの顔は苦痛に歪んだ。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・」
ソレイユは痛みを隠しているつもりのようだが、声と反応でバレバレだ。
「ソレイユ、お前やっぱり筋肉痛だろ。」
「なっ――!!そ、そんなはずなかろう!だ、大体、私が筋肉痛なんかになるわけ――」
ぷにっ。
「ふぁぁっ――」
再びソレイユの肩をつついてやると、ソレイユは情けない声を出しながらテーブルにへたれ込んでしまった。
「ぐ、愚民・・・貴様・・・」
ソレイユが怒りのまなざしを俺に向けた。
「悪い悪い。けど、神さまも筋肉痛になるんだな。」
「だから、私は筋肉痛など――」
ぷにっ。
「ひゃぁぁ――」
ソレイユはまたも強がりを言おうとしたが、これではもう何を言っても説得力は無かった。
「き、貴様・・・いい加減に・・・」
・・・・・・まずい。ソレイユが本気で怒りかけている。
「やば・・・」
「おはよー、少し寝坊しちゃったかな?」
ナイスタイミングで紅葉がロビーに来た。
(た、助かった・・・)
俺は心の中で、何度も紅葉にお礼を言った。
「で、これからの予定だけど。」
俺達はこれからの五日間の大まかな予定を決めることにした。
「はーい、提案!!」
紅葉が挙手した。何か案があるらしい。
「あのさ、全てみんなで行動っていうのも変だから、自由時間も作りたいんだけど・・・・プライベートな買い物とかもしたいし・・・・」
紅葉が言った。
なるほど。自由時間か。いいアイデアかもしれない。
「なるほどな。でも、何時から何時まで自由時間にする??」
いくら自由な時間とは言え、時間を決めなくてはならないだろう。
「ん〜・・・じゃあ、お昼まではみんなで遊んで、午後は基本的に自由時間ってのはどう??」
午後から自由時間か。7時くらいに起きれば、午前中でも遊ぶ時間は十分ある。ここの島は店やイベントなども基本的には朝からやっているので、問題は無い。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「俺は良いと思うぞ。ただし、もし午後にみんなで集まろうって決めたときには集まること。コレが条件だ。」
これからの予定を詳しくは決めてないので、なんとも言えないが、まぁ・・・これくらいなら問題は無いはずだ。
「私も良いと思います!」
桜も賛成した。
「私も・・・別にいい・・・」
雪奈も賛成してくれたようだ。
「俺も、ちょうど自由にナンパしたいと思っていたところさ。」
・・・・・・・・・・・。
「だとさ。みんな賛成だ。良かったな、紅葉。」
「うんっ!」
途端に笑顔になる紅葉。それほど自由時間が欲しい理由があったのだろうか。
「じゃあ、今日はこれからどうする?まだ7時過ぎだし、午後までは全然時間あるぞ。」
「う〜ん。じゃあ、町の探索をしない?いろんなお店に入ってみようよ。」
紅葉が提案した。確かに、夏鈴島は相当な広さを誇っているので、町も同じく相当広い。まだまだ見ていない場所があるはずだ。
「よし。分かった。じゃあ今日は、町の探索に行くぞ!」
「「「「おー!!」」」」
「あー、こんな所に小物店が!」
「入ってみたいです。」
「うむ。入るか。」
女性陣は、楽しそうに声を上げながら町の探索を楽しんでいた。
一方、俺達男性陣はというと――
「か・・・買い過ぎじゃないか・・・」
「お・・・重い・・・」
荷物持ちをさせられていた。
荷物持ちをさせられることは何となく予想していたが、まさかコレほどまでの荷物を持たされるとは思っていなかった。
「愚民、コレも頼む。」
ドサッ。
「ぐうっ・・・・!!」
ソレイユによって荷物が追加された。
「涼太、これも。」
ドサッ。
「ぐぐぅ・・・・!!」
今度は紅葉によって荷物が追加された。
「涼太さん、すみません、コレもお願いします・・・」
ドサッ。
「あぐぅぅぅぅ・・・!!」
更に桜によって荷物が追加された。
「・・・・・・・・よろしく。」
ドサッ。
「ぐ・・・・ぐぉぉぉ・・・・」
雪奈は追い討ちを掛けるかのごとく荷物を追加した。
「お、重すぎる・・・・!!」
一体何キロあるのだろうか?
高々と積み上げられた荷物を見上げながら思った。
「クスッ・・・・・・・」
「ん??」
今、誰かの笑い声が聞こえたような。
笑い声がした方向に目を向けると、一人の少女がこちらを見つめていた。
とても綺麗な少女だ。髪は透き通るような純白で、肌も同じく真っ白だ。美しいサファイア色の双眸は、見ているだけで吸い込まれそうになる錯覚を覚えた。
少女は俺と目が合うと、ニコッと微笑んだ。
すかさず俺も微笑み返す。
「それじゃ、そろそろお昼にしましょうか。」
紅葉が言った。俺は紅葉たちの方へと向き直る。
「そうだな。愚民、レストランまで荷物を運んでくれ。」
ソレイユがさらりと言った。朝の件もあり、当然俺は反抗できるわけも無く・・・
「はい・・・」
と、言うしかなかった。
「あっ。そうだ。あの子は・・・」
再び少女のほうを見る。
「・・・・・あれ??」
少女の姿は、もうそこには無かった。
「どうした、愚民??置いていくぞ。」
「ん・・・ああ、悪い、今行くよ。」
まぁ、特に気にする必要も無いだろう。ここら辺は道が入り組んでいるし、まさか消えたわけではあるまい。
だが、なんだ。この胸のザワめきは・・・・
俺はレストランにつくまでの間、ずっとそのことが気になっていた。
「つ、疲れた・・・・」
ようやくホテルへと到着する。
荷物を各持ち主の部屋に置くと、俺は自分のベッドに倒れこんだ。
「ふぅ・・・・・・」
あんなに重いものを持ったのは久しぶりだ。腕がビリビリと痺れている。
こりゃ、明日は筋肉痛だな。
「さて・・・午後は何をするか・・・・」
ソレイユは紅葉に案内され、観光に向かった。雪奈はいつの間にかいなくなってたし・・・桜は、見たい店があるとかで、さっさと出かけていった。
桜・・・道に迷わず目的地に到着できるだろうか。恐らく地図は買っているはず。だが、桜はなんと言うか・・・・ドジだ。途中で地図を落としたりして迷子になる可能性は、十分ある。いや、もうなっているかもしれない。
「・・・心配だな。」
俺も良く知らないこの島で迷子になられたのでは、少々危険だ。
「どうせ俺もやることが無いし・・・」
暇つぶしがてら、桜を探してみよう。
俺はそう決めると、早々と部屋を後にした。
次回予告
なくした地図――
「どこにいるんだろ・・・桜・・・」
ここはどこ?
「本当、私ってドジだなぁ・・・」
私は今、どこにいるの?
「あの、すみません。道をお尋ねしたいんですけど・・・」
見つからない道――
「痛・・・ッ!!」
迷える私は、迷子――
次回 第三十六話「迷子」