第三十二話 「豪華」
感想、評価などいただけたら幸いです♪
「や・・・やっと着いたな。」
「少々疲れた・・・・・・・・・・・」
「私も・・・クタクタよ・・・」
「う〜・・・私もです〜・・・」
「・・・・・・・」
「さすがの俺も・・・パワーが尽きた・・・」
午後8時30分――
俺達は、やっとホテルに到着した。結構長い時間歩いていた上に、バイヤーストリートではしゃぎ過ぎたため、さすがの俺達も体力が尽きた。
「あ〜・・・腹減ったなぁ・・・・」
グ〜・・・・
空腹を知らせる腹の音を鳴り響かせながら、俺は嘆いた。
「え〜ッと・・・大丈夫、まだ夕食に間に合うよ。」
ここのホテルは、夜七時から十時までが夕食時間となっている。その時間までに大食堂に行き、注文すれば料理を食べられる。今すぐにでも行きたい気分だった。
「とりあえず買ったものを部屋に置かなきゃね。」
紅葉が言った。
「そうだな・・・じゃあ、さっさと荷物を部屋に置いて、食堂に行こう!」
「「「「お〜!!」」」」
俺達は荷物を置くため、それぞれの部屋へと向かった。
「・・・・・・予想通りだ・・・とてつもなく広い・・・」
荷物を部屋に置き、大食堂に到着する。大食堂は、予想通り途轍もなく広かった。天井には巨大なシャンデリアが掛けられ、いくつものセンスよく並べられたテーブルが食堂全体をより上品に見せていた。
「綺麗ですね〜・・・」
桜がうっとりとしながら言った。紅葉、雪奈も表情を輝かせている。
まぁ、無理も無いか。女の子にはこう言ったロマンチックな雰囲気は堪らないのだろう。残念ながら俺はそんなロマンチックな雰囲気には全く興味が無いので、とりあえず料理が食べたいと思っていた。実に腹が減った。花より団子とはこういった事を言うのだろうか。
「早く席に着こうぜ。」
そう言うと、俺はさっさとテーブルについてしまう。
受付は先程済ませてあるので、待っていればそのうち料理は来るはずだ。
「はしたないぞ・・・愚民・・・」
「そうよ、もう・・・」
「そうですよ〜・・・」
「・・・・コクコク」
女性組が揃いも揃って俺を非難してくる。構うものか。俺は腹が減っているんだ。
「そういえば、颯人を見ないな・・・」
先程から、ヤツの姿を見かけない。
「本当だ。そういえばいないね〜・・・」
「ふむ・・・」
・・・・一体、颯人が忘れられたのは何回目だろうか。少し可哀想だな・・・
だが、嫌な予感がする。何だろう、この胸騒ぎは。
「おねぇさん・・・僕は、恋をしてしまったらしい・・・このシャンデリアより眩しく、上品な貴女にね・・・★」
ああ。胸騒ぎの原因が分かった。
バカ(颯人)がドレスを着た女性に声を掛けている。全く、どこに言っても恥晒しな奴だ・・・それに、あのナンパのセリフ・・・一体いつの時代だよ・・・
「おい!バカ颯人!さっさと席に戻れ!・・・すみません、コイツが迷惑掛けちゃって。」
俺は颯人の首根っこを掴んで強制的に俺達のテーブルに戻した。
「しかし、どんな料理がくるか楽しみだな。」
ソレイユが嬉しそうに言った。
「そうだな!本当に楽しみだ!」
ただでさえ爆発的に空腹の俺には、ここの料理はヨダレが出るほど楽しみだった。
「お待たせいたしました。」
どんな料理が来るのか等と妄想を膨らませている間に、料理が到着する。
「まずはスープでございます。」
コトッ――
テーブルに綺麗に並べられたスープ達。淡く白いそのスープは、俺の食欲を爆発させるには十分すぎた。
「「「「「いただきます。」」」」」」
食膳の挨拶を済ませ、俺達はいっせいにスープをすくい、口元へと持っていく。
そして、口に含む。
―――――!!
「う・・・美味い・・・」
「ほう・・・こいつは・・・」
「お・・・おいし〜い・・・」
「そうですね・・・す・・・すごいです・・・」
「うめぇ〜!すげぇ〜!」
皆は驚きの表情を見せている。それ程このスープは美味であった。
クリーミーながら飽きのこない味わい。まさに絶品だ。
「お次の料理でございます。」
次の料理が運ばれてくる。
今度は肉料理らしく、香ばしい香りが漂ってくる。
「コレもまた・・・・美味そうだなぁ・・・」
「ふむ・・・」
冷めてしまっては味が半減してしまう。早めにいただくとしよう。
ナイフとフォークを使って肉を切り、口元へと運ぶ。
パクッ――
―――!!
「う・・・・美味いっ・・・!!」
「む・・・・!!」
「うわぁ〜!」
「おいしいです・・・!!」
「・・・おいしい。」
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!!うめぇぇぇぇぇぇ!!」
メインと思われるこの肉料理も、素晴らしい味だった。これほどの料理は生まれてから食べたことが無かった。
「すごいな・・・ここの料理は・・・」
思わず感想を漏らしてしまう。
「ああ。素晴らしい味だ。天界でもこれほどの料理は中々味わえん。」
神であるソレイユがここまで評価しているのだ、やはりここの料理は絶品なのだろう。
その後もデザートなど、様々な料理が出された。どれも素晴らしい味で、一品一品に感動してしまうほどだった。
「いや〜、美味かったなあ。」
食堂を後にし、自分たちの部屋に向かう途中、先程の料理の味を思い出し、俺は言った。
「そうだな。レシピを聞いておけば良かったか・・・」
ソレイユが口惜しげに言った。
・・・正直、ソレイユがレシピを聞いても無駄だと思う。なにせ、ソレイユはどんな料理も兵器に仕立てることができる。例えレシピを聞いてその通りに料理を作ったとしても(その通りに作れないとは思うが。)、阿鼻叫喚が繰り広げられるだけだ。
「ソレイユさんの料理、一度食べてみたいです〜!」
桜が言った。地獄を体感してないからこそ言える発言だ。一度ソレイユの料理を口にしてしまえば、二度とそんな口は叩けなくなる。
悪いことは言わん、やめておけ。
「や、やめておいたほうがいいと思うな〜・・・」
紅葉が桜を抑制する。ナイスだ、紅葉。桜がソレイユの料理を食べてしまったら、彼女は本気で危ない。
「そ、それはともかく風呂に入ろうぜ。ここのホテル、大きな露天風呂がついてるしさ。」
話を逸らすべく、風呂の話題を出す。
「そうだな。動き回ったおかげで些か体がダルい。」
ソレイユが自分の肩を叩きながら言った。
「じゃあ、お風呂に入る?私もちょうど入りたいと思ってたところだし。」
紅葉が皆に向けて言った。
「あ、私、賛成です〜。お風呂、楽しみにしてたもので・・・」
桜が少々はにかみながら言った。
「・・・私も・・・賛成。」
雪奈も賛成らしいな。
後は・・・
「さんせー!さんせー!風呂いこーぜ!!」
いやらしい視線と妙な張り切り具合が非常に気になるトコロだが、颯人も賛成らしい。
「それじゃ、風呂に向かうとしますかね・・・」
俺達は部屋に戻り、着替えを取ると、露天風呂へと向かった。
「おいおい・・・風呂まで巨大なのか・・・」
このホテルはあらゆる場所が広く巨大だ。当然、この露天風呂も例外ではなかった。
ただでさえ人が少ない時間だ。その広さを嫌でも実感してしまう。
「広すぎるのも問題だな・・・」
呟きながら、湯船につかる。温度は少々熱く感じたが、それにも慣れ、すぐに心地よい湯加減になった。
「あ〜・・・極楽だ・・・」
ついつい親父臭い事を言ってしまう。これでド○フの歌なんぞ口ずさみたくなっちまった日にゃもう終わりだな。
「あれ・・・・・」
そんな事を考えている途中、またも颯人の姿が見当たらないことに気付く。
「あいつ、今度はどこに行ったんだ・・・?」
「おーい、おーい、涼太、こっちに来〜い!」
周囲を見回していると、露天浴場の端の方から颯人が俺を呼ぶ声がした。
「おまえ、こんな所で何してんだよ。」
壁際で不審な動きをしている颯人に向かって尋ねる。
「フッ・・・涼太よ。コレを見てみろ。」
颯人が前方を指差す。指し示された先には、巨大な壁がそそり立っていた。
「この壁がどうしたんだよ?」
壁を指し示されただけでは良く分からないので、再び尋ねてみる。
「フフフ・・・この壁に、耳を当ててごらん・・・」
「・・・・??」
言われたとおりに、壁に耳を当ててみる。すると・・・
「ふ〜・・・いい湯加減だな・・・」
「ん〜!ホント!気持ち良い〜!」
「はふ〜・・・極楽です〜・・・」
「・・・・・・は〜・・・」
壁の向こうからは、女性組の声がする。すると、この壁の向こう側は女湯か!?
「入り口が隣り合わせだったから、もしやとは思ったが・・・」
「フフフ・・・コレで分かったろう!?俺がやらんとしていることがな!!」
・・・・・良く分かった。恐らく99%合っているだろう。
「名付けて、【湯煙★麗しくも初々しい女体をのぞけ】大作戦だ!!」
・・・・・・やっぱり、のぞきか。
世の中にはいるんだよな〜。その場の欲で犯罪行為を働いてしまう奴が・・・コイツも【その類】か。
「フッフッフ・・・男同士、共に頑張ろうではないか。」
颯人が妙に張り切っている。
「俺はやらねーよ。お前一人でやれ。」
颯人の勧誘をきっぱりと断る。
「フ・・・もう一度壁に耳を当ててみろ。」
「は・・・?」
颯人が自信満々に言ったのが気になるが、とりあえず颯人に言われたとおりにすることにした。すると・・・
「こ、こら!やめんか!」
「いいじゃない!減るものじゃないし。」
「も、紅葉さん!私にまでやらないでくださいよ〜!」
「・・・・」
「もう〜!おかえしです〜!」
「きゃっ――!やったわね〜!」
「私も・・・おかえし・・・」
「私もだ!」
「いや〜!!」
・・・
・・・・・
・・・・・・・・・
敢えて言おう。俺は男であると。健全で立派な男であると。
そして考えてみよう。女湯がこの壁を隔てた向こう側にあるのに、のぞかないという手はあるだろうか。否!断じて否!!のぞかないのでは、逆に風呂にいる女性に失礼である!だから俺はのぞく!壁の向こうにいる女性達のために!俺は、【その類】になることを今ここに宣言する!!
ガシッ――!!
俺は、颯人の手をガッシリと握った。
「やろう!颯人!男の根性見せてやる!」
「その意気だ!涼太!」
ここに、男の友情が誕生した。
「で、この壁はどうやって越えるんだ??」
「フフフ・・・俺を誰だと思ってる!そんなことはもう考えてある!」
颯人が自信たっぷりに笑う。こういうときの颯人は実に頼もしい。
「見ろ!風呂桶を重ねて作った、【のぞき用風呂桶ピラミッド】だ!!」
颯人が指を指した先には、風呂桶を何個も重ねたピラミッドが2つ出来上がっていた。少々手が古いような気もするが・・・
「さあ、共に行こうではないか!同士よ!」
「ああ!行くぞ!」
俺と颯人はピラミッドに登りはじめた。やはりただの風呂桶なので少し不安定だったが、どうにか登ることができた。
そして、俺達は未知の空間を目撃する――
「いや〜!やめて!」
「散々やっておいて・・・いまさら逃れられると思うな。」
「えいっ!」
「いや〜!」
「・・・覚悟。」
「もう〜〜!!」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
やって良かった・・・・!!
俺は今、心の底から充実感を感じている・・・!!
颯人の気持ちが、分かったような気がするよ・・・!!
「颯人、ありがとう!俺にこの喜びを教えてくれて!!」
俺は感謝の気持ちをフルに込めて颯人に言った。当の颯人は・・・
「エヘヘ・・・エヘヘ・・・・」
気持ち悪いほどいやらしい顔で女風呂を覗いている。俺よりもはるかに酷かった。
「もう我慢できないや。女風呂に行っちゃお〜・・・エヘヘ・・・」
まずい、颯人が柵を乗り越えようとしている。それだけは止めなければ!
バレたら本気で殺される――!!
「こ、こら、やめろ颯人!落ち着け!」
「もう無理!!俺は行く!涼太、離せェェェェ!」
尋常でないパワーで暴れる颯人を、止めようと試みる。が、しかし――
ガタンッ――
「う、うわぁ!」
ピラミッドのバランスが崩れ、崩壊していく。
「ま、まずい――」
ガタガタガタガタガタガタ――ッ!!
「どああああああああああ!!」
ついにピラミッドは完全に崩壊し、俺達は女風呂へと落下してしまった。
「いててててててて・・・・」
どうやら頭を打ったようだ。ガンガンと痛む。いや、それよりも何か巨大なプレッシャーのようなものを感じる。
横では颯人が後ろを向いて硬直していた。その表情は、何かに恐怖しているようにも見えた。
「おい、どうしたんだよ、颯人――」
俺は後ろを振り向いた。
「ほう・・・のぞきとは・・・随分と低俗なことをやっているじゃないか。愚民よ。」
そこには、殺意の波動を放ちつつ仁王立ちしているソレイユの姿があった。
いや、殺意の波動を放っているのはソレイユだけではない。紅葉も何やら風呂桶をスタンバイしているし、雪奈からも静かな殺意が感じられる。桜だけは顔を真っ赤にして雪奈の後ろに隠れていた。
なるほど、コレで分かったよ。さっきのプレッシャーの正体が。
・・・分かっちまったよ・・・
「さて、覚悟はいいな・・・」
ソレイユが静かに言った。
「ソ、ソレイユ!誤解だ!俺はただ、遠くの景色を見ようと・・・」
必死に言い訳をするが、ソレイユの殺意の波動は消えない。
「消えろ!!・・・・・@△●?ΩΣ@*?Λβθ!」
バリバリバリバリバリバリバリッ――!!
「「ぎゃあああああああああああああああ!!」」
ソレイユの電撃が俺達を貫く。
薄れ行く意識の中で、俺は決意した。もう、二度とのぞきなんてしないと。そして、颯人を信じてしまったことを深く後悔した。
悪いことをすると天罰が下るってのは、まさにこの事なのかも知れないな。
次回予告
リゾートと言ったら、やっぱり――
「やっぱ海水浴!泳がなくっちゃ!」
青い海――
「うっひゃ〜。相変わらず大きいなぁ。」
白い雲――
「エヘヘ・・・似合う??涼太が選んでくれたんだけどね。」
輝く太陽――
「ぐ、愚民・・・わ、私はどうだ・・・・」
次回 第三十三話「海水浴 前編」