第二十八話 「準備」 前編
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8月3日――
8月8日から、「夏鈴島」への旅行へいくことになった俺達。
だが、俺は別段新しい準備をする必要もなく、家でぐうたらと過ごしていた。やはりこれが、一番学生らしいスタイルである。
「やっぱ夏休みは、家でぐ〜たらと過ごすに限るな。」
自分の考えを自分の中で再度肯定すると、ソファーに寝そべりアイスをかじる。
しかし、そんな平穏も長くは続かなかった。
「おい!愚民!ちょっと付き合って欲しい所があるんだが・・・・」
ソレイユが寝そべっている俺を見下ろしながら、そう言った。
「付き合って欲しい所?」
俺はソファーから体を起こしながら、ソレイユに尋ねた。
「うむ。私は下界のリゾート地には行ったことがないのでな。水着などを購入したい。」
「ああ・・・そっか・・・」
すっかり忘れていた。確かにソレイユは色々と準備が必要だな。
「分かった。んじゃ、買い出しに行くか。」
「うむ。」
俺達は支度を整えると、街へ買い出しに向かった。
「「うひゃ〜・・・・」」
街は相変わらず混雑していた。特に夏休みということもあって、俺達と同じ目的の客もいるのだろう。
「とりあえず、デパートに行こう。水着を選ばなきゃな。」
「うむ。そうだな。」
そう言うと、俺達ははぐれないよう手を繋ぎながらデパートへと向かった。
「む〜・・・・どれに・・・・」
「・・・・・」
俺達はデパートに着くと、水着コーナーへと向かい、ソレイユが着る水着を選んでいた。
「む〜・・・・」
「なぁ、ソレイユ。さっきからかなり悩んでるけどさ、水着なんてどれも同じじゃないか。」
俺は思っていることを口にした。
「バカ者!女性にとって水着選びとても重要なんだぞ!」
「はいはい・・・・」
と言ったものの、先程から水着が決まる気配はない。これはまだ当分かかりそうだな。
「そうだ!愚民、貴様が選んでくれ!」
突然、ソレイユが俺に向かっていった。
「え?なんでだよ?自分で選んだほうがいいんじゃないか?」
なぜ俺に任せるのかも分からないし、女性の水着を選ぶのも初めて。当然、良い水着を選んでやれる自信は無かった。
「う・・・うるさい!別に理由など無い!何となくだ!何となく・・・」
底までして俺に頼む理由が分からなかったが、こんなにも頼んでいるのだ、せっかくだから選んであげよう。
ソレイユはお世辞にもナイスバディーと呼べるほど成熟してはいない。よって、ビキニタイプなどは付けられないだろう。
「そうだな・・・ソレイユには、これが似合うんじゃないか??」
俺は可愛らしいオレンジ色のワンピースタイプの水着を選び、ソレイユに見せた。
「おぉ!なかなか良いではないか!ちょっと試着してくるから・・・待っていてくれ!」
ソレイユは嬉しそうににっこりと微笑んでそう言うと、試着室へと入っていった。
しかし・・・ソレイユの顔、本当に嬉しそうだった・・・俺に選んでもらった水着が、そんなに気に入ってくれたのかな・・・
「待たせたな、愚民。ちょっと来てくれ。」
試着室のほうから、ソレイユの声がした。
「ああ・・・・着れたか?」
俺はそう言って、試着室を開けた。
シャッ――
「ど・・・どうだ・・・?愚民・・・?」
―――!!
綺麗だった。似合ってるなんてもんじゃない。ソレイユは悪く言ってしまうとお子さま体型だが、かえってそのスラッとしたボディーラインが、水着の良さを引き立たせ、ソレイユを更に綺麗に仕立てていた。
「綺麗だ」――なんて恥ずかしいし口に出して言えるわけないが・・・
・・・・・いや!俺も男だ!「綺麗だ」ぐらい言ってあげなきゃ!
「その・・・似合ってるよ。ソレイユ・・・・き、ききき綺麗だ・・・・」
「―――なっ!!」
ソレイユの顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。
「で・・・でででででは、この水着を買ってくるぞ!」
「あ、ああ。」
ソレイユはそう言うと、レジへ向かっていった。
「ふぅ・・・」
しかし、さっきのソレイユは本当に可愛かった。図らずとも見とれてしまった自分を思い出し、頬を赤らめた。
「お〜い!愚民!他の買い物もするぞ〜!」
ソレイユが手を振りながら帰ってきた。
・・・仕方がない、今日は、荷物持ちでも何でもしてやるか。
「おう!じゃ、次行こうぜ!」
俺とソレイユは再び並んで歩き出した。
「つ・・・疲れた・・・・!!!」
家のソファーに寝そべりながら、そう呟く。あの後二時間も買い物に付き合わされ、大量の荷物を「全て」持たされた。
「だ〜・・・今日はもう動きたくない・・・」
ソレイユは調査やらで帰ってすぐにどこかに行ってしまった。しばらくはソファーで横になるとしよう。
ピリリリリリリ・・・
「ん・・・?」
突然、ケータイの着信音が鳴り出す。誰からの電話だろう?
ディスプレイには「紅葉」と表示されていた。・・・物凄く嫌な予感がするのだが。
俺はケータイの受話スイッチを押すと、電話に出た。
「もしもし・・・・」
「あ!もしもし!涼太!?あのさぁ〜!今からちょっと付き合って欲しい所があるんだけど・・・」
ホラ来た。
正直、今日はもう動きたくない。・・・・かと言って、断ってしまっては後で何をされるか分からない。恐らく・・・
【行けない→なんで?→疲れたから→何で疲れたの?→ソレイユの買い物に付き合ったから→ソレイユの買い物には付き合えて、私の買い物には付き合えないの→で、でも・・・→問答無用→ギャー→死】
というような流れになってしまうだろう。全く、タチの悪いものである。
「・・・分かった。行くよ。で、どこに行けばいい?」
「え〜っとねぇ!私、今デパートにいるんだぁ!水着売り場にいるから、今から来てくれない?」
またデパートか・・・
「分かった。じゃ、少し待っててくれ!」
「りょうか〜い♪待ってるね!」
ガチャッ・・・・
「はぁ・・・」
盛大なため息をつく。
また、あのデパートに行く羽目になろうとは・・・
俺は再び仕度を整えると、急いでデパートに向かった。
「・・・で、どれがいいと思う??」
「・・・・は?」
俺がデパートに着くなり、紅葉はそうたずねてきた。
「何がだよ?」
質問の意図が全く理解できなかったので、紅葉に聞き返す。
「だ〜か〜らっ、水着!どれがいいと思う?涼太、選んでよ。」
「・・・・・・・・ハイ!?」
またか!?またなのか!?またしても俺は女性の水着を選ぶことになるのか!?でも、一体なぜ俺なのだろう。そこだけが疑問だった。
「何で俺なんだよ・・・」
「ん?涼太に選んで欲しいからよ。」
「あのな・・・」
当たり前の回答を返される。が、いつまでも質問を繰り返していてはイタチゴッコになってしまうので、俺は素直に水着を選んでやることにした。
「分かった。選んでやるけど、文句は言うなよな?」
「ありがとう!!言わないよ♪」
「なら良いんだけど・・・」
俺は紅葉に似合う水着を探し始める。
紅葉は意外とスタイルが良い。まさしくナイスバディーと呼べるだろう。・・・紅葉ならビキニタイプもいけるかな?
「えっと・・・これなんか良いんじゃないか??」
俺は黒いビキニタイプの水着を紅葉に見せる。
「ちょっ・・・!これ、大胆すぎないかなぁ?」
「ん〜・・・?大丈夫だろ。紅葉、スタイル良いし」
「えっ・・・!!」
俺の言葉に、紅葉は白い頬を真っ赤に染めた。
「えっ・・・やっ・・・あの・・・わ、私、試着してくる!」
紅葉はそう言うと、さっさと試着室に入ってしまった。
顔が真っ赤になっていたが、大丈夫だろうか?
「りょ、涼太〜!来て〜!」
しばらくすると、紅葉が俺を呼ぶ声が聞こえた。
「お〜い、開けるぞ?いいか?」
「ん・・・」
俺は紅葉の返事を聞き、試着室を開けた
シャッ――
「ど・・・どうかな・・・涼太・・・?」
―――!!
俺が選んだ水着は、恐ろしいほど紅葉に良く似合っていた。紅葉のスタイルならば着こなせるとは思っていたが、まさかこれ程とは・・・水着の大胆なデザインが、紅葉のスタイルをより引き立てている。
「う・・・・何か言ってよぉ・・・!」
「―――はっ!!」
紅葉の言葉で、我に返る。
「えっと・・・すごい似合ってるぞ・・・紅葉・・・可愛い・・・」
俺はありのままを紅葉に告げた。だが、紅葉は頬を赤く染め、歓喜に満ちた表情で、
「ホント!?涼太、ありがと〜っ!!」
と叫びながら、俺に抱きついてくる。
その騒ぎに周囲の人たちの視線が一斉に俺達へと集まった。
「バ・・・バカ!人が見てるだろ!」
「あ・・・・そっか!!」
紅葉はあわてて俺から離れると、再び更衣室へと消えていった。
「涼太〜!今日はありがとね〜!」
「ああ。気をつけて帰れよ。」
紅葉が家に入ったのを確認し、俺も自分の家へと入る。
「あ``〜〜・・・今日は本当に疲れた・・・・」
ソファーに身を任せるように倒れこむ。
・・・しかし、まさか二回もデパートに行く羽目になろうとは。
幸い、ソレイユはまだ帰ってきてないようだ。帰ってくるまで、横にならせてもらうとしよう。
ピリリリリリリリリリ――
そう思ったところで、突然携帯電話の呼び出し音がなる。
その時俺は、何故だか本当に嫌な予感がした。
次回予告
三度鳴り響く電話――
「あ!もしもし〜!涼太さんですか〜??」
迷える少女――
「・・・分かった。今から行くよ。今、どこら辺にいるか分かるか?」
度重なる選択――
「じゃ・・・これはどうだ?」
そして、地獄――
「問・答・無・用!!」
次回 第二十九話「準備」 後編