第二十二話 「巨城」
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水曜日――
俺達は学校をサボり、地図を頼りに雪奈の家に向かっていた。
理由はもちろん、雪奈の転校を防ぐためである。
雪奈の話によれば、今週は水曜日だけ雪奈の両親の仕事は休みらしい。つまり、話し合うには、今日しかないということだ。
雪奈とは、雪奈の家の前で待ち合わせしている。もう俺達の学校はどうでもいいと見なされているので、雪奈は平日に休んでもなんとも思われないらしい。作戦を実行しやすくて助かる。
「絶対に転校は止める。とりあえず話を聞いてみよう。」
「うむ。そうだな。いきなりの攻撃は少々まずいかもしれんな。」
「そうね。いきなり殴りこむのは良くないと思うし。」
俺とソレイユと紅葉は、歩きながらこれからの作戦を話し合っていた。
考えもなしに突入するのはマズイ。話し合いなら、ソレイユと紅葉がいるから何とかなるかもしれないが・・・
心配なのは、ソレイユだ。怒りに任せて、呪文詠唱する危険性がある。ていうか、むしろ詠唱する可能性が高い。まぁ・・・ソレイユも子供じゃないし、その辺はわきまえてるよな・・・?
「愚民?どうした?さっきから黙り込んで。」
ソレイユが訝しげに俺の顔を覗いてくる。
「い、いや!なんでもない!なんでもないよ!」
【ソレイユが暴れるのを恐れていた】なんて言えるわけが無い。言ってしまったら俺が呪文詠唱を受けてしまう。
「ん・・・?あれは・・・?」
雪奈の家に向かっている途中、見慣れた人物に遭遇する。
「え〜っと・・・ここは・・・どこぉ・・・?」
――桜だ。
今頃は学校だってのに、何をしているんだろう?・・・予想はつくけど。
妖しさ全開でさまよっている桜。自転車に乗ってフラフラとしている様子は、挙動不審という言葉がよく似合う。このままでは近隣の住民に通報されかねないので、声をかけることにした。
「お〜い、桜。何してんだ、こんなところで?」
「え・・・?あぁ〜!!り・・・涼太さんに、ソレイユさんに、紅葉さん!・・・実は・・・あの・・・・学校に行けず・・・迷子になってしまったんです・・・」
やっぱり迷子か・・・いつもの事だが、桜の方向音痴は半端じゃない。
「地図はどうしたの?」
紅葉が尋ねた。
「実は・・・気付かないうちに・・・どこかで落としてしまったらしくて・・・」
そう言えばよく地図を落としてしまうと言っていたな。
しかし、このままでは本当に家に帰れなくなる心配がある。
「あの・・・涼太さん達は・・・何をしてるんですか・・・?」
桜が俺達に向かって尋ねた。
「俺達は、雪奈って子の家に向かう途中なんだ。」
俺達の目的を説明する。すると桜が、あれ?というような顔をして、首を傾げた。
「雪奈さん・・・?変わった名前ですね・・・?フルネームは何というんですか?」
桜が尋ねてくるので、何で知りたいのだろう?と思いつつも、教えてやる。
「フルネーム?【冬美 雪奈】だよ。」
「【冬美 雪奈】!?もしかして・・・せっちゃん!?」
桜は意外な反応をする。雪奈のこと、知ってるのかな?
「雪奈のこと、知ってるのか?」
思ったことを尋ねてみる。
「ええ!知ってます!小学校のときの同級生で・・・とっても仲が良くて、親友同士だったんです。家にも行ったことがありますよ。ご両親は出張だったらしくいらっしゃらなかったんですけど・・・でもある日、せっちゃんは急に転校してしまって・・・せっちゃんから聞いた話しだと、これまでも何度か転校を経験してるようで・・・」
急に転校・・・そして何度も転校している・・・間違いない。桜の言っている雪奈と、俺達の友達の雪奈は、同一人物だ。
「で、涼太さん達は、どのようなご用件でせっちゃんのご自宅に?」
「雪奈は、また転校させられようとしているらしい。私達は、それを止めにいく。雪奈は転校したくないって言ってるからな。」
尋ねてきた紅葉に、ソレイユが答えた。
「えっ!?また転校しちゃうんですか・・・やっぱり、今までの転校は、せっちゃんが望んでいたことではないんですね・・・」
「うん。親が決めたそうよ。」
「・・・・・・」
紅葉が答えると、桜は急に黙り込む。何だろう?と思っていると、桜が急に顔を上げ、俺達に言った。
「涼太さん!私も・・・私も、せっちゃんの家に連れてってください!親友として・・・私にもできることがあるはずです!私は、親友が困っているのを見てられません!お願いします!」
桜は俺達に向かい、そう言った。俺とソレイユと紅葉は、互いに顔を合わせ、互いに合図する。
「ああ!もちろんだ!」
「人手は多いほうが良いからな!」
「頼りにしてるよ、桜ちゃん!」
俺達はそう答えた。
「はい!がんばります!微力ながら、私も涼太さんたちのために、そして、せっちゃんのために・・・できることをします!」
桜は決意に満ちた目で、そう言った。
「んじゃ、早く雪奈の家に行こう。あいつを・・・籠から解き放ってやるんだ・・・!」
20分後――
俺達は確かに、地図に従ってここまで来た。
きちんと道順も確認しながら来たので、間違っていないはずである。
しかし、地図に書いてある目的地に着いた俺達の前には――
――大きな城が建っていた。
「あ・・・あれ〜・・・道、間違っちゃったか・・・?お城に着いちゃったぞ・・・?てか、この町にはこんなお城があったのか・・・?」
俺は再び地図を確認する。が、間違いなくここが目的地である。
俺達が地図を見ながらウンウン唸っていると、桜が俺達に向かって言う。
「何言ってるんですか、涼太さん。ここが、せっちゃんのお家ですよ。」
「「え・・・えぇぇぇ〜〜!?」」
信じがたい。城に入るための門は高さだけでも俺達の7倍以上の大きさがあり、庭も半端じゃなく広い。校庭など、ミジンコに見えてしまうほどの広さである。中央には噴水が設備されており、美しい水のオブジェを形成している。敷地内には城本体のほかにも大きな建物がいくつか見える。城本体も、相当巨大で、一流ホテルすらも霞む巨大さである。
「何でこんな城が・・・この町に・・・」
「正確には、ここら一帯は、すべて冬美家の私有地です。ここに入ってくる前、森があったでしょう?そこからもう冬美家の土地ですよ。」
「詳しいな、桜・・・」
俺達が話していると、雪奈がやってきた。
「・・・ようこそ・・・私の家に・・・」
「雪奈・・・さま・・・」
「・・・さま・・・?」
おっと・・・お金持ちっぷりを見たら、おもわず「さま」をつけてしまった。
俺達が挨拶を交わすと、桜が突然、雪奈に飛びついた。
ガバッ―
「せっちゃん〜!!久しぶりだね〜!!」
「・・・!?もしかして・・・さっちゃん・・・?」
「そうだよ〜!!うわ〜ん!懐かしいね〜!!」
「・・・うん・・・!」
桜と雪奈は深く抱き合っている。
懐かしい再会に、二人は今にも泣き出しそうだ。
いつもは無表情の雪奈も、どこか嬉しそうにしていた。
あ・・・ちょっといいかも・・・
「では雪奈、さっそくお前の家に案内しろ。」
ソレイユが切り出す。
「・・・分かった・・・入って・・・」
俺達は巨大な門をくぐり、庭に入る。入ってみると、改めてその大きさが分かる。
「・・・あの建物が、倉庫・・・」
雪奈が指したのは、俺の家の3倍はある、巨大な建物。倉庫とは思えない。・・・思いたくない。
「あれが・・・犬小屋・・・今は使われてないけど・・・」
次に雪奈が指したのは、俺の家の5倍はあるであろう、巨大な住居。・・・犬小屋らしい。ありえない。自分に絶望したくなる。
「ふむ・・・では、犬小屋からいくか。」
ソレイユが突然言い出す。
「え・・・?いくって・・・何を・・・?」
「@△゛дΒθωγ・・・η√ζ!!」
バチバチバチバチィィィィ!!!
ドガァ!!
犬小屋・・・大破!!
突然呪文を詠唱し、ソレイユは巨大な犬小屋を破壊した。
「「「何してんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
いきなり犬小屋(そこらの家より高級且つ巨大)を破壊したソレイユ。しかし、彼女は動揺の色すら見せない。
「ふむ・・・まぁ、こんなものだろう。」
そして襲いくるガードマン達。
「ま、まずい!こっちに来るぞ!」
相変わらず危険なソレイユの作戦。
「・・・ああ。分かった。お前の考えてることは分かったんだけど・・・コレ・・・ヘタすりゃ・・・いや、ヘタしなくても警察沙汰だよ・・・」
次回 第二十二話「突入」