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第二十一話 「友達」

「せいぜい今週いっぱい、クズ学校の思い出を作っておくんだな。」


父は静かに、いつものようにそう言うと、席を立った。


「今週・・・・いっぱい・・・」






「ふぁ・・・眠い・・・」


4時間目の授業が終わった。これから昼休みに入る時間だ。眠いったらないよ。

やはり昼休みは寝るに限る。


「コラ!愚民!シャキッとせんか!シャキッと!」


ソレイユがこちらにやってきて、背中をバンバンと叩いてくる。

正直、痛いんだけど・・・


「そうよ!シャキッとしなさい!シャキッと!」


紅葉までもが背中をバンバンと叩いてくる。


「む・・・紅葉、キサマ!私がやっていることを真似するな!」


ソレイユは紅葉に変な対抗心を燃やし始める。


「ふん!私のほうが叩いてる回数多いんだからね!ほらバンバン!!」


紅葉もソレイユの対抗心に更に対抗し、先ほどよりも強く、そして速く背中を叩いている。


「なにを!私のほうが!ほらバンバンバンバン!!」


ソレイユはその対抗心に更に対抗し、先ほどよりも相当強く、そして高速で背中を叩いている。


「いやいや!私のほうが!バンバンバンバンバンバン・・・・」


紅葉はその対抗心に更に更に・・・ってもう分かんなくなってきたよ!

っていうか痛いよ!かなり痛い!


「だぁぁ〜!!おちおち寝てもいらんね〜!!」


ガバッ――


「あ!愚民!待て!」


「あ〜、涼太!待ってよお!」


俺は二人を振り払うと、ゆっくり眠れるところを探すため、教室を出た。




 


どこか眠るところを探しフラフラとさまよっていると、屋上へと到着する。

もう、目蓋が半分ほど閉じ始めている。こうなったら仕方がない。


「眠い・・・限界だ・・・よし・・・屋上で寝ちまおう・・・」


俺は場所探しを諦め、屋上でそのまま寝ることにした。

あいにく今は、屋上には俺一人だ。睡眠を妨げられることも・・・


「ん・・・・?」


屋上のフェンスに寄りかかっている人影を発見する。誰だろうか。

確かめるべく近づいてみる。


「あれは――」


――人影の正体は雪奈だった。


「・・・・・」


相変わらず、無表情な奴だ。だけど・・・


「何か・・・変だな・・・」


何だろう、この違和感。雪奈の無表情の中には――悲しみのようなものを感じた。

俺の気のせいかもしれない。実際、普段と表情は変わらない。変わらないのだが・・・俺には雪奈が、悲しみを押し殺しているように見えた。


「雪奈・・・」


自分でも気付かぬ間に、俺は雪奈に声をかけていた。


「・・・!・・・・四季嶋くん・・・」


雪奈が俺の声に振り向く。


「お前・・・なんか我慢してないか?」


ピクッ―っと雪奈の体が一瞬だけ震える。

まるで図星だと言わんばかりに。


「・・・・・・・・別に・・・なんでもない・・・」


やっぱり。何かをこらえている。必死に。悟られまいと必死に。


「本当に・・・何でもない・・・」


まだ堪えるつもりなのだろうか。見かけによらず、頑固だな・・・


俺は雪奈の頭に手を置く。


ポンッ―


「・・・!」


「俺じゃあ・・・ダメかな?・・・確かに、俺に言っても何にもならないかもしれないな。でもさ、悲しいときは、一緒に泣こうぜ。そんで、嬉しいときは、一緒に喜ぼう。それが、友達ってもんだ。」


「・・・!・・・トモ・・・ダチ・・・?」


雪奈がこちらを見据える。俺も刹那を見据え、こう言った。


「ああ!俺と雪奈は、友達だ!」


「―――ッ!!」


途端、雪奈の目から一筋の雫がこぼれる。

―涙だ。


「・・・・・・うっ・・・くっ・・・でも・・・ダメ・・・私の友達は・・・みんな・・・離されてしまう・・・だから・・・」


雪奈は声を殺して泣いている。

ああ。なんと小さいのだろう。

いつもは無表情で、勉強も完璧、運動神経も抜群。でも――


やっぱり・・・女の子なんだよな・・・


そっ・・・


「・・・っ!!」


俺は雪奈を――そっと・・・抱きしめた。


「ぁ・・・」


「泣きなよ。雪奈。俺はお前の友達だ。たとえ力になってやれなくても・・・一緒に悲しむことはできる。だから・・・」


「う・・・!う・・・うわぁぁぁぁぁぁん・・・・!」


それから雪奈は・・・糸が切れたように大声で泣き出した。

俺の胸の中で・・・

それはまるで・・・溶け出した雪のようで・・・

儚くて・・・

美しかった・・・





それから俺は、雪奈から事情を聞いた。

最初は途切れ途切れだったが、徐々に、しかし確実に、雪奈は事情を話していった。

全てを話し終えた後、雪奈はまた泣き始めた。


「う・・・く・・・・ううっ・・・く・・・」


「良く・・・・よく頑張ったな、雪奈。」


俺は雪奈の頭を撫でる。馴れ馴れしいとか思うかもしれない。でも、思ってもらってかまわない。こうすることで雪奈が少しでも落ち着いてくれるのなら・・・かまわなかった。


「うむ!よく頑張ったぞ!雪奈!」


「うん!よく頑張ったよ!雪奈ちゃん!」


突如、俺の後ろから声がした。俺は声のほうを振り向く――


「ふっふっふ・・・今の話、聞かせてもらったぞ。」


「私も。聞かせてもらっちゃった。」


ソレイユと紅葉だ。


二人は俺に目で合図をする。俺には、彼女達が何を言おうとしているのか分かった。


「雪奈、俺達、お前に協力してやれそうだ。」


「うむ!私も協力しよう。」


「えへへ!私も!!」


俺達3人は、雪奈に向かってそう言った。


「でも・・・どうして・・・あなた達まで・・・」


涙で目を真っ赤にしながら、雪奈が問う。

雪奈にしては愚問だな。そんなの決まってるじゃないか。


「「「決まってる!友達だから!!」」」


俺とソレイユと紅葉の声は、見事に重なった。

俺達3人は、互いの手を押さえあうように、手を重ねる。


「友達・・・私の・・・友達・・・ッ!」


雪奈の目に、決意のようなものが浮かぶ、雪奈は立ち上がり、涙をぬぐうと、俺達のほうを向いた。そして、俺達の手に自分の手を重ねる。


「私たちは・・・友達・・・!!」


「その通り!それじゃ・・・」

俺は一呼吸置いてから、言葉を続ける。


「とりあえず、おまえの家に行くぞ、雪奈!」


雪奈との約束を果たすため、雪奈の家に集合する俺達。

「何言ってるんですか、涼太さん。ここが、せっちゃんのお家ですよ。」

信じがたいその光景と、信じがたい太陽神の行動。

「ふむ・・・では、犬小屋からいくか。」


次回 第二十二話「巨城」

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