第二話 「光臨」
「はぁ・・・」
入学式の帰り道。俺の心は、行き道と同じく絶望感に支配されていた。
校長の説教は異常なほど長かった。合計・・・・6時間程だろうか。
せっかく早く帰れるはずの入学式だと言うのに・・・・・・この日、俺が帰路につけたのは午後6時過ぎだった。
もう立派に夕方だ。周りには部活帰りの生徒がちらほら。
昼飯を取っていないからだろうか、随分と腹も減った。
「こりゃ、早く家に帰るに限るな。」
そう思うや否や、俺は家へと自転車を進めた。
20分ほど掛けて、ようやく我が家に到着。自転車を停め、ドアを開ける。
ガチャ――
「アレ・・・・・・?」
鍵が……開いている?出かけるときは、いつも鍵を閉めるはずだ。
今朝は急いでいたし……鍵を閉め忘れたのだろうか?
その可能性も無くはないが、一応警戒しておこう。
――出来るだけ物音を立てず、家の中に入る。
やはり先程まで人がいた気配がする。
「具体的にはどんな気配だ」などと聞かれても答えられないので、あしからず。
それはそうと、一体誰が家の中に?
可能性として考えられるのは・・・空き巣、両親。
しかし俺の両親は海外に出張中。しばらく帰って来れないといった内容の手紙を先日もらったばかりだ。
ならば、やはり空き巣か。両親でないとすれば、空き巣くらいしか考え付かない。
……探し出して撃退するしかないか。
「……よし。」
俺は足音を立てないように、空き巣探索を始めた。
見たところ家の中が荒らされた形跡は無い。だが、油断は禁物だ。まだどこかに潜んでいる可能性は十分ある。
「ん……?」
どこかから物音がする。
それは、水が地面に叩きつけられるような音――
そして、俺が毎日聞いている音――
「……シャワーだ!」
俺は急いで風呂場へと向かう。しかし、空き巣が呑気に風呂なんぞに入るだろうか。
まぁそんなことはどうでも良い。とにかく今はヤツをつかまえなくては。
――風呂場に到着。
やはりシャワーの音が聞こえる。
空き巣の奴……のん気にシャワーなんぞ浴びやがって。
しかし、バカな空き巣だ。そんな事をしていればすぐに見つかるに決まっているだろうに。
俺は足音を立てず、浴室の扉の前まで来た。
そして――
ガララッ――
「空き巣め!覚悟しろ!」
風呂場の戸を勢い良く開け放ち、大声でそう言った。
シャアアアアアアアア―――
「・・・・・」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
風呂場にいたのは、なんと少女だった。
それも、非常に可愛い。見た目は12〜13歳と言ったところだろうか。
シャワーを体に浴び、うっとりとしていた少女は、こちらを見て硬直してしまっている。
「し、失礼しましたー。」
ガラッ――
扉を閉める。
ふぅ。参った。女の子の入浴シーンをのぞいてしまった。通報されなきゃいいけど・・・・
・・・・・・おい。
・・・・・・ちょっと待て。
どうして女の子が俺の家でシャワーを浴びているんだ。
おかしい。
明らかにおかしい。
・・・・・・直接聞くしかない。
ガラッ――
「おい・・・どうして俺の家でシャワーを・・・」
「@△●?ΩΣ@*?Λβθ!」
バリバリバリバリバリバリバリバリッ――
言い終える前に、電撃のような衝撃が俺の体に走る。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
一体、これは何だ……!?
俺に電撃が当たる前、少女は呪文のようなものを唱えたように聞こえた。アレは何だったんだ。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺の意識は、そこで途絶えた。
最後に聞いたのは、自分の痛烈な叫び声だった。
「ん・・・」
目を覚ますと、見慣れた光景が目に飛び込んできた。どうやらここはウチのリビングらしい。
俺はテレビの前のソファーに横たわっていた。
確か俺は・・・空き巣を探して・・・風呂場から物音がして・・・確かめに行ったら・・・
「そうだ!あの女の子は!?」
周囲を見回してみるが、誰もいない。
「アレは・・・夢だったのか・・・」
それもそうか。「風呂場に行ったら女の子がいました」なんて事があるわけ・・・
「夢では無い!」
不意に、俺の背後から声がした。
そこには――
「ふむ。ようやく目覚めたか。」
――風呂場にいた少女が立っていた。
いや、正確に言えば、宙に浮かんでいた。
腰まで伸びた水色の髪。華奢な体。端麗な顔つき。そして、ルビー色の双眸。この世のものとは思えぬ可憐さ。
まさしく、風呂場で見た少女だ。
「夢じゃ・・・無かったのか・・・」
ズキンと一瞬、頭痛がした。
「だから夢では無いと言っただろう。」
少女はフワリと更に浮き上がると、ダイニングにある食事用のイスに座った。
「しかし・・・人間界の男はつくづく野蛮だな。いきなり風呂をのぞくとは。」
少女は呆れたように、肩を竦めてそう言った。
だが、許可無く人の家の風呂に入っていた奴に言われたくない。
それに、夢じゃないとなると……彼女は一体何者なのだろうか。
突然ウチに入り込んだ上、魔法のような物を使い、そして宙に浮いている。
俺の頭の中にある常識では、そのような生物は存在しない。
「お前・・・一体何者だ・・・?」
若干警戒しつつ、聞いてみる。
「私か?」
少女は顔色一つ変えず、自分を指差した。
「私の名は、【ソレイユ・エスターテ】。太陽神だ。」
この日――
俺の家に、神が光臨した。
そして、俺の日常は終わりを告げた。
次回予告
俺の前に現れた少女――
「・・・それより、貴様は何者なのだ。名を名乗れ、愚民よ。」
彼女は自分のことを「神」だと言った――
「そうか。私は今日からこの家に住むことになった。よろしく頼む。」
神とは思えない身勝手さ――
「貴様・・・それが神に対する態度か・・・」
神とは思えない横暴さ――
「まぁそういうことだ。よろしく頼むぞ。愚民。」
同居の、始まり――