第十九話 「理由」
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「・・・なぁ紅葉、どう思う?」
「う〜ん。どうしていきなり学校に来たんだろうね、ソレイユ・・・」
ソレイユが留学生として学校にやってきた事に対し、驚く俺と紅葉。
なぜ突然学校に来たのか――
その意図は、全く読むことが出来ない。
当のソレイユはというと、クラスの皆から質問攻めにされていた。
可愛らしい外見と、留学生ということが皆の興味を煽ったのだろう。
「ねぇねぇ!どこから来たの!?」
「彼氏いるの!?」
「ハァハァ!」
「趣味は!?」
・・・。
・・・・・・。
質問組の中に、問答無用で警察に突き出したほうが良いような輩が約一名いたような気がするのだが・・・恐らく気のせいだろう。
・・・しかしこれでは、しばらく話は聞けそうにない。
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン――
昼休み――
俺達は、再度質問攻めにされる前にソレイユを連れ出し、屋上へと向かった。
無論、なぜ突然学校に来たかを聞き出すためである。
「愚民に、紅葉・・・なんだ、急に屋上なんかにつれてきて?」
「なんだはこっちのセリフだ。どうして突然学校に来た?」
単刀直入にソレイユに問う。
「・・・・」
俺の質問に対し、ソレイユは押し黙ってしまった。
転入の理由・・・答え辛い事なのだろうか。
「ソレイユ・・・頼む、教えてくれ。」
「ふむ・・・・まぁ、いいだろう・・・」
ソレイユは少し渋ったようだったが、俺の言葉に頷くと、理由を話し始めた。
「私の仕事はこの町の【異常な魔力】の【点検】ということは前に話したな?」
【異常な魔力】の【点検】――
ソレイユがこの町に来た理由の一つだ。
「ああ。それと関係があるのか?」
「うむ。点検をしていたところ、【異常な魔力の原因】が主にこの学校から発生している事が判明した。」
「――!?本当か!?」
まさかこの学校から異常な魔力が発生しているとは・・・
俄かには信じがたいことだが、こんなところで嘘をついても仕方がない。ソレイユの言っていることは、恐らく真実だ。
「ああ。だが、【異常な魔力の原因】が発生しているのは学校だけではない。公園や商店街、市街地、そして・・・『四季嶋家の周辺』からもだ。」
「―なっ!?」
俺の家の周辺からも、異常な魔力が?
だが、一体何故――
「いざと言うときに貴様を保護するのも私の役目となる。貴様が学校に行っている間に何かあったら大変だからな。学校に入ったのもそのためだ。」
まさか、そんなに深刻な理由だったとは。
「・・・まぁ、貴様が気にすることはない。私とて太陽神だ。任務に対しての責任もある。例え魔獣が出てこようが魔術師が出てこようが、私が貴様らを守ってみせる。」
「ソレイユ・・・」
――俺は知らなかった。何もかも。
この町の深刻さも。自体の大きさも。
だが、ソレイユが守ってくれると言っているのだ。恐らく心配は無い。何せソレイユは神さまなのだから。
だが――
俺の心には、何かが引っかかっていた――
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン―――
放課後――
部活が無い俺が学校に残っていても仕方が無い。帰るとしよう。
「ソレイユ、紅葉、帰れるか。」
「うん。帰れるよ。」
「うむ。今日は調査も終わった。帰るとしよう。」
教室を出た俺達が廊下を歩いていると、廊下をフラフラと行ったり来たりしている人影を発見。
・・・妖しい。
・・・・・・怪しすぎる。
「えっと・・・うぅ〜ん・・・ここ・・・どこ・・・?」
――ってアレは桜じゃないか。
何だかすごい久しぶりな気がする。自転車でぶつかって以来だ。読者の皆さんはもう忘れてるだろうな・・・
それはそうと、桜は何をしているのだろう?・・・声を掛けてみるか。
「おい、桜、何してんだ!?」
「きゃあああああああああ!!」
「うわぁっ!!」
突然叫ぶ桜。
正直、相当びっくりした。
ソレイユと紅葉も、俺の横で耳を押さえている。
「り、涼太さんですか・・・ビックリしました・・・」
悪いがビックリしたのはこっちである。
「すみません・・・あのぉ、迷子になっちゃったもんで・・・」
「ま・・・迷子!?学校でか!?」
確かにこの学校はこの町でも一番の広さを誇っているが、さすがに学校で迷子になった奴は見たことはない。
「もう、涼太さんまでそうやって私をバカにして・・・」
「わ・・・悪い・・・」
悪いことをした覚えは無いが、一応謝っておく。
「じ、じゃあ、校門まで送ってってやるから・・・」
「え・・・え?・・・い、いいんですか?あ・・・ありがとうございます!」
校門まで送っていくだけでそこまで感謝されては、逆にこっちが困る。
「じ、じゃあ、ついて来いよ。」
俺は校門を目指し、校舎内を歩き始めた――
「・・・着いたぞ。」
「わ!早い!わ、私はいつも20分もかけて校門まで来るのに・・・」
に・・・20分・・・
とんでもない時間だ。俺の家から学校まで来る時間にほぼ等しい。
「あの・・・今日はありがとうございました!なんとお礼を言ったら良いか・・・」
「い、いいよ!校門まで送っていっただけで・・・」
それにしても、普段桜はどうやって学校に来ているのだろうか。
校舎内で迷子になる桜だ。どうやって学校まで来ているのか・・・非常に気になる。
「なぁ桜。いつもどうやって学校まで来てるんだ?」
「え?あ・・・はい、え〜ッと・・・普段は地図を見ながら学校まで来てます。ちょくちょく自転車を停めて道を確認しながら来ているので、結構大変なんですよ〜・・・」
どうやら学校まで来るのにも地図が必要らしい。
未だ例を見ない程の方向音痴だ。
「でもさ、それだけ方向音痴だと、地図を失くしちゃったら大変じゃない!?」
紅葉が桜に尋ねる。
「そうなんですよ〜・・・それに私、ドジなので、よく地図を落としてしまうんです〜・・・自分でも気がつかないうちに地図が失くなっていて・・・あれっ?って・・・」
方向音痴+ドジ属性を兼ね備えた桜。よくもまぁそれで日常生活を送れているものだと感心する。
「あの・・・それじゃ・・・私、帰りますね・・・え〜っと、地図・・・地図・・・」
「ああ。じゃあな。」
桜は自分の鞄から地図を取り出すと、地図を確認しながら帰っていった。
それにしても、通学に地図が必要な奴がいたとは・・・新たな発見だ。
「なんか・・・微笑ましいと言うか、ドジな奴だったな。」
「そうだな・・・」
「そうね・・・」
俺達は昼間の深刻な話をすっかり忘れ、帰宅する桜の背中をしばらく見つめていた。
天界――
「これが、本日の報告です。ゼウス様。」
「うむ・・・。ご苦労であった。」
ゼウスと呼ばれる老人に、部下と思わしき男が数枚の書類を手渡した。
「・・・むぅ・・・【異常な魔力】・・・また増えておるな・・・」
ゼウスは自分の額を抑え、嘆くように言った。
「はい。日に日に強くなっています。このままでは・・・」
「本日の発生場所は・・・学校、市街地、四季嶋家周辺・・・・か・・・」
深刻な顔をして、ゼウスは続ける。
「原因は・・・やはりアレかの・・・」
次回予告
私は一人だ。
籠の中の鳥だ。
操り人形だ。
心の扉は随分前に閉ざした。
もう開くことはない。これからも、ずっと・・・
次回 第二十話「感情」