第十七話 「日常」
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月曜日―
トラブル続きだった土日も終わり、今度こそ静かな日常がはじまる。
女二人が激しい争いを繰り返している家よりも、学校のほうがまだ静かかもしれない。
通学路を、自転車で紅葉と一緒に登校する。
「いやぁ、なんだか学校が久しぶりに感じるなぁ。」
「私は、今日がこの学校に来てはじめての授業だよ。」
そうか。紅葉は手続きやらで先週は授業を受けていないのか。
「まぁ、俺は寝るけどな。昨日は遅くまで起きていたせいで、眠いったらない。」
昨日はソレイユのために夜中に買い物に行き、飯を作った。疲れるのも当たり前か。
それに、ソレイユは中々寝かせてくれないし。
どうしたんだって聞いても、うつむいちゃって何も言わないし。
もしかして、まだ怒ってるのかな。
「もう。授業はちゃんと聞かなきゃダメだよ。」
「はいはい・・・」
そんなことを言い合っているうちに、学校に到着する。
俺達は下駄箱で靴を履き替えると、教室に向かった。
ガラッ―
教室に着くと、颯人が声を掛けてきた
「おっはよ〜!ってヲイ!涼太!お前はもう転校生の紅葉ちゃんと仲良くなったのか!?」
俺と紅葉を見て、颯人が言う。
「ん?ああ。俺と紅葉は幼馴染なんだよ。いままで外国に行ってたんだけどさ、こっちに帰ってきたんだ。」
「そうなの。よろしくね。え〜っと・・・風間颯人くん・・だったよね?」
「覚えてもらえて光栄です。セニョリータ。フッ。」
歯をキラーンときらめかせ、髪をかき上げながら、颯人が言う。
「できれば今日の晩、貴女の家にお邪魔して、素敵なナイトをエンジョイしたいのですが・・・」
「それはちょっと・・・」
紅葉が大いにヒいている。
それに、紅葉が住んでいるのは、俺の家だしな。颯人にバレたら、何を言われるか分からない。
「ホラホラお前ら!席に着け〜!!」
俺達がはなしていると、英子先生が入ってきた。
話を中断し、みんな席に着く。
「じゃぁ、出席ををとるぞ〜。雨宮〜・・・・・・」
英子先生は出席をとり始めた。
キーンコーンカーンコーン!
HRも終わり、授業が始まる。
「それじゃあ、俺は寝るとするか。」
俺は机に突っ伏し、睡魔に身を任せた。―が、
ピシッ!ピシッ!
誰かがケシゴムの欠片を俺に投げつけてくる。
誰だ?俺の睡眠の邪魔をする輩は。
「ぇぃ!ぇぃ!」
・・・紅葉だ。
紅葉がニヤリと笑いながら、こちらにケシゴムの欠片を投げてくる。
俺を寝かせないつもりか?いいだろう。その勝負、受けて立つ!
俺は意地でも寝る事にした。
「ぇぃ!ぇぃ!」
ピシッ!ピシッ!ピシッ!
ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!
ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!
ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!うぜぇぇぇぇぇぇぇ!!」
たまらず俺は叫んだ。
「何がうざいのかね?四季嶋。」
歴史の鬼山先生のドスの聞いた声が俺に向けられる。
―って、え!?おおおお鬼山先生??
・・・しまった―!今は歴史の授業中だ――!
「いい度胸じゃないか。私の授業をうざいとは。君が寝てたから放っておいたものを。そんなに睡眠の邪魔だったかね?」
先生のやばい形相が更にやばくなってきた。今にも雷が落ちそうだ。
「そ・・・それは紅葉が・・・」
「秋月君は、きちんと学習をしているぞ。」
紅葉のほうを見る。
紅葉は、ピシッと背筋を伸ばし、黒板の内容を熱心にノートに書き写している。
き・・・きたね〜・・・・
「このバカモンがぁぁ!!廊下に立っとれぇぇぇぇ!!」
「はい・・・」
クスクス・・・
ワーワー!!
ギャハハハハハ!!
クラス中から笑いがあがる。
あ!紅葉まで一緒になって笑ってやがる!
俺は廊下に立たされ、罰として課題プリントを20枚ほど出された。
やっぱり俺には、静かな日常なんてこないのかなぁ・・・
俺は、自分の不幸を呪った。
キーンコーンカーンコーン・・・
学校も終わり、俺は帰路につく。
颯人にゲーセンに誘われたが、俺は鬼山先生に出された課題(歴史プリント20枚)をやらなければならないので、早く帰ることにした。
「くっそ〜。紅葉の奴・・・とぼけやがって・・・」
自転車をこぎながら、今日のグチを言う。
まぁ寝ていた俺も悪いのだが。
「ん?あれは・・・?」
目の前に、一人の少女を発見する。
ショートカットの無表情な少女だ。俺と同じ制服を着ている。
「オラ!てめぇ気取ってんじゃねえぞ。ぶつかったんだから謝れっつってんだよ。」
「何シカトぶっこいてんだコラ!何か言いやがれ!」
「いつまで無表情でいる気だコラ。少しは怖がれよ!?ああん!?」
「・・・・」
少女は不良3人に囲まれていた。そういえば、この道は不良達がたむろすることで有名だ。
大方、変なインネンをつけてからまれているのだろう。
だが、少女は相変わらずの無表情で、特に怯えているような様子もなかった。
ふと、少女と目が合う。無表情で怯えがないと思っていたその目の中には・・・確かに、自分に絡んできている不良達に対する「怯え」があるように感じた。
「・・・・くそっ・・」
俺には関係のない話で、早く帰って課題をやらなきゃだけど・・・・
怯えてる女の子を見て、放っておけるほど腐っちゃいないッ!
「てめぇ良くみたらなかなか可愛い顔してんじゃねぇか。」
「そうだな・・・へっへっへっへ・・・」
「ちょっと俺達と来いよ!」
不良が少女の手を引っ張る。
「・・・・!!」
少女は抵抗する。
「ッ!おとなしくしやがれ!!」
ピシッ!
「・・・・!!」
不良のビンタが少女に炸裂する。
「痛いか!?泣けよ!?ホラ!?ひゃーっはっはっは!!」
不良は下品に大笑いしている。
そして・・・
「おいおい!!女に暴力とは、とんだ困ったちゃんだな。」
俺は不良に言い放つ。
「なんだ?てめぇは!?」
「俺は四季嶋 涼太。ただの学生だよ。」
自己紹介をしておく。
「へっ・・・てめぇもぶっ殺されたいらしいな。」
いつの時代も不良というものは、威勢だけはいいらしい。
「自分よりも弱いものしかいじめられないお前らじゃ、無理だよ。」
「・・・・・」
少女は俺を見ている。俺は「大丈夫だよ」という視線を、少女に送る。
「おい・・・テメェまじでぶっ殺す!死にやがれ!」
不良はナイフを持って、俺に襲い掛かる。
「はぁ・・・・」
俺には静かな日常なんて来ないのかもな。まぁ、いいか。久しぶりに暴れるのも。
「いくぜ!この不良ども」
俺は、ケンカには少々自信がある。
紅葉と一緒に虫捕りに行った日・・・・・・あの日、俺の中に芽生えた目標。
―――男らしくなりたい。
それは、紅葉を守りたいがため。彼女を傷つけさせないため。
あの日から、俺は自分を鍛えた。
帰ってきた紅葉に、弱々しいと思われない男になろうと。
鍛えて鍛えて、鍛えまくったのだ。
こんな不良じゃ、3人でも相手にならないだろう。
「ふんっ!」
まずは一人目の腹部を殴り、失神させる。
「・・・・ぐはぁっ・・・」
「チッ!!!このやろうがぁ!」
二人目の拳を避け、顔面に強烈なパンチをお見舞いする。
「がはっ!!」
「終わりだっ!!」
ナイフを持った3人目の腕を極め、ナイフを奪い取り、相手に突きつける。
「まだやるか・・・?」
「こ・・・こんなに強かったのかよっ・・・」
相手は俺を見て、怯えきっている。当然だ。俺とコイツらじゃ、拳にこめた意思が違う。
「男の拳は、女の子を守るためにあるんだっ!女の子を傷つけるためにあるんじゃないっ!」
「く・・・くそっ・・・・!」
不良たちはその場を立ち去っていった。
「・・・大丈夫か?」
俺は少女に尋ねる。
「大丈夫・・・」
少女は相変わらず無表情で、そう言う。
「そっか・・・なら良かったよ。でも、こんなところ一人であるいてたら危ないぞ?ここは、不良が集まることで有名だから・・・」
今後もしあんなことがあった場合、誰かが近くにいなくては大変だ・・・
「・・・・大丈夫。今日だけだから・・・」
目の前の少女は理由を話し始めた。
少女の話によれば、いつもは執事が車で迎えに来るのでそれに乗って帰るのだが、今日はそれを抜け出してきてしまったらしい。それにしても「執事」がいるとは、この少女は結構な金持ちなのだろうか。
「私の名前・・・「冬美 雪奈」・・・貴方の・・・名前は・・・?」
少女が尋ねてきた。
「へ?俺の名前?「四季嶋 涼太」だよ。」
俺は本日2度目の自己紹介をする。
「四季嶋・・・涼太・・・覚えとく・・・今日は・・・アリガト・・・」
少女はそう言うと、さっさと行ってしまった。
なんだったんだろう?でも無事でよかった。
俺は課題のことなどすっかり忘れ、何とも言えぬ満足感を感じつつ家に帰っていった。
次回予告
学生の義務・・・
「うぉぉぉぉぉぉ!!課題が終わらねぇぇぇ!!」
度重なる苦難・・・
「さあ、食べろ!『おかゆ』だ。」
ささやかな幸せ・・・
「クッキー・・・昨日の・・・お礼・・・」
そして予想だにしない留学生・・・
「せんせ〜!!その子は、ヤローですか?それとも・・・女の子ですかぁ!?」
次回 第十八話「留学生」
お楽しみに!