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月ノ光  作者: 藤井 周
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5 彷徨

自分の性が売り物になることにハルが気づいたのは中学生の時だ。


ハルが物心ついた頃には母親は始終、さまざまな男をアパートに連れ込んでいた。

ある時、母親が買い物に出かけているあいだ、中年男がハルに5千円札を握らせて言った。

「母さんには内緒だよ」

それは当然、たんなる小遣いではなく、見返りを求めてのものだった。男はハルの下着に手を伸ばしてきた。

ハルがはじめて自分の体で稼いだ金だった。


母親が連れて来る男たちの中には、ハルに父親のように接する男もいたが、たいていは一度限り、せいぜい数回やってきては来なくなった。


男が来ているあいだはハルは外に出された。どんな悪天候であろうと、真夜中であろうと。ハルは近所のコンビニか児童遊園で時間をつぶすことが多かった。


「お腹空いた」

子どもだったハルが言えば、母親は財布から百円硬貨、機嫌がよければ千円札を投げてよこした。

ハルは家で食事をした記憶がない。母親がキッチンに立っているのは缶チューハイを飲んでいるか、換気扇の下でタバコを吸っている時だけだった。

貰った金で買ったカップ麺が食事だったのかどうか。

料理をしている母親の記憶はハルにはない。


中学を卒業してから、ハルは街に立つようになった。

男たちの家を転々として、アパートには帰らなくなった。泊まる場所がない時はネットカフェで寝起きした。

そうした生活の中でハルは自分の顔立ちが美しいことに気づいた。

ハルは多く客がつき、多く稼ぐようになった。

16歳になった時、フリーで客をとるのをやめて店に入った。

「若くみえるね? ホントに18歳?」

面接の時、そう訊かれたので、

「18歳です」

答えて終わりだった。身分証などの確認はなかった。

「あ、そう。それで、いつから働ける?」

「今日からでもだいじょうぶです」

そうして、店のキャストとなり、店が保証人になってくれて小さなマンションを借りることができた。

帰る場所ができたのがハルにとっていちばんありがたかった。

うわべだけの関係でもキャストの仲間がいるのは寂しさがまぎれた。

毎日のように客をとり、朝方帰ってベッドにもぐりこみ、午後に起きてシャワーを浴びて、コンビニで買ってきた昼食をとる日々の繰り返しは、あてのない荒野を彷徨っているかのような索漠とした日々でもあった。


自分がどこを目指して歩き続けているのか、歩き続けてたどりつく先はいったいどこなのか、ハルにはまるで何も見えなかった。ただ、何もない地平線だけがはるか彼方に広がっていた。


そんな日々の中で、ハルは城戸和弥と出会った。

はじめて抱かれたいと思った男だった。

ここが安息の地だったらどんなによかっただろう。


それなのに、ハルはウリを辞めることができなかった。

荒野を歩き続けることが運命であるかのように。

あるいは立ち止まることが許されない呪いでもあるかのように。



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