1 プロローグ 死者への祈り
死亡者 佐藤春海 19歳 職業不詳 薬物の大量摂取による自殺
ハルが死んだ。
城戸和弥がそのことを知ったのは一週間後だった。
「まいっちゃったよ、事故物件」
訪ねていったマンションの隣人が迷惑そうに告げたのは、先週の夕方、靴の片方がドアに挟まっているのを不審に思った宅配業者が通報して、ベッドで亡くなっているのが発見されたということだった。
「あんた、佐藤さんの知り合い?」
「え、ちょっと、まあ」
「荷物とかそのまんまで、オーナーが困ってるみたいでさあ」
城戸は逃げるようにマンションから出た。
ハルが死んだという事実が息苦しいほど胸に迫ってきた。
ここ数日、ハルとは連絡がとれなかったが、はじめはさほど不安にも思っていなかった。
土曜には決まって城戸のマンションで会うのだから、それほど頻繁な連絡も必要もなかった。
気まぐれなハルは城戸のことは束縛したがるくせに、自分を束縛されるのは嫌がった。
週末だけの恋人でいるのが心地よかった。
いいわけだ。
ハルには城戸がしっかりつかまえておこうとすればするほど、するりと両手からすり抜けてしまいそうな危うさがあった。ハルを失うのが怖かった。そのあげく、ハルを永遠に失うことになるとは――。
城戸は唇を強く噛みしめた。血の味がした。
城戸はハルの葬儀がいつどこで行われたのか、それとも行われなかったのか、墓がどこにあるのかさえ知らない。身内でも何でもない、誰も知らない関係だったのだから当然のことではあった。
愛した男が死んだというのに、城戸は人並みに悲しむことさえ許されなかった。
ハルを失っても城戸の体はハルを覚えていた。
黒目がちなハルの瞳、柔らかい髪、絡みあった指の美しさ、のびやかな腕と脚、滑らかな背中、汗の匂い、甘い吐息、涙の味さえも。
永遠に続くと錯覚していたハルとの日々。
それらすべてが、あっけなく城戸の両手から砂のようにこぼれ落ちていった。
ハル、なぜ――?




