第四話 魔法なき解答
ゲームだった頃は、玩具さえ操作ユニットに数えられたのは、数少ないクソ仕様として有名だった。
今でも、玩具でテストしたからといって、厳密な検証にならないことは重々承知している。
それでも、隠し設定を発見したかのような、わくわくする気持ちは抑えられない。
もちろん、別の形で制限は生じるはずだ。
作成材料の不足、精神の限界による同時操作数の上限……などなど。
そういった現実的な問題はいくらでも考えられる。
だが、システム的な上限が存在しないと分かったことは大きい。
つまり、やろうと思えば物量で押し切れる。
戦争において、個人の力は本来、微々たるものだ。
どれほどの英雄であろうと、一人の武勇が戦局すべてを左右することはない。
逆に言えば、個人が、戦争を起こせるだけの戦力そのものを所有できるのなら、
この先に起こる出来事に対しても、ある程度対処のしようがある、ということになる。
ゲームコミュニティでは、機械系職業は「予算無制限で、連邦NPCのように膨大な数の機械軍団を指揮できれば理論上は最強」という議論が、何度も繰り返されていた。
メカ好きのユーザーたちは、いつか仕様変更が入ることを期待し、公式に意見を投げ続けた。
……まあ、最後まで相手にされることはなかったが。
その中、俺も例外ではなく、サブ職に幾つか育てていた。
「確か連邦の設定だと、脳波増幅装置によるコントロールの関係で、自律兵装は精神力の要求が高く、巨大ロボットの直接操作には、加速度に耐えられるだけの最低限のステータスも必要だったはず……」
加速度に耐えられる、という理屈自体は理解できる。
だが、自律兵装なのに脳波で常時コントロールする、というのはよく考えると不自然だ。
当時はゲームの仕様だと思って、深く考えなかったが、本当にそうだろうか?
連邦のNPCは何の問題もなく、機械軍団を率いて戦っていた。
悪意をもって推測するなら、
連邦が不死の異邦人を制限するために、操縦可能な自律兵装の上限に細工した、
そう考える方が自然だろう。
あるいは、次元投影技術が未熟で、そもそも異邦人の脳波増幅が不完全なのか。
どちらにせよ――現状では、獲得難度の高い魔法職より、機械系の方が明らかに向いている。
理由は三つある。
まず、機械系下位職に関する書籍や情報は、広く公開されている。
そのため、序盤の成長速度は魔法職に比べて圧倒的に早い。
次に、帝国は魔法重視の国家であり、魔法素材は総じて高価だ。
一方、機械系の鉱石や材料は安く、価値も軽視されている。
最後に、魔法にしろ科学にしろ、戦闘寄りの職業と研究寄りの職業が存在する。
プレイヤー時代なら、迷わず戦闘職を選んでいた。
だが今は違う。
希少で強力な職業の獲得は難しく、プレイヤーのように何度も死んで挑戦できるわけでもない。
ならば後期には、自力での研究開発が必須になるだろう。
そして、原理を理解すると成長が加速するNPCの特性上、研究職が有利だと、ゲーマーとしての勘が告げている。
勉強がしたい、と祖父に伝えたのは、その日の夜だった。
祖父は少しだけ目を細めて、「わかった」と一言だけ言った。
工房には、来たいときに来ればいい、とも。
本を買うための金も、まとめて渡された。
必要なら、また言え、と。
不器用で無口なその姿には、確かに孫への期待が込められていた。
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
祖父が工房を継いでほしいと願っていることは、俺も分かっている。
それでも祖父は、何も言わずに俺の選択を支えてくれた。
だから――
この期待を、無駄にするわけにはいかない。
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数ヶ月後。
部屋の床は、完全に姿を消していた。
壁際から机の周囲まで、無造作に積み上げられた本、本、本。
基礎物理、魔力理論、魔導工学、帝国式標準教本、連邦機械工学……
分野も体系も異なるそれらが、無秩序に積まれている。
机の上には、開きっぱなしの教本と、計算で埋め尽くされた紙束。
書かれているのは魔法陣ではない。
公式と、変数と、延々と続く計算式だ。
「……違う」
ぽつりと零れた声が、部屋に落ちる。
教本の一節を指でなぞり、別の本を引き寄せる。
「ここ、物理法則が違うだろ」
ページをめくり、別の教本を叩く。
「だから、この前提条件だと、この式は成立しない。なんで同じ結果が出る前提で、話を進めてるんだよ」
計算を止め、過程を遡る。
仮定、境界条件、近似。
一つずつ確認し、異常が混じった地点から、書き直す。
数式は正直だ。誤魔化しは通用しない。
だが、それでも数字が噛み合わない。
「……はぁ?」
ページをめくる手が、止まった。
次の瞬間、俺は思わず机を叩いた。
「なんで、ここから魔法で誤魔化すんだよ!!」
声が荒れる。
胸の奥に溜まっていた苛立ちが、一気に噴き出した。
この教本の作者を、今すぐ目の前に引きずり出して問い詰めたい。
いや、殴りたい。
「ここ!あと、ここも魔力を使わなくてもできるだろ!構造的に、力学的に、純粋に処理できる部分だろうが!!なんでわざわざ魔力注入前提にしてんだ!アホか!!」
魔法は困った時の万能薬か!?
教材にデカデカと書かれた著者名を、心の中で何度も何度も罵倒する。
だから再現できないんだよ!
何度計算しても、誰がやっても同じ結果にならない!
個人差が顕著に出る魔法が、理論の中核に居座ってるからだ!
再現性がない理論は、理論じゃない。
それくらい、分からないのか?
頼むから、
せめて、ごちゃ混ぜにして計算するのはやめてくれ!!!
「……はあ」
荒い息を吐き、椅子に沈み込む。
しばらくして、ようやく怒りが静まってきた。
「……まあ、しょうがないか」
深いため息が出る。
この世界では、これが「常識」なのだ。
魔法があるなら使う。
使えるものは使う。
連邦でも同じ、理屈の美しさより、結果を優先する。
「最初から、やり直すか」
俺は、新しい紙を取り出した。
魔法が必要になる項目を一つずつ外す。
代わりに、材料特性、応力分布、制御変数を書き込む。
魔法を前提としない構造。
誰が扱っても、同じ結果に辿り着く道筋。
数式が、次第に整理され、
綺麗に、無理なく、つながっていく。
「……これで」
ペンを止め、紙全体を見渡す。
「これで、誰でも再現できるはず」
魔法がなくても、同じ結果に辿り着ける。
不確定性は排除され、理論は再現性を持ち、結果は安定する。
この世界の理論は、間違ってはいない。
そう、間違ってはいないのだ。
途中で考えるのをやめているだけ。
魔法という便利なものがあるから、そこから先へ踏み込む者が、いなかっただけだ。
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機構解析Lv9 → Lv10(Max)
基礎機械理論Lv9 → Lv10(Max)
応用機械理論Lv16 → Lv20(Max)
基礎力学Lv8 → Lv10(Max)
解析眼Lv3 → Lv4
観察力 Lv4 → Lv5
基礎魔力理論 Lv6 → Lv7
魔力制御理論 Lv4 → Lv5
【新たな職業条件を満たしました】
【上位職業へ転職】
機械整備士Lv20 → 機械エンジニアLv1
機械研究員Lv20 → 機械理論学者Lv1
【新スキル獲得】
戦場整備Lv1
戦闘中、機械の性能低下を抑える
即席改修Lv1
現場資材で一時的な性能向上・修復を行う
理論構築 Lv1
未体系の現象を数式・モデルとして整理する
研究加速 Lv1
研究に必要な時間を短縮する
ひらめき Lv1
長く考え抜いた課題に対して、低い確率で発生する
思考加速Lv1
思考速度がわずか上昇する
【ユニークスキル獲得】
《先行者》
理論系スキルの成長効率が大幅上昇、未踏領域の研究速度に補正
【称号獲得】
《完璧主義者》
《機械理論の空白を埋めた者》
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