表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/6

第三話 新しい職業

 一ヶ月後。

 工房の一日は、相変わらず早い。


 夜明けと同時に炉に火を入れ、金属を温め、魔法陣を刻む。

 工程そのものは変わらないが、工具を握る手の動きは、明らかに以前とは違っていた。

 魔力が流れ、滞り、歪みかける箇所を、まるで最初から見えていたかのように捉え、流れるような動作で修正していく。


 かつてなら一度は手を止め、首を傾げていた工程も、今では迷いなく通過していく。

 確認は不要になり、判断は一瞬で済む。


 ――成長している。

 それは本人の自覚とは関係なく、誰の目にもはっきりと映る変化だった。


 ******************************************

 エリオ・ヴァイス

 種族 : 人間

 職業 : 魔法工房助手 Lv10


 HP : 68/68

 MP : 48/48

 SP : 30/30


 力 : 13

 魔力 : 21

 精神力 : 28

 技術力 : 26

 素早さ : 11

 運 : 6


 称号 : なし


【スキル】

 技術 : 電子回路設計Lv3、機構解析Lv2、発明Lv1、解析眼Lv1、工具熟練Lv3

 魔法 : 魔法回路設計Lv5、魔法補助Lv4、魔法武器修理Lv3

 汎用 : 観察力Lv3


【パッシブ】

 自然成長

 ******************************************


 ステータスウィンドウをチラ見しながら、思考を巡らせる。

 下位職業の最大レベルは20、まだ伸びしろはあるが、限界は見え始めている。

 そろそろ転職、あるいは新たな職業を獲得することを視野に入れる時期である。


 この世界では、下位職を限界までレベルアップすると、上位職への転職が可能になる。

 転職と同時に職業は上位職へと変化し、レベルはLv1からの再スタートだ。

 職業の格が上がるほどレベル上限も引き上げられ、Lv20、Lv40、Lv60、Lv80と段階的に伸びていく。


 高位職になれば、ひとつ昇進するだけでも数年単位を要する。

 普通のNPCであれば、どこかで限界を感じ、そこで成長が止まるのが当たり前だ。


 プレイヤーたちも、転生する前のゲーム時代を振り返れば同じだった。

 レベル上限がLv100に設定された最上級職を、実際にLv100まで育てきった者はごく少数。

 多くはメイン職とサブ職を併用し、無理のない範囲でバランスよくレベルを上げていた。


「……やはり、魔法の勉強をしないといけないのか?」


 技術や原理を深く理解すればするほど、NPCの成長が早くなることは知った。

 だが、レベルが上がるにつれて、理解そのものの難易度も跳ね上がっていく。


 例えば、武器に刻まれた魔法回路。

 あれは結局のところ、魔法の行使を補助するための仕組みだ。

 魔法そのものを理解していなければ、回路設計の理由や理念を深く理解できない。

 最近、成長が鈍ってきていると感じるのも、そのせいだろう。


 プレイヤーであれば、理屈が分からなくとも、

 同じ工程を何十回も繰り返すだけでレベルアップできた。

 だが、後期レベル帯に入れば、プレイヤーであっても成長は容易ではなくなる。


 最初こそ、NPCたちはプレイヤーの異常に驚いた。

 だが、やがて皆、そういうものだと納得するようになった。

 なぜなら――この世界には、プレイヤーすら霞むほど理不尽な天才が存在する。

 プレイヤーたちから「チートだろ」と半ば本気で罵られるほどの天才が、確かに存在している。


 邪神を葬り、「神葬剣姫」という専有職業を獲得した帝国の薔薇――エリシア・ローゼンフェルト。


 彼女は一年という異常な速度で、

 騎士見習い → 正騎士 → 神罰騎士 → 剣聖

 という昇進ルートを駆け上がったと記録されている。


 噂によれば、彼女は戦闘から学ぶ速度が異常に早い。

 ゲームの仕様に翻訳するなら、戦闘経験値の獲得倍率を大きく引き上げるスキルを持っていた、と考えるのが自然だ。


 史上最年少で剣聖に到達した、連邦の蒼閃――アレクシス・ヴァン・レインハルト。


 彼はわずか十か月で

 剣士 → 剣闘士 → 無想剣士 → 剣聖

 というルートを踏破し、歴代記録を塗り替えた。


 彼の特徴は、剣の才能が異常なまでに高いことだ。

 システム的に説明するなら、剣関連職業のレベルアップに必要な経験値そのものが、他者より圧倒的に少ない。

 さらに、同じ技でもプレイヤーの数倍の威力を叩き出すことから、剣系スキル全般に強力な補正がかかっていると推測されていた。

 公式設定にも、彼は「剣に恵まれた天才」と明記されていた。


 神に選ばれし聖女――ルシア。


 平民出身でありながら、

 聖徒候補 → 正教司祭 → 高位神官 → 聖女

 という、上げるのが極めて難しい正統ルートを、わずか二年で成し遂げた。


 この偉業に、教会の教皇すら驚愕し、彼女を「神に選ばれし聖女」と直々に認めたという。


 ルシアの成長速度の理由は、他の二人ほど明確ではない。

 だが推測はできる。

 信仰がシステム上どのように処理されているかは不明だが、何らかの形で経験値補正、あるいは成長補助が付与されていたとしても、不思議ではない。


 プレイヤーが彼らと同じ偉業を成し遂げようとすれば、毎日十二時間以上の狩りを休みなく続ける、いわゆる“廃人プレイ”でも、なお届かない。


「……だが、今の俺なら、ある程度は参考にできる」


 生まれつきの天賦の才がなくとも、人にはそれぞれ得意不得意がある。

 ならば、この世界にも――いや、ゲーム時代から既に、

 NPCには、それぞれに目立たない補正が存在していたはずだ。

 もし効率を最大限に求めるのなら、自分の長所を伸ばすのが一番合理的だ。


 ふと、思考が止まる。


 電子回路設計Lv3

 機構解析Lv2

 発明Lv1


 これらは、本来の「エリオ・ヴァイス」の記憶には存在しない。

 つまり、これは「黒瀬恒一」のスキルだ。


 ロボットアニメが好きで、いつかは専用機を作りたいと思いながら、電子工作に没頭していた時期があった。

 その影響なのか、電子回路設計などの知識がそのままスキルとして残っている。


「そういえば、ガンプラに回路を設計して、ライトを組み込み、アニメのシーンを再現したこともあったな……」


 今思い返しても、あれはわくわくしてとても楽しかった。

 設計、作成、実装。

 何度も繰り返し失敗しても、自分の脳内の設計が形になる瞬間がたまらなかった。


「……でも、機械系の職業って弱いんだよな」


 ゲームの仕様上、機械系は剣士などの物理職と同じく、主に物理ダメージを担う。

 遠距離型も近距離型も存在はするが、総じてマイナー寄りだった。


 例えば、巨大機械兵器を操縦する職業—―「機神騎士」。

 あれは搭乗する機体によって戦力の上下限が激しく、戦闘後の修理費用や維持費も馬鹿にならなかった。

 一時期は「男のロマン」として流行ったが、総合的に見れば、魔力が自然回復する魔法職や、育成コストの低い剣士系物理職には到底及ばなかった。


「……いや、待て」


 ゲームでは、操縦・所有できる機械の数に厳しい制限があった。

 また、ゲームである以上、コストパフォーマンスは追及せざるを得なかった。

 だが、ここは現実だ。

 俺はもうプレイヤーじゃない。


「なら……ゲームの制限自体が、存在しない可能性もあるんじゃないか?」


 そして、今の俺のスキル構成を見る限り――

 電子、機械、構造。

 どう考えても、そちらに偏った才能がある。


「……試してみる価値は、あるな」


 そう結論づけると、俺は迷わず祖父のもとへ向かった。

 事情を簡単に説明すると、祖父は深く追及することもなく、工房と材料の使用を許してくれた。


 工房を借り受けた俺は、まず使えそうな材料を一つずつ確認していく。

 金属板、歯車、バネ、軸受。

 加えて、最低限の加工が施された魔法素材。

 当然だが、電子部品は存在しない。


「……なら、全部物理でいくしかないな」


 歯車比、回転数、力の伝達。

 記憶の奥にある設計図を、純粋な機構設計へと置き換えていく。

 電流の代わりに力、信号の代わりに回転。


 俺が作ったのは、ゼンマイを動力にした小型のからくり人形だ。

 構造は単純で、一定距離を歩くだけの、極めて原始的な機構。

 それを一つ、二つ、三つと作っていく。

 気づけば、作業台の上には十数体の小さな人形が並んでいた。


「……よし」


 手のひらサイズの木製の人形が、ずらりと並んでいる。 

 どう見ても玩具でしかない。

 だが、ゲームではこういう玩具でも、一応操縦ユニットとしてカウントされていた。


 一体ずつ起動させ、動作を確認。

 そして、最後に――同時起動。

 ゼンマイの音が重なり合い、

 からくりたちが一斉に動き出した。


「できた……」


 その瞬間だった。

 視界の端に、見慣れた半透明のウィンドウが浮かび上がる。

 続けて、情報が書き換えられていく。


 ******************************************


 機構解析Lv2 → Lv3

 発明Lv1 → Lv2


【新たな職業条件を満たしました】


【新職業獲得】

 機械整備士Lv1


【新スキル獲得】

 機械整備 Lv1


 ******************************************


 思わず、息を呑んだ。


「……成功した」


 俺は、今も動き続ける人形たちを見下ろし、

 静かに口元を緩めた。


 操作が極めて煩雑で、

 自律兵装や遠隔兵装を他の職業よりも多く扱えることで知られる、

 機械系の中級職「機甲指揮官」でさえ、

 同時に運用できる兵装の数には、明確な上限が設けられていた。

 確か、最大で十機。

 それ以上は、システム側がそもそも許可しなかったはずだ。


「やっぱり……制限はない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ