第7話:招かれざる客と熱湯地獄
ベルンの忠告は、予想よりも早く現実のものとなった。
彼が去った翌日の昼下がり。
俺の領域に、土足で踏み入る複数の気配があった。
「おい、本当にこんなところに『黄金の泉』なんてあるのかよ?」
「ベルンの野郎がここから出てくるのを見たんだ。間違いねぇ」
下卑た笑い声と共に現れたのは、三人の男たちだった。
革鎧に剣や斧を帯びているが、手入れは行き届いていない。
いわゆる「冒険者崩れ」のゴロツキだ。
畑仕事をしていたフィオが、彼らの姿に気づいて硬直する。
「あ? なんだ、先客か?」
「おい見ろよ、エルフだぜ。しかも上玉だ」
男たちの目が、泉からフィオへと移る。
欲望に濁った、嫌な目だ。
「へへっ、ツイてるぜ。水だけじゃなく、オマケまでついてくるとはな」
「ねぇちゃん、俺たちと遊ぼうぜ。悪いようにはしねぇからよ」
男たちがジリジリとフィオに近づく。
フィオは後ずさり、俺(温泉)の方へと逃げてくる。
「き、来ないでください! ここは源泉様の聖域です!」
「源泉様ぁ? ただの水たまりだろうが!」
リーダー格の男が、俺の水面に唾を吐き捨てた。
(……あ?)
俺の中で、何かがプツンと切れる音がした。
フィオを脅し、俺を汚した。
万死に値する。
俺は即座にウィンドウを開き、貯めておいたポイントを叩き込んだ。
『スキル習得:濃霧(50pt)』
『スキル習得:熱湯噴射・中(100pt)』
『スキル習得:温度操作・範囲(50pt)』
戦闘開始だ。
「まずはその服を脱がせて……うおっ!?」
男がフィオに手を伸ばそうとした瞬間、俺の水面から爆発的な量の湯気が噴き出した。
視界が真っ白に染まる。
「な、なんだ!? 前が見えねぇ!」
「熱っ! この霧、熱いぞ!?」
ただの霧ではない。高温の蒸気だ。
サウナのロウリュを直撃させたような熱波が、男たちを襲う。
「くそっ、どこだ!?」
パニックに陥る男たち。
そこへ、俺は追撃を加える。
(食らえ、源泉ビーム!)
バシュッ!!
俺の中心部から、圧縮された熱湯の柱が放たれた。
狙うはリーダー格の男の足元だ。
「アチチチチッ!! 足が、足がぁぁ!!」
直撃を受けた男が悲鳴を上げて転げ回る。
火傷はしていないだろうが、熱湯風呂に突き落とされたような衝撃と熱さだ。
「な、なんなんだここは!?」
「逃げろ! 呪いだ! 呪いの泉だぁ!!」
視界ゼロの熱霧と、どこから飛んでくるかわからない熱湯攻撃。
男たちの戦意は一瞬で砕け散った。
彼らは武器も放り出し、蜘蛛の子を散らすように森の外へと逃げ去っていった。
静寂が戻る。
俺はゆっくりと霧を晴らした。
「……源泉様?」
フィオが恐る恐る顔を上げる。
彼女は無傷だ。俺が霧の範囲を調整して守っていたからな。
「助けて……くださったんですね」
フィオは涙目で俺に抱きついた(正確には岩場にしがみついた)。
俺は彼女を安心させるように、ポコポコと優しい音を立て、適温のお湯で彼女の手を温めた。
撃退には成功した。
だが、これで終わりではないだろう。
逃げた彼らが噂を広めれば、もっと厄介な連中が来るかもしれない。
俺たちは、さらなる防衛強化を迫られることになった。




