第6話:商人の帰還と忠告
それから十日ほど経った頃だろうか。
森の入り口から、ガラガラという車輪の音が聞こえてきた。
フィオが作業の手を止め、警戒するように耳を澄ます。
だが、現れたのは見知った顔だった。
「おーい! フィオさん! 源泉様! 戻りましたぞ!」
商人ベルンだ。
前回はリュック一つだったが、今回は小さな荷馬車を引いている。
馬車には木箱や袋が積まれていた。
「ベルンさん! おかえりなさい!」
フィオが駆け寄る。
ベルンは汗を拭いながら、満面の笑みを浮かべた。
「いやあ、すごいことになりましたよ。『シュワシュワの水』、街で飛ぶように売れました!」
ベルンの報告によると、持ち帰った炭酸泉は、まず宿屋の主人が興味を持ち、そこから噂が広まって、最終的には貴族の使いが買い占めていったらしい。
「美容に良い」「胃腸がスッキリする」と、特に貴婦人たちの間で評判だとか。
「これが今回の売上と、頼まれていた品々です」
ベルンは荷馬車から荷物を下ろし始めた。
小麦粉、塩、香辛料などの食料品。
鍋やフライパンなどの調理器具。
そして、包み紙に入った衣服だ。
「フィオさんには、これを。街で一番似合いそうなものを選んできました」
フィオが包みを開けると、そこには白を基調としたブラウスと、森に馴染む深い緑色のスカートが入っていた。
生地もしっかりしていて、動きやすそうだ。
「わぁ……! こんな素敵な服、私が着てもいいんでしょうか?」
「もちろんです。源泉様の管理人として、身なりは整えておきませんとね」
フィオは早速、新設した脱衣所に駆け込み、着替えて出てきた。
ボロボロの服から一転、清楚な村娘といった風情だ。
うん、可愛い。俺の目に狂いはなかった(選んだのはベルンだが)。
俺は称賛の意を込めて、湯面をキラキラと輝かせた。
「ありがとうございます、源泉様! ベルンさん!」
くるりと回って見せるフィオ。
平和な光景だ。
だが、ベルンの表情が少し曇った。
「……喜んでいただけて何よりです。ただ、一つだけ忠告しておかねばなりません」
彼は声を潜めた。
「この水があまりに高く売れたせいで、良くない噂も立っています。『森の奥に黄金の泉がある』とか、『エルフが秘宝を守っている』とか……」
「え……」
「街のゴロツキや、一攫千金を狙う冒険者崩れが、ここを探し回っているという情報もあります。くれぐれも気をつけてください」
ベルンの言葉に、場の空気が引き締まる。
やはり、目立てば敵も増えるか。
俺はただの温泉だが、フィオに危険が及ぶのは許せない。
(防衛手段、本気で考えないとな……)
俺は決意を新たにした。
ポイントはまだある。
癒やしの楽園を守るため、俺は「温泉」としての戦い方を模索し始めた。




