第5話:脱衣所と露天風呂
商人ベルンが去ってから数日。
俺たちは、彼が戻ってくるまでの間、この場所をさらに快適にすることにした。
いわゆる「温泉宿化計画」だ。
まず問題になったのは、脱衣所だ。
フィオは今まで、岩陰で着替えていた。
俺は温泉(場所)なので、彼女がどこで着替えようが見えてしまうのだが(役得とか言ってる場合じゃない)、やはり乙女として、ちゃんとした脱衣スペースは必要だろう。
「源泉様、ここに壁を作ってもよろしいでしょうか?」
フィオが指差したのは、俺の湯船のすぐ脇だ。
俺は了承の泡を出す。
彼女は「樹木操作」で木を曲げ、蔦を絡ませて、あっという間に目隠しの壁と、小さな小屋を作ってしまった。
中には平らな石を置いて、着替えを置く棚にしている。完璧だ。
次に、湯船の拡張だ。
今の俺は、岩場の窪みに溜まったただの水たまりに近い。
もっとこう、風情のある露天風呂にしたい。
(ここをこう……広げて……)
俺は意識を集中し、岩盤を少しずつ削るイメージを持つ。
物理的に岩を動かす力はないが、お湯の流れるルートを変えることで、徐々に侵食させていくことはできる。
さらに、邪魔な岩に向かって集中的に湯気を吹き付け、フィオに合図を送る。
「はい! この岩ですね!」
フィオとの連携プレーで、湯船は倍の広さになった。
底には丸い小石を敷き詰め(これもフィオが集めてきた)、足裏に心地よい刺激を与える仕様に。
さらに、湯船の縁には平らな岩を配置し、半身浴や休憩ができるスペースも確保した。
「わぁ……広くなりましたね! これなら泳げそうです!」
フィオは完成した露天風呂を見て歓声を上げた。
そして、遠慮なく服を脱ぎ(脱衣所使えよ)、チャポンと浸かる。
「はぁ〜……極楽ですぅ……」
その言葉を聞くと、俺も嬉しくなる。
ポイントもチャリンと入る。
現在のポイントは350pt。
ベルンとの取引で得た「商売成立ボーナス」なども入り、結構貯まっている。
俺はリストを眺めた。
新しい設備系スキルが欲しいな。
【獲得可能スキル一覧】
・打たせ湯(80pt)
・ジャグジー(100pt)
・サウナ(蒸気浴)(150pt)
・夜間照明(発光苔)(50pt)
(ジャグジー……いや、ここは風情を重視して『打たせ湯』か?)
いや待て、『夜間照明』も捨てがたい。
夜、真っ暗な中で入るのもオツだが、淡い光があればもっと幻想的になるし、防犯上も良い。
俺は迷った末、50ptを使って「夜間照明(発光苔)」を取得した。
その夜。
俺の岩場の隙間や、水底から、淡い青白い光が灯った。
魔法の光ではない。自然の苔が発する、優しく幻想的な光だ。
湯気に光が乱反射し、周囲はまるで夢の中のような光景になった。
「きれい……星が落ちてきたみたいです」
夜の入浴を楽しんでいたフィオが、うっとりと呟く。
その横顔が光に照らされ、神秘的な美しさを放っていた。
……うん、これを選んで正解だったな。
こうして、俺たちの秘湯は、着々と「高級リゾート」への道を歩み始めていた。
あとは、お客さんが来るのを待つだけだ。




