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異世界の名湯は、喋らない。 〜効能チートでエルフと作る、世界最高の癒やしリゾート〜  作者: 悠々


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第4話:商人と奇跡の水

 翌日、俺は早速フィオに「陶芸スキル」を付与した。

 彼女は今、川岸で採れた粘土質の土をこねていた。


「『成形』……!」


 彼女がスキルを発動すると、泥団子がみるみる形を変え、滑らかな曲線の壺へと変化していく。

 手びねりとは思えない精巧さだ。さすがスキル補正。


「できました! 源泉様、お願いします!」


 フィオが乾燥させた壺を、俺の岩場の一角に置く。

 ここからが俺の出番だ。


(よし、いくぞ……!)


 俺は一点に熱を集中させる。

 『温度操作:極熱』。

 岩が赤く発光し、周囲の空気が揺らぐほどの高温が発生する。

 本来ならマグマに近い温度だが、俺の制御で陶器を焼くのに最適な温度を保つ。


 数時間後。

 冷まされた窯(岩場)から取り出されたのは、しっかりとした焼き締め壺だった。


「できました! これならお水を入れても漏れません!」


 フィオは完成した壺に、湧き出る炭酸泉をなみなみと注いだ。

 コルク代わりの木の栓をすれば、炭酸水ボトルの完成だ。


 その時だった。

 森の奥から、ガサガサと何かが近づいてくる気配がした。

 動物ではない。もっと重い、足音だ。


(……人間か?)


 フィオも気づき、緊張した面持ちで立ち上がる。

 現れたのは、大きなリュックを背負った中年男性だった。

 身なりはしっかりしているが、服は汚れ、疲労困憊といった様子だ。


「はぁ……はぁ……道に迷ってしまったが……水音が聞こえて……」


 男は俺(温泉)を見ると、救われたような顔をした。

 だが、すぐにフィオの姿に気づき、警戒心を露わにする。

 こんな森の奥にエルフの少女が一人。怪しまれるのも無理はない。


「……失礼。私は行商人のベルンという者だ。怪しい者ではない」

「……私はフィオです。ここを管理しています」


 フィオは毅然と答えた。

 ベルンと名乗った商人は、喉を鳴らして俺の水面を見た。


「その……水を、一杯恵んでいただけないだろうか。喉が渇いて死にそうなのだ」

「はい、どうぞ。でも、ただの水ではありませんよ」


 フィオは作りたての壺に入った炭酸泉を差し出した。

 ベルンは礼を言い、一気に煽る。


「ゴクッ……んっ!? うおおっ!?」


 ベルンが目を見開いた。

 口から離した壺の中身を二度見し、そしてまた一口。


「なんだこれは!? 口の中で弾ける……それに、この甘み! 疲れが一気に吹き飛ぶようだ!」

「『シュワシュワの水』です。ここの……主様が作ってくださったんです」


 フィオが誇らしげに俺の方を見る。

 ベルンは震える手で壺を握りしめた。


「シュワシュワの水……聞いたことがない。だが、これは売れる! 王都の貴族たちがこぞって求めるぞ!」


 商人の目が、渇きを癒やす者の目から、獲物を狙う狩人の目(商売人の目)に変わった。

 彼はリュックから干し肉を取り出し、フィオに差し出した。


「お嬢さん、いやフィオさん。この水を私に売ってくれないか? もちろん、適正な価格で買い取る」

「売る……?」

「ああ。この森には珍しい薬草もあるだろうが、この水は別格だ。それに……」


 ベルンは俺の湯気を吸い込み、ほうっと息を吐いた。


「この場所自体が素晴らしい。ただのお湯じゃない。魔力を感じる……ここは一体?」


 フィオは少し考え、そして俺に向かって微笑んだ。


「ここは『癒やしの秘湯』。そしてあの方は、私たちを守ってくださる『源泉様』です」


(源泉様……まあ、そのままだな)


 ベルンは俺に向かって深々と頭を下げた。


「源泉様、とお呼びすればよろしいか。私はこの奇跡の水を、世に広めたいと思います。どうか、お許しいただけますでしょうか」


 礼儀正しい男だ。

 俺は許可の印として、ボコッと大きな泡を一つ弾けさせた。

 ついでに、湯温を少し上げて「歓迎」の意を示す。


「おお……! お湯が温かくなった。許してくださったのか!」


 ベルンは感動し、すぐに商談に入った。

 彼は持っていた食料や布、そして小銭を対価に、炭酸泉を数本(壺ごと)買い取る契約を結んだ。

 さらに、定期的にここを訪れ、物資を運んでくると約束してくれた。


「これは、世界を変える発見かもしれませんぞ……」


 ベルンは興奮冷めやらぬ様子で、壺を大事そうにリュックに詰めた。

 こうして、俺たちは初めての「顧客」と「流通ルート」を手に入れたのだった。

 フィオの新しい服が手に入る日も近そうだ。

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