第3話:温泉卵とログハウス
炭酸泉の発見から数日。
フィオのここでの暮らしは、さらに充実したものになっていた。
まずは住居だ。
野宿はさすがに可哀想だと思っていたが、フィオは農業スキルの応用でこれも解決してしまった。
「『樹木操作』!」
彼女が森の木々に手をかざすと、枝や幹が生き物のように動き出し、絡み合っていく。
切ったり釘を打ったりすることなく、生きたままの木がドーム状の空間を作り出したのだ。
屋根は大きな葉で覆われ、雨風を凌げる立派なログハウス(生木製)が完成した。
「すごい……私、こんなこともできるなんて」
フィオ自身も驚いている。
どうやら俺が付与した農業スキルは、単に作物を育てるだけでなく、植物全般を操る上位スキルのようだ。
俺のポイント、いい仕事してるな。
住処ができれば、次は食だ。
野菜は採れるようになったが、やはりタンパク質が欲しい。
森には鳥や小動物がいるが、フィオは狩りが得意ではないらしい。
そこで俺の出番だ。
(鳥が……あの枝に止まっているな)
俺は意識を集中する。
新しく取得したスキル「熱湯噴射(小)」の出番だ。
狙いを定め……発射!
ピュッ!
水鉄砲のような勢いで、熱湯が一直線に飛ぶ。
狙いは正確に鳥に命中し、鳥は気絶して落ちてきた。
……いや、殺生はあまりしたくないが、背に腹は代えられない。
「神様!? 今、お湯が……!」
フィオが駆け寄り、落ちた鳥を拾い上げる。
そして、俺に向かって手を合わせた。
「ありがとうございます! お肉まで恵んでくださるなんて……!」
感謝され、ポイントが入る。
フィオは手際よく鳥を捌くと、俺の「高温エリア(源泉近く)」に持ってきた。
そう、調理だ。
俺のお湯は場所によって温度が違う。源泉近くは90度近い。
彼女はそこに、葉っぱで包んだ肉や、森で見つけた卵を沈める。
数分後。
ほくほくの茹で鶏と、とろりとした温泉卵の完成だ。
「いただきます!」
フィオが幸せそうに頬張る。
温泉卵を口に入れた瞬間、彼女の目が輝いた。
「美味しい……! 白身はぷるぷるで、黄身が濃厚で……普通に茹でるのとは全然違います!」
そりゃそうだろう。温度管理された完璧な温泉卵だぞ。
俺も食べたい……いや、彼女の笑顔が見られればそれでいい。
『入浴者(居住者)が幸福を感じました』
『満足度ポイントを獲得:80pt』
美味しい食事は人の心を豊かにする。そして俺のポイントも豊かになる。
現在のポイントは240pt。
順調だ。
食後のデザート(?)はもちろん、あの「シュワシュワの水」だ。
フィオは竹のような植物を加工してコップを作り、そこに炭酸泉を汲んで飲むのが日課になっていた。
「はぁ……生き返ります」
風呂上がりの一杯を楽しむおっさんのようなセリフだが、美少女が言うと絵になる。
彼女はコップを見つめながら、ふと呟いた。
「このお水、瓶に入れておけば、いつでも飲めるでしょうか?」
お、いいところに気づいたな。
炭酸は抜けるかもしれないが、密閉できればある程度は持つはずだ。
この世界にガラス瓶があるかは知らないが、陶器の壺とかならあるかもしれない。
「もし、これを町で売ることができれば……もっといい服や、道具が買えるかもしれません」
フィオの視線が、ボロボロの服に向けられる。
確かに、いつまでもその格好じゃ不便だろう。
それに、彼女にはもっと可愛い服を着てほしい(親心)。
(商売か……悪くないな)
俺は賛成の意を示すために、ポコポコと軽快なリズムで気泡を出した。
フィオは嬉しそうに頷く。
「はい! 神様が許してくださるなら、私、頑張ってみます!」
こうして、俺たちはこの森の恵みを、外の世界へと届ける準備を始めることになった。
だがその前に、まずは容器の確保だな。
俺のポイントを使って、フィオに「陶芸スキル」を付与しよう。
形を作れば、あとは俺が本気を出して岩盤を赤熱させ、窯の代わりになればいい。
……いけそうな気がする。
明日、フィオに提案してみよう。
温泉とエルフの、スローライフな日々は続く。




