第2話:エルフの少女と開拓生活
エルフの少女の名前は、フィオというらしい。
独り言や、俺(温泉)への祈りの言葉から判明した。
「神様、今日もいいお湯をありがとうございます」
フィオは毎朝、必ず俺に向かって深々と頭を下げる。
そして顔を洗い、水を一口飲むのが日課になっていた。
いや、だから神様じゃないんだってば。
俺が否定したくても、伝わる手段はない。
ポコッと気泡を出すと、彼女は「お返事ありがとうございます!」と嬉しそうに微笑む。
……まあ、悪い気はしないからいいか。
フィオはこの森に住み着くことにしたようだ。
彼女は追われる身らしいが、ここなら魔物も寄り付かないし(なぜか俺の周りだけ平和だ)、水もある。
問題は食料と住処だが、そこで俺が授けた「農業スキル」が火を吹いた。
「『耕作』!」
フィオが木の枝を振るうと、カチカチだった岩場混じりの地面が、まるでバターのように柔らかく耕されていく。
本来なら鍬で何日もかけなきゃいけない作業が、一瞬だ。
「すごい……これなら、すぐに種が蒔けます!」
彼女は懐から、しなびた木の実や種を取り出した。逃げる時に持ってきた非常食の残りだろうか。
それを耕したばかりの土に埋め、手をかざす。
「『成長促進』!」
魔力が土に染み込むと、ボコボコッと土が盛り上がり、緑の芽が顔を出した。
芽はぐんぐん伸び、葉を広げ、あっという間に花を咲かせ、実をつける。
数分前まで荒地だった場所が、今は立派な家庭菜園になっていた。
トマトのような赤い実、芋のような根菜。
(マジかよ……農業スキルってレベルじゃねーぞ)
俺はただのお湯として、その光景を呆然と(?)見守るしかなかった。
これ、食料問題が一瞬で解決しちゃったんじゃないか?
「神様、見てください! できました!」
フィオは泥だらけの顔で、収穫したばかりの赤い実を掲げた。
その笑顔は、最初に出会った時の悲壮感とは別人のように明るい。
「これは、神様へのお供え物です」
彼女は一番大きく育った実を、俺の縁にある平らな岩の上に置いた。
いや、俺は食えないけどね。
でも、その気持ちは嬉しい。
『入浴者(居住者)が感謝しました』
『満足度ポイントを獲得:50pt』
おっと、結構なポイントが入った。
どうやら「入浴」だけでなく、俺の領域内で生活し、感謝することでもポイントは貯まるらしい。
現在の所持ポイントは60pt。
リストを確認すると、新しいスキルが解放されていた。
【獲得可能スキル一覧】
・温度調節Lv3(10pt)
・成分追加:炭酸泉(50pt)
・成分追加:硫黄泉(30pt)
・建築スキル付与(50pt)
(炭酸泉……!)
俺の目が(ないけど)輝いた。
炭酸泉。つまりサイダーの原料だ。
前世の記憶が蘇る。風呂上がりの冷えた炭酸飲料。あの喉越し。
今の俺は飲めないが、フィオに飲ませてやりたい。
それに、この世界に炭酸飲料がないなら、これはとんでもない武器になるはずだ。
(よし、これだ!)
俺は迷わず50ポイントを消費し、「成分追加:炭酸泉」を取得した。
そして、意識を集中する。
体内の成分を組み替え、二酸化炭素を水に溶け込ませるイメージ。
さらに、錬金術的な何かで、果実のような甘い風味もプラスしてみる。
ボコッ、ボコボコッ!
俺の水面から、今までとは違う、細かくて勢いのある泡が立ち上り始めた。
「神様……? お湯の様子が……?」
フィオが不思議そうに覗き込んでくる。
俺は彼女の顔の近くで、パチンと泡を弾けさせた。
ほら、飲んでみろよ。美味いぞ。
彼女はおっかなびっくり、手でそのお湯(炭酸水)を掬い、口に含んだ。
「んっ!? ……痛い? いえ、シュワシュワします!」
彼女は目を丸くした。
だが、すぐにその表情が驚きから歓喜へと変わる。
「甘い……! それに、このパチパチする感じ、喉がすっきりします! 美味しいです!」
ゴクゴクと飲み干すフィオ。
どうやら気に入ってくれたようだ。
『入浴者が感動しました』
『満足度ポイントを獲得:100pt』
(うおっ、倍になった!)
やはり、未知の体験というのはポイントが高いらしい。
フィオはもう一杯、とおかわりをしている。
そんなに飲むと腹が膨れるぞ、と思いながらも、俺は満足感に浸っていた。
こうして、俺とフィオの開拓生活は順調なスタートを切った。




