第19話:癒やしの国へようこそ
あれから数年の月日が流れた。
かつて未開の地だったこの森は、今や大陸でも有数の観光地へと変貌を遂げていた。
「いらっしゃいませ! 旅の疲れを癒やしていってくださいね!」
入り口で元気な声を上げているのは、すっかり「女将」の貫禄がついたフィオだ。
彼女の着ている服は、上質な絹で作られた着物風の衣装。
農業スキルで育てた綿花と、蚕(魔物)の糸で作った特注品だ。
「おう、源泉様! 今日もいい湯加減じゃな!」
ガンテツ親父が、完成したばかりの「三階建て大浴場」の点検を終えて、一番風呂を楽しんでいる。
彼の指揮のもと、宿泊施設、食堂、土産物屋などが次々と建設され、ここは一つの「村」……いや、「温泉郷」となっていた。
客層も様々だ。
湯治に来た老人、バカンスに来た貴族、冒険の疲れを癒やす戦士たち。
そして、人間だけではない。
「ウキャッ!」
「キュルル〜」
専用の「アニマルゾーン」では、ゴウ率いる猿軍団とカピバラたちが仲良く混浴している。
ゴウは警備隊長として、森の平和を守りつつ、たまに客の背中を流したりしている(チップとしてバナナをもらっているらしい)。
「源泉様〜! 来ちゃいました!」
元気な声と共に駆け寄ってきたのは、美しく成長したアリスだ。
かつての病弱な面影はどこにもない。
彼女は休みのたびに、父である領主グリードと共にここを訪れている。
グリードも今や「温泉マニア」として有名になり、王都でここの宣伝部長のような活動をしているらしい。
(やれやれ、今日も大盛況だな)
俺は心地よい疲労感(?)を感じながら、湯気を空へと立ち上らせた。
転生した時はどうなることかと思ったが、悪くない。
いや、最高だ。
動けなくても、喋れなくても、俺にはできることがある。
冷えた体を温め、傷ついた心を癒やし、明日への活力を与えること。
それが俺の、温泉としての生きる道だ。
『入浴者全員が幸福を感じています』
『満足度ポイント:測定不能(MAX)』
俺はこれからも、この場所で湧き続けるだろう。
訪れる全ての人々を、温かく包み込むために。
「さあ、いいお湯ですよ。ごゆっくりどうぞ」
フィオの言葉に合わせるように、俺はポコッと一つ、歓迎の泡を弾けさせた。
ようこそ、癒やしの国へ。
ここは世界で一番温かい場所だ。




