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異世界の名湯は、喋らない。 〜効能チートでエルフと作る、世界最高の癒やしリゾート〜  作者: 悠々


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第17話:雪の中の来訪者

 初雪が舞い始めた日。

 森の静寂を破り、一台の馬車が現れた。

 護衛の兵士はいない。御者と、乗客だけのようだ。

 馬車は黒塗りで高級そうだが、家紋などは目立たないように布で隠されている。


 ゴウが警戒して唸り声を上げるが、フィオがそれを制した。

 馬車が止まり、扉が開く。

 降りてきたのは、厚手のコートに身を包んだ中年男性だった。

 以前、私兵団を送り込んできた領主、バロン・グリードだ。

 だが、その顔にはかつての傲慢さは微塵もない。

 深く刻まれた皺、落ち窪んだ目。心労で一気に老け込んだように見える。


 彼は馬車の中へ手を伸ばし、小さな体を慎重に抱き上げた。

 毛布にくるまれた少女だ。

 顔色は雪のように白く、呼吸も浅い。生きているのが不思議なくらいだ。


「……頼む」


 グリードは、フィオと、そして俺(温泉)に向かって、雪の上に膝をついた。


「この通りだ。娘を……アリスを、助けてくれ」

「領主様……」

「金ならいくらでも払う。土地も、権利も、お前たちの好きにしていい。だから……娘だけは……!」


 なりふり構わぬ父親の姿。

 そこには、権力者のプライドなど欠片もなかった。ただの、娘を愛する一人の親がいるだけだ。


 フィオが駆け寄り、彼の手を取って立たせた。


「頭を上げてください。源泉様は、助けを求める者を拒みません」


 フィオの言葉に、俺は肯定の意を示すように、温かい湯気をふわりと彼らに送った。

 グリードは涙ぐみながら、何度も頷いた。


「ありがとう……ありがとう……!」


 俺たちはすぐに準備に取り掛かった。

 アリスを脱衣所に運び、フィオが服を脱がせ、バスタオルで包んで抱きかかえる。

 俺は湯温を体温より少し高い程度に調整し、刺激の少ない「超・軟水モード」にする。

 いきなり強い成分を入れると、弱った体には毒になりかねないからだ。


 フィオがゆっくりと、アリスを俺の中へと沈める。


「……ん……」


 お湯に触れた瞬間、アリスの口から小さな吐息が漏れた。

 強張っていた体が、少しずつ解れていく。

 俺は全神経を集中させる。

 彼女の体内の悪いもの……滞った魔力や、弱った細胞を感じ取る。


(大丈夫だ。まだ間に合う)


 俺はポイントを惜しみなく投入する。

 『生命力活性化』『免疫力向上』『魔力循環正常化』。

 俺の持てる全ての「癒やし」を、この小さな体に注ぎ込む。


 頼む、生きてくれ。

 俺の願いに応えるように、お湯が淡い黄金色に輝き始めた。

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