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異世界の名湯は、喋らない。 〜効能チートでエルフと作る、世界最高の癒やしリゾート〜  作者: 悠々


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第16話:秋の訪れと不穏な噂

 季節は巡り、森の木々が赤や黄色に色づき始めた。

 朝晩の冷え込みが厳しくなってきたが、それはつまり「温泉のベストシーズン」が到来したということだ。

 湯気が白く立ち上り、冷えた体に温かいお湯が染み渡る。最高だ。


 そんなある日、ベルンが定期便の物資を届けにやってきた。

 彼はいつものように炭酸泉や石鹸を仕入れに来たのだが、どこか浮かない顔をしている。


「ベルンさん、何かあったんですか?」


 フィオが心配そうに尋ねると、ベルンは重い口を開いた。


「実は……街の雰囲気が少し暗くてですね。領主のグリード様が、最近ふさぎ込んでおられるようなのです」


 あの強欲領主がふさぎ込む?

 金儲けに失敗したのか、それとも俺たちへの報復を諦めたのか。


「いえ、どうやらご息女の……アリス様の病状が悪化したらしいのです」


 アリス。領主の一人娘だ。

 噂では、生まれつき体が弱く、最近はずっと寝たきりだという。

 領主は強欲で嫌われ者だが、娘のことだけは溺愛しており、あらゆる名医や薬を試したが効果がないらしい。


「『もう長くはないかもしれない』……そんな噂まで流れています」


 ベルンの言葉に、フィオが胸を押さえた。

 彼女自身、傷つき、死にかけていたところを俺に救われた過去がある。

 病に苦しむ少女の姿を想像し、心が痛むのだろう。


「……可哀想に。まだ小さいんでしょう?」

「ええ、まだ十歳にもなっていないはずです」


 フィオは俺(水面)を見つめた。

 その瞳は、何かを訴えかけていた。


(わかってるよ、フィオ)


 俺はポコッと優しい音を立てた。

 相手はあの領主の娘だ。敵の娘だ。

 だが、病気の子供に罪はない。

 もし、助けを求めてここに来るなら、俺は拒まない。

 俺は温泉だ。来る者すべてを癒やすのが仕事だ。


 フィオは俺の意図を汲み取り、深く頷いた。


「ベルンさん。もし……もしも領主様が、娘さんを連れてここに来ることがあれば、私たちはお迎えします。そう伝えていただけませんか?」

「えっ!? しかし、領主様は以前、ここを奪おうとしたんですよ?」

「源泉様も、そう望んでおられる気がするんです。それに……病気の人を見捨てるなんて、温泉の管理人はできませんから」


 フィオの言葉に、ベルンは目を見開いた。

 そして、感服したように頭を下げた。


「……わかりました。フィオさん、源泉様の慈悲深さに、心が洗われる思いです。必ず、街でそれとなく噂を流しておきます。『奇跡の泉なら、あるいは』と」


 ベルンは荷馬車に乗り込み、街へと戻っていった。

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