第15話:満員御礼と足湯の平和
サウナ効果もあり、俺たちの温泉郷はかつてない賑わいを見せていた。
ただし、客層は少し偏っている。
今のところ、人間の客はたまに来る冒険者や商人だけで、メインの客層は「森の動物たち」だ。
特に人気なのが、最近住み着いた「カピバラモドキ」の群れだ。
彼らは一日中、湯船に浸かってボーッとしている。
そこへ、ゴウの仲間である猿たちがやってくると、問題が起きる。
「ウキャッ!ウキャキャ!」(どけよ、俺たちの場所だぞ!)
「キュルルッ!」(やだね、先に入ってたのは僕たちだ!)
湯船のベストポジションを巡って、猿とカピバラが一触即発の睨み合いを始めたのだ。
露天風呂は広いとはいえ、源泉近くの温かい場所は限られている。
「こらこら、喧嘩はダメよ! 順番に入りなさい!」
フィオが仲裁に入るが、言葉が通じない動物たちは興奮して聞く耳を持たない。
ゴウがボス猿として「ウオォン!」と一喝するが、カピバラたちはマイペースに無視を決め込んでいる。
このままでは、せっかくの癒やしの空間が修羅場になってしまう。
(仕方ない、拡張するか)
俺はポイントを確認する。
最近の盛況ぶりで、ポイントは潤沢にある。
俺は以前から考えていた「あれ」を実行することにした。
『スキル発動:流路操作』
『スキル発動:温度調節(浅瀬)』
俺は露天風呂から溢れ出るお湯のルートを変え、少し下流の平らな岩場へと導いた。
そして、ガンテツが余った木材で作ってくれたベンチを並べる。
深さは足首ほど。底には丸い小石を敷き詰め、歩くと足ツボ効果もある。
即席「足湯コーナー」の完成だ。
俺は足湯の方へ、甘い香りの入浴剤成分を流してみた。
「クンクン……?」
鼻の利く動物たちが反応する。
猿たちが興味津々で足湯の方へ移動し、恐る恐る足を浸ける。
「ウキッ! ウキキッ!」(おっ、ここも温かいぞ! しかも果物みたいな匂いがする!)
猿たちは大喜びでベンチに座り、足をバタバタさせて遊び始めた。
カピバラたちは相変わらず露天風呂でボーッとしているが、猿がいなくなったので広々と使える。
「なるほど……足だけ温めるお風呂ですか! これなら服を着たままでも入れますね!」
フィオも感心した様子だ。
人間にとっても、全身入浴はハードルが高い場合がある。
足湯なら、旅の途中で靴を脱ぐだけで疲れが取れるし、会話も弾む。
こうして、猿とカピバラの抗争は、足湯という平和的解決策によって幕を閉じた。
夕暮れ時。
露天風呂にはカピバラ、足湯には猿とフィオたちが並んで座り、みんなで夕日を眺める。
まさに「平和」そのものの光景だった。




