第13話:頑固親父と匠の技
カーバンクルの一件から数日後。
またしても珍しい客がやってきた。
今度は人間……いや、背は低いが肩幅が広く、立派な髭を蓄えた種族。ドワーフだ。
「いたた……ここが噂の『奇跡の湯』ってのは本当か?」
老ドワーフは腰をさすりながら、苦悶の表情で現れた。
背中には大きなハンマーと、大工道具が入った袋を背負っている。
重そうだ。あれじゃ腰も痛くなるだろう。
「はい、そうです。ようこそお越しくださいました」
フィオが笑顔で出迎える。
ドワーフの爺さんは、フィオを見て少し驚いたようだが、すぐに痛みに顔を歪めた。
「わしゃガンテツだ。腕利きの建築家だったんだがよ……この腰痛のせいで引退を考えててな。藁にもすがる思いで来たんだ」
「それは大変でしたね。さあ、どうぞお入りください」
ガンテツはよろよろと服を脱ぎ、露天風呂へと足を踏み入れた。
「ふん、ただの野湯じゃねぇか。こんなんで治るなら苦労は……」
ブツブツ言いながら、彼はお湯に肩まで浸かった。
「……ん?」
その瞬間、ガンテツの動きが止まった。
俺は「腰痛治療モード」全開だ。
血行促進、筋肉の緊張緩和、そして神経痛に効く成分を惜しみなく投入する。
さらに、適度な水圧マッサージもサービスだ。
「お……おお……? 痛みが……引いていく……?」
ガンテツの強張っていた顔が、次第に緩んでいく。
そして数分後には、とろけるような表情で空を仰いだ。
「あぁ〜……こりゃあ極楽じゃ……長年苦しんだ腰の重りが、嘘みたいに消えていく……」
どうやら効果は抜群のようだ。
ガンテツはそのまま一時間以上も長湯を楽しみ、上がってきた時には、来た時とは別人のように背筋が伸びていた。
「すげぇ! まさか本当に治るとは!」
彼は腰をひねり、屈伸をし、痛みが消えたことを確認して大笑いした。
そして、改めて周囲を見渡した。
フィオが作ったログハウスや、俺の岩場の配置を、職人の目つきで吟味する。
「ふむ……嬢ちゃんが作ったのか? 素人にしては筋がいいが、ちと荒いな。ここも、もっとこうすれば湯冷めしねぇし、使い勝手も良くなる」
職業病なのだろう。彼はあちこち指差して指摘し始めた。
フィオは「なるほど……勉強になります」と素直に聞いている。
「よし! 決めたぞ!」
ガンテツはドンと胸を叩いた。
「わしゃここに住む! この腰を治してくれた礼だ。わしの残りの人生かけて、ここを世界一の温泉郷にしてやる!」
なんと、専属の建築家ゲットだ。
しかも腕は超一流らしい。
「まずは脱衣所だ! 今のままじゃ隙間風が入る。それに、休憩所も必要だろ。あと、源泉様(俺)の周りの岩組みも、もっと風情あるものに組み直してやる!」
ガンテツは早速、道具袋からノミや金槌を取り出した。
その目は、引退を考えていた老人のものではなく、現役の職人の輝きを取り戻していた。
フィオの「素材調達力」と、ガンテツの「建築技術」。
そして俺の「温泉力」。
最強の布陣が整った気がする。
俺たちの温泉郷作りは、ここから加速していくことになりそうだ。




