第10話:温泉防衛戦
数日後の早朝。
森の静寂を破り、金属の擦れる音と、多数の足音が響き渡った。
来たか。
「ここが報告にあった場所か。ふん、ただの野湯ではないか」
現れたのは、揃いの鎧に身を包んだ兵士たち。その数、十名以上。
先頭に立つ隊長らしき男が、尊大な態度でフィオを見下ろした。
「貴様がここの管理者を名乗るエルフか。本日より、この泉はグリード領主様の直轄地となる。直ちに立ち去れ」
「……お断りします。ここは源泉様の、そして私たちの場所です」
フィオは一歩も引かない。
その横には、ゴウが威嚇の姿勢で控えている。
「ほう、魔物を手懐けているのか。だが、我ら私兵団に勝てると思っているのか?」
隊長が剣を抜くと、他の兵士たちも一斉に武器を構えた。
一触即発。
フィオが手を掲げる。
「『植物操作』!」
地面から太い根が飛び出し、兵士たちの足を狙う。
だが、彼らは手慣れていた。
「小賢しい!」
剣で根を切り払い、ジリジリと距離を詰めてくる。
ゴウが咆哮と共に飛びかかるが、数人がかりで槍を突き出され、攻めあぐねている。
やはり、ゴロツキとは練度が違う。
「さあ、諦めろ。痛い目にあいたくなければな」
隊長がフィオに迫る。
万事休すか。
……いや、ここからが本番だ。
(出番だ。起きろ、守護神!)
俺は全神経を集中させ、スキルを発動した。
『スキル発動:ゴーレム作成』
ズズズズズ……!
地響きと共に、俺の周囲の岩場が大きく隆起した。
岩が組み合わさり、人の形を成していく。
高さ3メートル。全身から湯気を噴き上げる、岩石の巨人。
「温泉ゴーレム」の誕生だ。
「な、なんだあれは!?」
兵士たちが驚愕し、動きを止める。
ゴーレムはゆっくりと立ち上がると、隊長を見下ろした。
顔はないが、怒りの熱気を感じるはずだ。
「ひ、怯むな! たかが岩の人形だ!」
隊長が叫ぶが、ゴーレムは無慈悲に腕を振り下ろした。
ドォォォン!!
地面が揺れ、衝撃波で兵士たちが吹き飛ぶ。
直撃は避けたようだが、その破壊力に全員が顔面蒼白だ。
さらに、俺は追撃の手を緩めない。
『スキル発動:泥沼化』
兵士たちの足元の地面が、ズブズブの熱泥に変わる。
足を取られ、動きが封じられる。
「あ、熱っ! 足が抜けない!」
「ゴウ、今だ!」
フィオの指示で、ゴウが動けない兵士たちの武器を弾き飛ばし、次々と無力化していく。
ゴーレムは威圧するように仁王立ちし、時折、熱湯の蒸気をプシューッと噴射して戦意を削ぐ。
「ば、化け物だ……! 撤退! 撤退だぁーッ!」
隊長が情けない声を上げて逃げ出すと、部下たちも泥まみれになりながら這うように逃げていった。
完全勝利だ。
「やりました……! 私たちの勝ちです!」
フィオが歓声を上げ、ゴウとハイタッチをする。
ゴーレムは役目を終えたように、静かにその場に座り込み、岩場の一部に戻った(いつでも起動できるように待機モードだ)。
俺たちは守りきった。
とりあえずは、平和な日常が戻ってくるだろう。
フィオとゴウの笑顔を見ながら、俺は安堵の湯気を吐き出した。




