「栗パン売ってこいや‼」
卵パン買ってこいや‼
弱木には苦手な先輩がいる。
先輩の名は、熊五里と云い、熊とゴリラを千倍にしたような質を持っている。
名の通り二人の関係は下僕とラスボスのポジションで、弱木はいつも熊五里から付きまとわれているのだ。
登校して弱木が先ず気を付けているエリアは、熊五里が所属している調理部の前だ。
調理部は毎回朝練の為部員は部室に集まるので、当然熊五里も混ざっている。
(猛獣先輩の臭いが漂ってる。
見付からないように……姿勢を低くして……)
下駄箱の真ん前が調理部の部室なので、窓にはみ出さないよう弱木は中腰になり、調理部部室を通過しようとする。
弱木が心の中で『猛獣先輩』と呼ぶ熊五里の体臭は獣の質が詰まっているので、何処にいてもまるわかりだ。
〈ガラアッ‼〉
「くぉらあっ‼
ヨワキ‼
栗パン売ってこいや‼」
調理部部室の窓が突然開いて、そこから熊五里が、顔面を出して叫んだ。
猛獣の雄叫びだ。
「!」
弱木の全身がひきつり、一歩も動けなくなる。
「クマゴリ、そんな言い方じゃよっ君ビビるって!」
「よっ君ごめんね。
クマゴリ、ツンデレだから素直になれないのよ!」
「え?」
他の部員達が弱木に優しく語りかける。
「余計な事云うなよ、ヨワキ、ごらああ‼
ヨワキ、テメ、みてんじゃねえよ‼
ちげえよ、明日……」
熊五里はモゴモゴして、弱木をチラチラ見ている。
「明日、よっ君、誕生日っしょ。
だからね、栗パン売ったお金で、プレゼント買うんだとさ」
「余計なこと云うな……よ」
「……」
熊五里は乙女の顔で、暫く弱木を見つめていた。
「今から栗パン作るからよ、全部……売って……こいや」
〈ピシャリ〉
窓が閉められ、弱木は少しの間その場にいた。
弱木くんは男子、熊五里さんは女子です




