4 キツネです。
私はキツネ、この山に100年以上住んでいます。
もちろんただのキツネではありません。
人間からは魔物、妖狐などと呼ばれています。どうやら、魔力を持つ生物を魔物と呼んでいる様です。
ここはなかなか住み心地が良くて、長い間住み着いてしまいました。もう暫くはここに住むつもりです。
何故なら、ここはスライムが沢山いて面白い。その中でも面白い個体がたまに生まれて来るので、それを見るだけでも良い暇つぶしになります。
つい先程も、面白いスライムくんを魔法で人間の子供にした所です。
あれから1時間程経っていますが、どうなってるでしょうね?
私は小鳥に変身して、様子を見に行くとしましょう。
ポン!
軽い音と共に私の体が小鳥になりました。私の魔法です。
スライムくんが向かった学校の入り口へ飛んで行くと、タヌキくんがスライムくんを抱えて走って出て来ます。
そのまま裏山の方へ走って行ってしまいました。
ふむ、食べ物を持っていたので、人間から盗んだか貰って来たのでしょう。
追ってみましょう。
「よし、ここで良いな」
ポン!
音と共にタヌキくんが人間の姿からタヌキの姿に戻りました。
そのまま木に寄り掛かって座り込み、スライムくんもその隣に腰を下ろしました。
パタパタパタ…
私も羽ばたき2匹の居る木の枝にとまって様子を見ます。
「これがパンの耳?」
「そーだ。ミルクにつけて食うと美味いぞ」
タヌキくんが大きい葉っぱをお皿にして、その中にミルクを瓶から出しました。
そのミルクにパンの耳をつけて食べると、見ていたスライムくんも真似して食べ始めます。
「おいしい」
スライムくんがにっこり笑います。人間の姿になっても可愛らしいですね。
「で、キツネ野郎はいつまでそこで見てんだ?」
おや、タヌキくんに気付かれていた様です。
私は木の枝から離れて、キツネの姿に戻り、スライムくんの横へ降り立ちました。
「わあっ!キツネくん!どこにいたの?」
「どこでしょう?」
「えっと…上から来たから…空?鳥さんになっていたの?」
「当たりです」
スライムくんが喜んで体を揺らしました。
「おい、今は人間なんだから変な動きになってるぞ」
「そうだった」
タヌキくんに指摘され、スライムくんは自分の体を眺めます。
「りんごを貰ったんですか?」
スライムくんがりんごを握っているので、聞いてみましたが… そのりんご、何か魔法が掛かってますね。
「うん。毒りんご」
「毒りんご?」
「いや違う!怪しいりんごだ」
「まあ確かに怪しいと言えなくもありませんが…、りんごの質を上げる魔法が掛かっているだけですよね?」
私がそう言うと、スライムくんはこてんと首を傾げました。
全く分かっていない様ですね。
「それだけか。ただの美味いりんごだとよ」
「うまいりんご!」
スライムくんがキラキラと目を輝かせてりんごを頭上へ掲げます。
「キツネくんありがとう!人間になったからもらえた。半分こしよう」
「おや、美味しいりんごなのに良いんですか?」
スライムくんは嬉しそうに笑顔で何度も頷きます。
「はいはい。そんなに首を動かしたら、折れてしまいますよ」
「えっ」
顔色を悪くしてピタリと止まりました。面白いですね。
「人間って、首かが折れたら…」
「死にます」
「じゃ、じゃあぼくも今は人間だから首が折れたら死んじゃう?」
「さあ?試してみては?」
スライムくんは今度は横に首をぶんぶんと振ろうとして、またピタリと止まります。ふふふ。
「たいへん。首、折れないように持ってる」
今度は両手で自分の顔に手を当てています。支えてるつもりなのでしょう。
「それよりもスライムの姿に戻してもらえよ」
「そうだ!タヌキくんかしこい」
「へっ。お前がバカなだけだ」
タヌキくんが照れてます。でも自分で言っている通りで、賢くは無いと思いますが。
私はスライムくんが落としたりんごを拾って半分に割り、片方をスライムくんへ。
「ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「えへへ」
にこにこ笑うスライムくんに掛けた魔法を解除します。
ポン!
と音と共に白いスライムがそこへ。
スライムの姿に戻ったスライムくんは、りんごを美味しそうに食べました。
私も頂きます。りんごを齧ると、シャッキっとした食感と爽やかな甘み、それと魔力を感じます。これっぽっちの魔力では、変身魔法一回も使えませんが、スライムくんはちょっとレベルアップした様です。元の魔力が少ないから、りんごに含まれた魔力程度でほんの少しですが大きくなりましたね。
「お?スライムちょっと大きくなったか?」
「ほんと?」
「ちょっとだけな」
「大人になった?」
「まだだ。大人になるにはあと10個は食わねーと」
タヌキくんも気付きましたね。
でも、りんご10個じゃまだ大人にはなれないでしょう。
タヌキくんは口だけは一人前ですが、生まれてからまだ10年程しか経ってない若者です。可愛いものですね。
「毒りんご10個?」
「だから毒じゃねーって。魔法な!魔法りんご!」
「魔法りんご」
「ほら、パンの耳も食え」
「パンの耳」
スライムくんはパンの耳を食べながら、じっと見て言いました。
「なんでパンに耳があるの?食べ物なのに」
「そんなん知るか。人間が勝手にそう名付けたんだろ」
私はそろそろおいとましましょう。
「ではまた。人間になりたい時はいつでも言って下さい」
「うん。キツネくん、ありがとう」
「フン」
タヌキくんにはそっぽを向かれてしまいました。