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聖治と香織の関係

 俺たちの視線を受けて、沙城さんは覚悟を決めたように話し出した。


「単刀直入に言うと、私と聖治君は西暦2039年の未来から来たんだ」

「はあ?」

「ごめん、なんだって?」


 星都が素っ頓狂な声を出すが俺だってそうだ。俺が、なんだって?


「そうなの聖治くん?」

「いや……」


 二人が俺を見るが俺だって鏡に聞きたいよ。


「さきほど私はセブンスソードは魔卿騎士団の新たな団長を作るための儀式って言ったよね」

「ああ」

「魔卿騎士団の団長が亡くなったの。団長のカリスマと力でまとまっていた魔卿騎士団はそのため様々な派閥に分れ今は組織として機能していない。でもそれだとまずいのよ。魔卿騎士団が機能しなくなれば勢力図が変わり戦争が起きかねない」


 団長が亡くなったことで魔卿騎士団は分裂、弱体化したため他の組織が動き出したってことかな? でもそれだけで戦争なんて起きるだろうか。


「たとえばアメリカで内戦が起きて、その隙にロシアなり中国なりが軍事行動を起こすかもしれない、みたいな状況か?」

「そう。星都君の言う通り。世界の安定のため魔卿騎士団は一刻も早く新たな団長を選び組織をまとめ上げないといけない。そのためセブンスソード推進派が儀式を始めたの。いないなら作ればいいってね」


 なるほど、それでセブンスソードね。だからといって納得なんてしないけど。


「だけど、私たちの世界では成功しなかった」

「え」


 その一言に声が漏れる。

 成功しなかった? それって、失敗したってことだよな? 

 俺たちは今まさにそのセブンスソードの真っ只中にいる。それが失敗するとどうなるんだ?


「結果、どうなったと思う?」


 そう聞く沙城さんの表情は暗い。

 セブンスソードの失敗、その結果どうなったのか、未来人を自称する彼女がその結末を語る。


「新たな団長は生まれなかった。結果、世界の均衡が崩れたの。殺戮王と名乗る勢力が襲ってきたんだ。それは人間じゃなかった。空から突如悪魔の大群が現れたのよ。世界中が戦場になって、人類も戦ったけど悪魔たちは強大で、けっきょく人類は勝てなかった。私たちは、負けたの。大勢の人が死んで、このままでは全滅しちゃう」

「そんな」

「おいおい、それほんとかよ」


 俺たちに動揺が広がる。いきなりそんなこと言われて信じるわけじゃないけど、彼女の言った未来は悲惨過ぎる。


「でも大丈夫! その状況を唯一挽回できる方法がある!」


 けれどまだ希望はある。沙城さんの目に熱が宿り、その瞳が俺を見る。


「聖治君だよ」

「俺?」


 なんでそこで俺!?


「聖治君は未来の世界で現存していた五本のスパーダを託されたの。人類の行く末と共にね。未来の聖治君はなんていうか特別で、スパーダの譲歩でも能力を使いこなしていた。完成された器。まさに人類の救世主。君は選ばれた存在なのだ~フォッフォッフォ」

「ヒュ~」

「聖治くんすごいんだな」

「茶化さないでくれ」


 まるで聖剣を引き抜いた王様か処女から生まれた救世主みたいだ。もちろんそんな記憶はない。


「私たちの使命は紛失してしまった残り二つのスパーダを回収して未来に戻ること。その内の一本は私がスパーダに立候補した時にもらったこれがそうだし、それが出来れば殺戮王にだって勝てる! ねえ聖治君、思い出せない?」


 身を乗り出し真剣な目つきで聞いてくる。その期待を込めた瞳に俺は顔を横に振った。そう言われてもだな。


「聞きたいんだけど、今の説明だと俺は五本持ってるはずじゃないか? でも実際にはこれだけだ」


 俺はシンクロスを見る。俺が五本のスパーダを持って未来から来たなら、それらのスパーダを出せないとおかしくないか?


「うん、それはそうなんだよね。未来に置いてきたのか、他に理由があるのか。実を言うと私も一部記憶がないんだよね。どうやって過去へ来たのかは覚えてないの。気づいた時には現代の魔卿騎士団の施設にいたっていうか。聖治君と二人で来たはずだけど引き離されちゃったし~」

「なんだよそれ、大事なところが抜けてるじゃねえか」

「もーう、仕方がないじゃん! 私だって知らないんだから!」

「星都くん、あまり責めるのもよくないよぉ」


 沙城さんは俺が本当は未来にいて、そこで五本のスパーダを託されたと言う。

 選ばれた存在。忘れた記憶。本当の俺っていったいなんなんだろうか。


「なあ、ちといいか? 未来に二つのスパーダを持っていくってことだけどよ、過去に来たことによって未来も変わってるんじゃないか? ほら、タイムスリップのお約束だろ? 過去が変われば未来も変わる。聖治は知らんが転校生が来たことでその持っていくはずの未来も変わってるんじゃないか?」

「それなら大丈夫。過去が変わっても未来は変わらない、分岐するんだよ」

「分岐?」


 いわゆるタイムパラドックスだな。


「そう、多世界解釈。たとえば親殺しのパラドックスってあるよね。タイムスリップして自分が生まれる前の親を殺したら自分が生まれなくなる。自分が生まれていないから親は殺されず自分が生まれてくる。これが親殺しのパラドックス」


 まさに矛盾している。それだと自分が生まれて来るのか来ないのか分からない。


「でも世界は分岐するんだよ。自分が生まれてきた世界と、親を殺した世界の二つに分れるって考え方。それを並行世界、パラレルワールドなんて呼んだりもするよね」


 多世界解釈。自分が生まれてこなかった世界と自分が生まれてきた世界、二つの世界に分岐する。沙城さんの説明でなら親殺しのパラドックスも両立するわけだ。


「ねえ聖治くん。僕も気になることがあって、さっき聖治くんは過去を覚えていないって言ってたけど、それならなんであんなこと出来たの?」

「あんなこと?」


 力也が見上げるが咄嗟になんのことか分からない。


「スパーダを操って戦ってたことだよ。スパーダを念じればなんとなく操れるって感覚はあったけど、まさかあんな風に動かせるなんて思わなかったよ」

「俺なんて見るまで出来ることすら知らなかったわ」

「えっと、なんでだろ。やろうと思えば出来たというか」

「そう! それが証拠だよ!」

「えっと、沙城さん?」


 それと言われてもピンとこない。それにそんな大声で褒められても。


「香織!」

「香織、さん?」

「か、お、り! そっちじゃないと彼女っぽくない」

「分かった分かった、香織。それが証拠と言われてもだな」

「ううん。そんなことないよ。これは覚えてる。聖治君は未来の世界でスパーダを操ってた。その時からスパーダを浮かせて悪魔と戦ってたもん。めちゃくちゃかっこよかったなあ~」


 ほんとかよ。彼女の脳裏でどんな俺が思い出されているのか知らないが到底できるとは思えない。

 だけど剣を浮かせて戦っていた、か。俺が思い出せない記憶にそれがあるのなら咄嗟にあんな戦い方が出来たのも腑に落ちる。


「それで私の方針だけど、私はロストスパーダが回収できればそれでいいから。それで大丈夫。私の目的は未来を救うこと」


 よかった。沙城さ、香織も殺し合いに参加するつもりはないようだ。そのロストスパーダを集めた後のことはその時話そう。


「聖治、お前が言ってることは嬉しい。だが実際問題たいへんだぜ? スパーダはそれこそ強力な能力を秘めてる。だけどそれを解放するためにはスパーダを獲得、要は誰かを殺して奪わないといけない。俺たちは全員レベル1ってわけだ」


 七本集めればめちゃくちゃ強いが一本ではまだまだ弱い、ということか。


「そういう仕組みも初期の反乱を抑える要因になってる、ってわけだな」

「ああ。そしてある程度強くなったら最後の一人を目指す方が手っ取り早い。よく出来てるよ。魔卿騎士団の推進派はセブンスソードを成功させるために必死だ」


 やつらはこの儀式を成功させるために町一つ支配するほど暗躍してきた、その仕組みも隙がない。


「星都の心配は尤もだ。俺たちは初期状態のゲームキャラクターみたいなもんだ。それでラスボスに挑んでも結果は見えてる。ならどうする?」

「なにか考えがあるの?」


 力也の質問に頷く。俺はみんなの顔を見て、提案した。


「仲間を集める、これしかない」


 星都の言う通り管理人と直に戦ってみて思った。あいつは強い。俺たちが束になっても勝てないかもしれない。でもそれ以上なら?


「他のスパーダを勧誘するってこと?」

「ああ。星都や力也の話を聞いて思ったが、この儀式はスパーダの積極的な協力を取りつけてるわけじゃない。きっとみんな恐れてる。嫌々なんだ。なら俺たちに賛同してくれるはず。俺たちだけでは勝てなくても全員が力を合わせれば勝てるかもしれない。七対一だぜ? 勝機はあるはずだ」


 みんなの顔色を伺う。どうだろう、俺としてはこれでいこうと思うんだが。


「それは」

「どうだ?」


 俺の提案にみんな考えている。そこで星都が顔を上げた。


「勝てる確証はない、が。それくらいしか手はねえか」

「うん。ぼくも賛成なんだな」

「よし」


 二人の賛同は得た。残りは一人。


「香織、手伝ってくれるか?」


 彼女は俺たちとは事情が違う。けれどこの作戦には彼女の協力が必要不可欠だ。

 香織は俺からの頼みにニコっと笑うと大きく頷いてくれた。


「聖治君からの頼みとあらば。それにさっきも言った通り私はロストスパーダが回収できればいいから。最後の一人になる必要もないし、そのロストスパーダもその人が譲ってくれれば問題ない。あ、でもでももっと愛を込めた感じでお願いして欲しいかなあ~」

「ただ、セブンスソードが失敗したらああなるって話だぜ?」

「そんな未来のことよりもまず俺たちが生き残ることだろ、それから先のことはその時考えればいいさ。それよりもどうやって仲間を探すか」

「それなら問題ねえ。スパーダが近くにいれば剣が光る。それで探せる」

「よし、それでいくか」

「ちょっと! 無視しないでよぉ~~~!」


 香織がなにやら言っているが無視していい叫びだ。


 俺たちの目的は決まった。スパーダ七人の協力を集め管理人を倒す。香織はその後ロストスパーダを譲ってもらう。それでセブンスソードを終わらせるんだ。


 みな立ち上がる。方針は決まり俺たちは誰が言い出したわけもなくスパーダを取り出した。ちょうど円になるように立ってスパーダを前へと突き出す。それぞれの剣が中央で重なった。


「星都、力也、香織。。生きるために戦おう。セブンスソードっていう最悪の状況だけどさ、俺たちなら切り抜けられる」


 俺たちで殺し合うんじゃなく、生きるため戦う。


「いくぞ!」

「うん!」

「おう!」

「頑張るんだな」


 俺たちのセブンスソードが始まった。

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