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セブンスソードの戦い方

 条件。戦闘なんて一瞬の間で勝負が着きかねない場面で悠長に条件なんて整えないといけないのか? そんなことしてる間に斬られて終わりだろうが。


「話を戻すけど、最後の生き残りはこれら七本すべてのスパーダを手に入れる。それを以て魔卿騎士団の新たな団長とする。これは魔卿騎士団の新たな団長を作るための儀式ってわけ」

「その魔卿騎士団って、俺たちに襲い掛かってきたやつだよな?」

「そう。魔術と武術を融合した戦闘に特化した裏の組織。その世界ではかなり大きいとこよ。この儀式だってこの町すべてを支配下に置いている。海と山に挟まれたここなら他の組織からバレづらいし、港町がここまで発展したのも魔卿騎士団が裏でいろいろしてたみたい。学生寮があるのもスパーダを住まわせるため、警察も行政も当てにならない」

「そんな儀式に、俺たちが巻き込まれたって? そんな馬鹿な」


 話は理解できる。だけどこんなのめちゃくちゃだろ。


「なんでお前らは黙ってるんだ、怒らないのかよ!」


 星都も力也もほとんど口を開かない。沙城さんの説明に口を挟まないとはお行儀のいいことだが怒るだろ、こんなこと!


「お前、俺とこいつが怒ったり泣いたりしなかったって、本気で思ってるのか?」

「ッ」


 星都の言葉に胸を突かれる。星都の向ける目が今までの苦悩を語っていた。


「したよ、当たり前だろ。怒って怒って、泣いて泣いて。それでも怯えながらもなんとか一日一日生きてたんだよ」

「そんな」


 そんなこと、俺は知らなかった。いつも一緒にいたのに気づきもしなかった、二人が裏で苦しんでいたなんて。


「なんで、話してくれなかったんだよ……?」


 質問に星都は小さく苦笑した。それから小さく息を吐くと、恥ずかしそうに笑っている。


「お前が転校して来てさ、俺たちはダチになった。嫌だろそんな陰気な雰囲気。友達だ、友達でいたかったんだよ。俺もこいつもな」


 星都はそう言うと足を延ばし力也を小突く。力也はその足を小さく払った。

 星都の言葉に胸が震える。二人が苦しんでいる時に俺はなにもしてやれなかった。それどころか無邪気に楽しんでいただけだ。二人の優しさに気づかないまま。

 目に涙が浮かぶ。


「星都、力也……ごめん……」

「いいさ」

「そうだよ聖治くん」


 ありがとう。俺のために胸の内に秘めて。その優しさに体が熱くなる。

 俺は涙を拭き顔を上げた。


「でもさ、こんなの許されないだろ? よく分からないけど危険な状況だと言うのは分かったよ。だからといってこんなことが許されるか? 人殺しの教唆? 強要? よく分からないけど、そんなことしようなんて」

「聖治君、厳密には人殺しじゃないんだ」

「は? だって、現に殺し合いをしろって」

「スパーダは人間じゃなくて、それ用に作られたホムンクルス、人造人間なの」

「……作られた?」


 またとんでもかよ。何度目だよ。


「そう。ホムンクルスという肉体に魂を入れる、そこにスパーダというデザインを施して。聖治君の記憶はその時作られたんだと思う。現代で生きていくための偽りの記憶をね。スパーダというのは生贄でもモルモットでもない。いわば命ある部品、作られた存在なの」


 俺が知っている過去の記憶は全部作り物、セブンスソードという儀式を成立させるために作られた人形といったところか。


「それがセブンスソードの概要。魔剣を持つ者同士が争う、最強創造の儀式」


 彼女が説明を言い終わる。それを聞き終えたあと脱力した。途方もない砂漠に立たされたように頭が働かない。

 七人の殺し合い、生き残るのは一人だけ。そんな不条理と絶望に俺たちは立たされたんだ。


「問題はこれからどうするかだけど」


 これからどうするか。セブンスソードは始まった。すなわちここにいる全員で殺し合えという。

 つくづく、質の悪い冗談だと思う。


「フ」

「聖治?」

「どうかしたのぉ?」

「いや」


 不意に笑ってしまった。そのことを皆から聞かれ振り返る。


「いろいろ考えたけど、突き抜けて笑えてきたよ。だってそうだろ?」


 セブンスソード。めちゃくちゃな状況だ、だっていうのに魔卿騎士団とやらはそれを大真面目にしようとしているんだ。


「七人の殺し合い? 作り物だから従え? 馬鹿げてる。ふざけんな! それにだ、これをしようとしている魔卿騎士団、あの管理人が滑稽だよ」

「なにがだよ」

「あいつは俺たちがお行儀よく殺し合いすると思ってる。こんなことしておいて。自分たちが襲われることを考えてない!」


 話していて溢れてくる。きっと溜まっていたんだろう、こんな理不尽に対する怒りってやつが。


「聖治、言いたいことは分かる。でもお前だって戦って分かっただろ? あいつは強い。あのあと戦ってたら負けてたのは俺たちの方だぞ」

「かもしれない。正直な話、反乱はあいつだって想定してるはずだ。でもだぜ? 悔しくないか? 舐め過ぎだろ! 俺たちに武器まで与えておいて。殺し合いをしろなんて状況にもムカつくがこんなことをしておいて成功すると思ってることに腹が立つ」


 それこそ戦争だろ。俺たちの中でじゃない。俺たちと、魔卿騎士団とのだ。


「殺し合え? 俺とみんなで? するかそんなこと。お前らは最高だよ。敵になるかもしれなかった俺に気を遣って二人で抱え込んで、それでも友達でいてくれた。そんなお前らを殺せるか!」

「それ、本気で言ってるのか?」


 星都と力也が俺を見る。見ればその目には涙が浮かんでいて、もしかしたら俺の目にも浮かんでいるかもしれない。


「友達だろ? やるわけないだろ」


 俺たちは戦わない。殺したりしない。友達を殺す理由がどこにある。そこにどんな正しさがある。


 あるはずがない。


 星都が立ち上がる。静かに近づいてきて、俺たちは抱き合った。そこに力也も加わり俺たちは三人で抱き合っていく。がっしりと相手の身体を掴んだ。

 この友情を壊すなんてするはずない。

 そんな俺たちを香織は優しく見つめていた。


「三人とも、仲いいんだね」

「ああ、最高の友達さ。……3Pでもするか?」

「アホか、気色悪いんだよ」

「ぼくもちょっと」

「ははは……ん!?」


 それはもちろん冗談だけどそれくらい二人は大切な存在ってことだ。それで香織を見るが思わず二度見してしまう。


「ジー」


 めっちゃ睨んでる!


「じゃあ、やるんだな?」

「ああ。セブンスソードに反乱する」


 方針は決まった。俺たちの敵は友達じゃない。


「俺たちはこんな感じだが、沙城さんからなにかあるか?」


 ベッドに座る彼女に振り返る。

 沙城さんは俺たちを見つめていた。思案しているようなその目はどこか迷っているようだ。


「これは、ここで言うつもりはなかったんだけど」


 沙城さんはそう言うと星都と力也を見る。それから確認するように俺を見てきた。本当は俺だけに話したいことのようだ。


「でも、二人を信じて言おうと思う」

「大丈夫だ沙城さん、言ってくれ。二人なら問題ない」


 きっと他には聞かせたくないことなんだろう。だけど今のやり取りを見て考えを改めてくれたようだ。


「これは、私と聖治君のこと」


 俺と沙城さんの? でもそうだよな。セブンスソードのことで頭がいっぱいだったけど彼女もかなり不思議な存在だ。


「ああ、それは気になってたぜ。なぜ聖治を知ってる?」


 沙城さんに星都や力也も目を向ける。沙城さんとは今日会ったばかりなのに俺のことを知っているのは不自然だ。そこにはなにかしらの理由がある。それはいったいなんなのか。

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