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【書籍版】錬成七剣神(セブンスソード)  作者: 奏 せいや
第七賞 未来の君へ、愛よ届け
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失落俺(しつらくえん)、罪・十字架(シンクロス)

「カワラヌオモイガトジタセカイヲツキススム」


 変わらぬ思いが閉じた世界を突き進む。


「タトエソレガハメツデモ、サイゴニキミガワラウナラ」


 たとえそれが破滅でも、最後に君が笑うなら。


 悪魔の周りでは漆黒の稲妻が巻き上がり、ここに最後の希望が現れる。


――光の子。選ばれし者よ。何故汝は堕ちたのか。

 汝の罪は使命の放棄。汝の罰は孤独の牢獄。

 悲しき救世主。恋人を見捨てれば世界だって救えたはずなのに。

 しかし汝は堕ちたのだ、愛故に。

 だからこれはその証。自ら選んだ誓いの代償。変質した希望の光。


 その名を告げろ――


「アラワレロォオ、シツラクエン・シンクロス!」


 現れろ、失落俺しつらくえん、罪・十字架シンクロス


 それは漆黒のシンクロス。刀身は光すら飲み込むほどの黒。あらゆる色を塗り潰すほどの絶対的な黒だった。


 それを見て直感した。あれはシンクロスだ。俺と同じ不完全な十字架。しかし違う。強い思いは時に魂にまで刻まれる。あいつの持ってるシンクロスは持ち主の思いに浸食されたんだ。元は同じだったものだが今ではまったくの別物だと言っていい。いったいどれほど強く思えばスパーダがああなるのか。


 この悪魔は思い続けてきたはずだ、スパーダが変質するほどに。何年も、何十年も。


 ただ一つ、それだけを求めて。


「だとしても、彼女は返してもらうぞ」


 大切な人を奪われた。それを取り戻す。誰が相手だろうが関係ない。


 俺はシンクロスと共に走り出した。その先にいる香織を助けるために。


 悪魔と、激突した。


 互いにスパーダをぶつけ合う。絶対に助けるんだという思いを糧にして。


 悪魔は浮かべた四本で攻め手に持つスパーダで守るという戦法だ。実体を持たない俺では同時使用も複数顕現もできない。だから手数は相手の方が多いが能力の数なら俺の方が上だ。手数で押されそうになる度天志の盾で防ぎ攻勢に転じる。


 互いに相手の能力を知っている。俺たちの戦いは互角だった。


「ゼッタイニ、マモルトチカッタ。タトエ、ドレダケカカロウト」


 悪魔から焦りが見える。その分攻めが苛烈になっていく。五本の剣が暴れ回り俺だけでなく周囲まで破壊していく。五つの能力の暴威。破壊の剣風、その中心となって君臨している。


 強い。多種多様な攻撃。すぐに適応してくる多彩な能力。なにより、俺にぶつかってくる強烈な想い。


 すべてが、強かった。


「カノジョダケハ、タスケルトキメタンダァアアア!」


 悪魔がミリオットに持ち変える。光る刀身の剣先を俺に向け、四方に浮かぶスパーダが各々の光をミリオットに照射している。それによってミリオットはすべてのオーラを纏っていた。


 能力の同時使用、五色の光線!


 ミリオットから一条の光が放射される。


 それは加速し膨大な質量と熱を持ち触れた異能を無効化しさらに物質も崩壊させる。五つの能力が合わさった合体技。

 すぐさま天志の盾を展開し五色の光を受け止めた。


「ぐううう!」


 すさまじい威力だ。盾ごと吹き飛ばされそうになる。衝撃が全身を貫き魂まで燃やされそうだ。 だが俺の天志は七段階に達している。悪魔は五本しか持っていない。異能を無効化する能力を備えているが俺の盾はそれすら無効化する。


 この一色は一本じゃない。みんなの絆が紡いだ集合体だ!

 押しつぶされそうな重圧を耐え、シンクロスに力を入れる。


 耐えてくれ!


「うおおおお!」

「グオオオオ!」


 互いの能力がぶつかり合い、この場が光に包まれる。

 音が、なくなった。


 一瞬の出来事。色と音が世界からなくなり、波のように押し寄せる。そこには膝を付く俺と悪魔がいた。


 なんとか防げた。体に残った疲労が強烈だったことを物語っている。相手も全力だったんだろう、俺と同じように大きく息を吐いていた。


 俺たちは相手を見ながらすぐに立てないでいた。

 すると後ろから放たれる桃色の光が見える。


「なんだ?」


 急いで振り返る。そこにはソファで眠っていた香織、その前で浮かんでいた天志が一段と強い光を発していた。その光が消えていく。


 そして、香織が目を覚ました。


「香織!」


 よかった、目を覚ましたのか。まだぼんやりとしているが俺を見つけるなり飛び上がる。


「聖治君!」

「駄目だ、来るな香織!」


 香織は心配そうに走ってくる。でもここは危険だ、離れていてくれ。

 香織は駆け寄るが、そのまま俺を通り過ぎて行った。


(え……?)


 振り返る。香織は悪魔に駆け寄ると肩に触れ顔をのぞき込んでいた。


「聖治君、もういい。もう戦わなくていいんだよ!」

「グ、ウウ……」


 俺じゃなく、香織は悪魔の方を心配している。


「聖治君、私を見て」

「グウウ!」


 悪魔は立ち上がり体をねじり始めた。後ろに数歩下がり、頭を両手で抱えている。


「聖治君!」

「グアアアア!」


 追いかけようと香織も立ち上がる。だが悪魔の体から突風とともにカリギュラが放たれると香織は吹き飛ばされてしまった。


「香織!」


 くそ! まずはあの悪魔を倒さないと。香織があぶない!

 俺は走りスパーダに念じた。


「天黒魔!」


 シンクロスが紫に輝く。その刀身でカリギュラを切り裂き道を作った。


 赤いオーラの切れ目を走っていく。悪魔の周囲はスパーダが竜巻のように回転し来るものを阻んでいた。


「ドウシテ」


 その中心で、悪魔が叫んでいく。


「ナンデ、オレバカリコンナメニアワナクテハナラナイ」


 うめき声に混ざって、悪魔の言葉が聞こえてくる。


「ドウシテ、ヒトリデタタカワナクテハナラナイ」


 悪魔は完全に暴走していた。コンビネーションを無くした暴力が渦巻いている。その一つ一つが猛威となって襲ってくる。


「スベテガイヤダッタ。スベテガクルシクテ。スベテガニクカッタ」


 その嵐の中を踏破していく。一歩ずつ近づいていく。

 その度に、悪魔の想いが一層強く叩きつけられる。


 悪魔が叫ぶ。俺は接近するもグランの斥力で跳ね返されてしまった。


「くそ!」


 何度でも挑戦してやる。俺は再び走った。飛んでくるスパーダを防ぎ、躱し、なお前進する。


「ソレデモ……キミダケハ!」


 時間がない。


「スクウンダ!」


 行くしかない!


 俺は地面を蹴り宙を跳んだ。悪魔のはるか頭上までいくとグランの重力で一気に降下する。


 浮遊するスパーダもそれに反応し俺を迎撃するために迫り来る。俺はスパーダを天志に切り替え弾いていく。そのまま悪魔を目指した。


「うおおおおお!」


 シンクロスを紫に変え、悪魔もシンクロスを手に取った。同時にスパーダを突き出す。

 俺と悪魔、二人のスパーダが相手を突き刺した。


「がああああ!」

「グウウウウ!」


 腹にスパーダが突き刺さる。俺のスパーダは悪魔の胸を刺し、悪魔にぶつかった後地面に着地した。剣を引き抜き、後ずさる。


「聖治君!」


 俺たちに向かって香織が叫ぶ。


「がああ!」


 激痛が頭を飽和させる。すぐさに天志で治療し傷口を桃色の光が覆っていく。俺はピンク色のシンクロスを地面に突き立て体を支えた。


 だが、悪魔にそれはできない。


 奴の傷は天黒魔で付けたものだ、どれだけ回復力があってもあれは治せない。両手で傷口を塞ぎもがき苦しむもその場に両膝をつく。浮かんでいたスパーダが地面に落ちていった。


 勝負ありだ。悪魔の体が黒い灰のように宙に散り始めていた。


 あれほど暴れていた体が抵抗を止める。空を見上げるその表情から、一つの涙が流れた。


「カオリ……すまない」


 そのまま前に体が傾いていき、地面に倒れる。体は失われていき最後の欠片も宙へと消えていった。


 倒れた場所には悪魔の魂が浮かんでいる。


 その光は俺へと近づいてきた。スパーダを得た時と同じようにその光は俺の体に溶け込み一つとなっていく。


「あ」


 そこで思い出す。すべてを。ようやく、俺は一つに元に戻ったんだ。シンクロスの欠けていた鍔も復元し完全な十字架へと変わっていく。


「あ、あああ」


 すべてを思い出した。分かたれていた魂が合わさることで欠けていた記憶が補完されていく。


 だけど、それは苦痛だった。


「あああああ!」


 混濁する意識の中で全身が壮絶な思いに浸食される。


 知らない。俺はこんなの知らない! けれど知っている。何十年という孤独の記憶が、感情が、体を焼き切るほどに湧き上がる。


「ああああああぁああぁあああ!」



 涙が溢れ俺は号泣していた。悲しくて、苦しくて、辛かった。すごく辛かった。誰にも相談できなくて、すべてが敵だった。


 ずっと、一人だったんだ。


 知らない真実が、俺を斬り付けてくる。

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